俺はお前の友達だ
自分でミハエルかっけぇとか思いました←
ミハエルが名乗り、食堂の殆どの人間の動きはピタリと止まる。1人だけ、止まらずに出口へと動く影があった。俺を狙ったのか、ミハエルを狙ったのか……ここは無理やりとか、俺の自己満足とか悩んでる暇は無い!
「フェル!」
「空間 : 転移」
フェルは俺以外に聞こえない小さな声で、デバッグ魔法を唱える。フェルの足元に紫の転移門が現れ、フェルは重力に従って転移門へと落ちていく。
聞こえた呪文はデバッグ魔法の名前。それだけ、フェルも焦ってるって事か。
「ぐぇっ!?」
「レイジ様を傷つける者は許しません!」
出口へと動いていた人影の真上に、紫の転移門が現れる。転移門からフェルが飛び降り、人影を完全に取り押さえた。ミハエルの方を向くと、ミハエルは頷いてから周りに呼びかけた。
「皆の者! 暴漢は我が友人の従者が取り押さえた! 落ち着いて食事に戻ってくれ」
ミハエルが呼びかけると、周りの客は落ち着きを取り戻す。客が完全に落ち着いたところでミハエルが料理を食べずに料金を支払い、ハインリヒ魔法学園の中庭に出る。フェルが取り押さえた暴漢は貴族の服を着た豚……と言った感じの醜悪な男だった。フェルはそんなデブを片手で汚物をつまむように持ち上げている。
なんだコイツ……さっき殺されかけたゴブリンの方がマシな顔っていうか……本当に人間なのか疑ってしまう。
「離すブヒ! 悪いのは車椅子の男だブヒ!」
「黙りなさい」
「ぶぎゃぁぁあ!?」
俺を睨んで騒ぎ立てる豚男に、フェルは容赦なく拳を顔面に突き立てる。フェルの放った一撃は急所など関係なく、豚男に鼻血を出させて気絶させる。
身体強化を使っていないはずなのに、赤いオーラが立ち上って見える気がする。不機嫌そうにしてるし、フェルは何をそんなに怒っているんだ。ご飯を食べ損ねたからか?
「ミハエル様、この男はどう致しますか?」
「街中で俺の友人に魔法を放ってくれたんだ。どこの貴族かは分からないが、城へと連れていきたい。フェルさん、そのまま取り押さえて欲しい」
「構いません。マリア様、レイジ様の車椅子をお願い致します」
「は、はい!」
フェルとミハエルが並んでハインリヒ城へと歩き出す。その後を、マリアちゃんが俺の車椅子を押してついて行ってくれる。
マリアちゃんはミハエルの妹と言っていた。それなら王女様だと言うのに、こんなことさせられて嫌ではないだろうか……
「さっきのフェルさんの魔法は空間転移……であってるか?」
「はい、緊急事態でしたので使わせていただきました」
「そうか……転移の事は黙っておこう。フェルさんとレイジなら大丈夫だと思うが、城の家臣に面倒くさい奴がいるんだ」
「かしこまりました」
「レイジ、マリア、お前たちも黙っておくんだぞ?」
「わかりました!」
「……わかった」
俺の覇気の無い返事に、ミハエルは首を傾げる。考えれば考えるほど、元気が無くなってきた。落ち着いたら、フェルと話し合おう……
◆
ミハエルの案内で、俺達はハインリヒ城の謁見の間へと通された。ミハエルは下座側のソファの真ん中へと座る。俺はミハエルの座るソファの横に車椅子を設置され、ミハエルと俺の間にマリアちゃんが座る。フェルはミハエルが呼び出した兵士に豚男を預け、俺の車椅子の後ろに待機した。
「ミハエル、こんな早い時間に私を呼ぶとは……何があったのかな?」
扉から、優しそうな顔つきで髭を蓄えたおじさんがミハエルに話しかけながら、俺達から見て右側の一人掛けソファに座る。多分この人が、ユリウス・ハインリヒ王だろう。その後ろから、マリアちゃんが成長したような姿の女性が、ユリウス王の隣に座る。多分、来る途中に名前を教えられたクリスティーナ王妃か。その後ろから有名な音楽家がよくつけてる白いかつらの髪形をしたやせ細った男が俺を鋭い目つきで睨みつけてくる。
「お忙しい中、申し訳ありません。要件を話す前に、俺の友達を紹介させてください」
ミハエルの言葉にユリウス王とクリスティーナ王妃の視線が集まる。男が俺を睨みながら、口を開いた。
「身なりも汚い、マントは外さない、お坊ちゃん。ご友人は選んでいただきたいものですな」
男の悪意に俺の喉が詰まる。汗が滝のように流れ出し、呼吸が浅くなり視点が定まらない。転生前に経験した緊張。手足があったらガクガクと震えだしていただろう。
そんな俺に助け舟をだしたのは、意外にもユリウス王だった。
「バルトロ、そんなに邪険にするんじゃない。少年よ、名前を聞かせてくれるかな?」
ユリウス王の表情は優しく、しっかりと俺の目を見ていた。
心が少しだけ落ち着く。呼吸も少しマシになった気がする。
「レイジ……です。数々の無礼をお許しください」
「気にすることは無いよ。私の名前は、ユリウス・ハインリヒだ。よろしく、レイジ君」
ユリウス王は俺に右手を差し出した。その右手を俺は当然取ることが出来ない。バルトロと呼ばれた男の顔が険しくなり、俺の手足の事情を知らないミハエルとマリアが俺の様子を伺う。
「フェル……マントを取ってくれ」
「レイジ様……しかし、よろしいのですか?」
フェルの心配そうな問いかけに、俺は静かに頷いた。フェルが俺のマント、と言ってもただの大きめの布を取り上げる。血に塗れた服、斬り落とされた手足……今の本当の俺が晒された。
「これは……すまなかった」
「いいえ、大丈夫です」
「大方、無謀と勇気を履き違えるような冒険者だったのでしょう。自分一人では何も出来ない、生きるだけで人に迷惑をかけているような存在だ」
バルトロの言葉が俺に突き刺さる。生きてるだけで迷惑をかけてる存在……そうかもな、フェルにもミハエルにもマリアちゃんにすら迷惑をかけてる。何も出来ない……無力感が心を締め付ける。
フェルは目にも止まらぬ速さでバルトロの首に腕をかけた。今までのフェルからは考えられないほどに、表情が怒りに満ちている。
「ひいぃ!?」
「いい加減にしろよ、貴様……貴様にレイジ様の苦悩がわかってたまるか!」
「大丈夫だよ、フェル。事実だから」
フェルは腕にギリギリと力を込めていく。フェルが怒ってくれたのは正直言って嬉しいが、相手は王族の関係者だ。彼女を暴走させてはいけない。俺の指示を聞いて、フェルは乱雑にバルトロを突き飛ばした。
「良い従者だな。バルトロ、君が悪い。少し外に出て頭を冷やしてくるんだ」
ユリウス王の言葉に、バルトロは大きく目を見開いた。ゆっくりと立ち上がると、再度俺を強く睨みつけ謁見の間を出ていった。
「ミハエル……バルトロが言ったことも事実だ。俺は1人じゃ何も出来ない……友達って言葉は撤回した方が良い。もしかしたら、俺が友達って言葉を利用するかもしれないんだぞ」
ネガティブな思考に囚われて、ミハエルに八つ当たり気味の言葉を投げてしまう。ユリウス王は真剣な表情でミハエルを見つめる。
しかし、ミハエルはため息吐いて立ち上がり、俺の前でしゃがんで俺の足に手をのせた。
「あのなぁ……俺の事なんて大いに利用してくれ。俺はお前に助けられし、お前を助けたい。バルトロの言ったことなら気にするな。1人で何も出来ないなら、2人で何かをやればいい」
ミハエルから帰ってきたのは暖かい言葉だった……俺の足の上にもう一つの小さな手がのせられる。手の主を辿ると、マリアちゃんが俺に笑いかけている。
「良いか? レイジ、よーく聞けよ。俺にとって、お前は初めて対等な友人なんだ。俺が王族って知っても態度を変えないで居てくれる友人なんだ。お前がなんと言おうと、誰がなんと言おうと……」
ミハエルが立ち上がり、車椅子の俺の目と合わせる。両手が肩をがっしりと捉え、ミハエルは俺に笑った。
「俺は、お前の友達だ」
すっかり忘れてたレイジとミハエルとマリアの簡単な容姿(今更)
レイジ
黒髪黒目
目はつり目
髪は地球の頃より少し短く、天パ
ミハエル
金髪碧眼
目はキリッとしたつり目寄り
髪形は整ったショートヘア
マリア
金髪碧眼
目は穏やかなタレ目寄り
髪形は、背中にかかる位のストレートヘア