スタート レイジ編
一方、その頃……(定番のアレ)
寝てた……のか? 目を開けると、見覚えのない木の天井が俺を見下ろしていた。ヤパンの屋敷……では無いな。匂いが何というか……ジャングル臭い。それに蒸し暑くて……汗が滝のように流れていく。
「人間! 起きたんだね!」
聞いてるこっちが元気になりそうな声と共に、ぴょこんと誰かが覗き込んできた。エメラルドのように煌めく瞳に、ニコリと笑う口から鋭い犬歯が覗いている。髪形は黄緑色のハーフアップで、人間の耳が無い代わりに犬の耳が頭についている。
この女の子は……見るからに人間ではなく亜人、その中でも獣人……なのか?
「ちょっと待ってて、義手と義足を持ってくるよ!」
「義手と義足? 貸してくれるのは嬉しいけど……あっ、おい!?」
行っちまった……弱ったな、この世界の義手や義足は大抵魔力や闘気を使って動かすものだ。俺には使う事が出来ないというのに……
「連れてきたよー!」
連れてきた……? さっきの獣人の子が連れてきたのは見覚えのあるモブ顔に三つ編み、白衣って……
「はーい! 手足が無い人間って聞いてきたけど、やっぱレイジだよねー?」
「ヘンジ!? なんでここに!? ここはやっぱヤパンだったのか!?」
「いやいや、違うよー。とりあえず、私も忙しいから義手と義足付けちゃうね」
「あれー? 知り合いだった?」
ヘンジは素早く俺の服を脱がして義手と義足を取り付けていく。俺の頭にコード類を手際よく張っていき、手にしているタブレット型の機械を操作していく。義手と義足を取り付けてくれるのは助かるけど……何故、ヘンジがこんな所に?
「ライナ。この人間は時間がかかるから、他の人には待つように言ってくれる?」
「りょーかい!」
獣人の子は勢いよく外へと駆け出していく。玄関にドアが無くて、暖簾のような布がかかっているだけ……ここは何処なんだ?
「さて、何故レイジが居るんだい?」
「俺が聞きたいくらいなんだけど……というか、ここ何処?」
何となく予想はついているけど、一応聞いてみないとな。もしかしたら、ヤパンではないだけでハインリヒの敷地内かもしれないし。
徐々に右腕らしき感覚が、体の感覚に追加されていく。作業は順調そうで、タブレットを注意深く見ながら返答してくれた。
「ここは亜人の国ヴァルトにある私の出張診療所を担った研究所だよ。因みにこの機体はヤパンにある試作品ではなくて、私の意識だけを飛ばした非戦闘タイプだから、戦えないよ」
「戦えない……って、どういう事だ?」
まるで俺が戦うために連れてこられたみたいな……
「あれ、聞かされてないのかい? ヴァルトは今、魔王軍から襲撃を受けててね。状況は4:6でヴァルトが不利。死傷者も少なくは無い。その打開策として風の守護神様が人間を連れてくると言ったんだ。まさか君とは思わなかったけどさ」
(オウ、ソウイウ事ダ)
頭の中から声が響き、入り口の方から機械音のような羽音が聞こえてくる。その方向に目を向けると動くのが速すぎて止まって見える翅、緑色で艶のかかった甲殻に全身が覆われた姿で頭は蜂の頭部のようになっている。
「む、虫ぃぃぃいい!?」
(アアッ!? 誰ガ虫ダ、ゴルァ!?)
本日の省かれシーン
レ:目の前にいきなり人よりデカい虫が現れたら、頭では神様と分かってても驚いてしまうのは分かってほしい
ヘ:結構、見かけるけどね
風:意外ト凹ムゼ……
次回は勿論、メイド編……?