意地を張って
またもや遅くなりました、申し訳ありません!
この人工魔核の制限時間は、約10分。魔法を使えば時間は短くなるし、人工魔核が無くなった瞬間に神経に激痛が走るだろう。その間に、フェルが壁のこちら側に来てくれるのを祈るしかない。
空になった弾倉をその辺りに捨てる。今はハンドガンをリロードする必要は無い。時間を稼ぐ手段だけなら、体に叩き込まれた。
「うぐっ!?」
女の姿が消え、強烈な衝撃が腹部を襲う……が、しかし
「へえ……今のを受けて、踏ん張れるのね?」
一瞬だけ足を魔力で強化して、なんとか堪える。体の内側がグッと潰されて、内臓が口から押し出されそうになる感覚。歯を磨り潰すかのように噛みしめて、女を不敵に睨む。
相当痛いけど、表情に出さないようにする。相手に悟らせなければ、相手にはノーダメージのようなものだ。
「くっ……らえっ!」
無理矢理、剣を横に薙ぎ払う。女を後ろにひょいと避け、こちらを見て口の端を吊り上げる。
こっちの考えが見透かされているような、嫌な表情だ。落ち着け……不安だからと攻め込んで、痛い目を見るのはこっちだ。
「何故、トールに従うのかしら?」
「え……?」
「何故、貴方がトールの言う事を聞いているのかしら? 神に匹敵する力を持つメイドに、この世界で勇者と呼ばれた英雄、そこの女の子も一般人とは言えない3属性持ち……ハッキリ言って、シェーンちゃんを倒せるわ? 神様とかになりたくない?」
女と目が合うと、俺の体は石の様に固まった。力を入れてもビクともしない。ゆっくりと近付いてきて、俺の剣を奪い、投げ捨てる。辛うじて目だけが動く。フェルの方を見ると、ネルガの拳によって壁に小さなひびが入り始めている。
「ねえ……私と一緒に来ない?」
ほんの少し、口だけが動くようになった。甘い誘惑が耳元で囁かれる。女の声がゆっくりと脳に浸透していく。
神様になれるのか……俺が? こいつと一緒に行けば……?
「お断りだ、バーカ! 俺はトールの事は何も知らないけどな! 自分が守ってるルールに縛られながらでも、破ってでも、このハインリヒとシェーンを守ろうとしてるんだよ! それを手伝って何が悪い!」
「あら、そう。なら邪魔出来ないように、死になさい」
女は静かに息を吐き、俺の目の前に手を向ける。膨大な闇の神力が集まっていく。俺の使える魔力を全て使ってでも、防ぎきれそうにない。フェルとネルガの方は……あと数分かかりそうだ。レオも起き上がりそうにない……これは今度こそ、駄目なのだろうか?
もう殺されかけるのも何回目だ? 調子に乗って、自滅して……全然成長できていない。
「消し炭になりなさい」
フェルに殺されかけた時も……こんなビームだったな。いや……諦めない。目・太陽光線で抵抗してやる。魔力は……神力を貫通するんだったら、これで相打ちにしてやる。
(いいえ、貴方は私が護ります!)
この声は……トール? 目・太陽光線を放とうとした時、俺の目の前に青く美しい鳥が現れ雷のバリアで闇の魔力を防いでくれる。完全に防ぎきり、青い鳥は大きく翼を広げて一声鳴いた……いや、これは最早咆哮のようだ。
トール……何故、ここに?
(レイジさん……話は後です。今は残り、数分を耐えましょう)
「トール……めんどくさいのが来たわね」
Q.前話のレイジの盾、魔力なのに神力防いでるのミス?
A.仕様です