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異界戦記  作者: ネムノキ
『門』編
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4

 南部戦線にサンド皇国が加わった二日後、聖教国から召集がかかったので、早朝から護衛を何人かとゲン爺とボルタ、サーペント大公を連れて西部戦線の仮設本部に向かった。途中で見た西部戦線の陣地は、魔法使用を前提としたもので新鮮に感じられた。

「どう見る? 軍事大国にしてはなめているとしか思えないのだが」

「確かに。特に、砲に対して脆弱じゃな」

「空爆でもどうにかなりそう」

「え? え?」

 面々の意見はこんなところだった。大公はあてにならないな。

 車を降り、ひときわ大きいテントに入る。すると値踏みするような視線が突き刺さった。それだけで真っ青になった大公はもう駄目だろう。古めかしい鎧を着た連中の中央で、困ったように顔をしかめている白いローブを着た男に誰何されたので、答える。

「魔導帝国派遣軍司令官アイリス中将だ。暫定で東部戦線と南部戦線の指揮権を預かっている。以後よろしく」

「ガンド連邦派遣軍司令官ゲンドーラ・ファガス海軍将じゃ。担当は南部戦線。ま、仲良くやろうや」

「サンド皇国派遣軍司令官ボルタ・サージェント。南部戦線に参加中。出来れば、お手柔らかに」

「さ、サーペント公国大公シングル・サーペントです。な南部戦線の後方支援ををしております。はいぃ……」

 ここでなにやら集まっている連中が騒がしくなったが、白ローブの男が右手を軽く挙げた瞬間静かになる。

「ご苦労。私は今聖教連合軍総司令官のタウロス大司教だ。アイリス中将は今後正式に東部戦線および南部戦線の指揮官となる。皆も、そのつもりで軍議に参加するように」

 騒ぎこそ起こらなかったが、集まっている連中の目には不満の色がありありと浮かんでいた。

「では、全員集まったようなので、会議といこうか。まず、現状だが、神々の敵が門の向こうから現れるまで三日ほどだ」

 タウロスの言葉に連中は真面目そうに、嬉しそうにうなずいている。ここで私は内心舌打ちした。外務省の報告によると、間違いなく今回の事の起こりは各国に通達した、ということだったが、どの連中もそんなことを知らないようだ。恐らく、握りつぶされた。だとすると、この連中は事の厄介さを分かっていない。おまけに、ここ百年は西方大陸でまともな戦争は無かったから、どの連中も戦争を甘く見ている。こいつらと一緒に行動すると、心中するのは間違いないだろう。

「それで、大まかな作戦だが、東部、南部戦線は守りに集中。我々本隊の戦いを見届けるように」

 意外なことに、私たちには事実上の戦力外通告がなされた。外務省が頑張っているのは聞いていたが、私たちから切り出す必要が無くなったのは嬉しいことだ。何かがひっかかるが。だが、他の連中の侮蔑の視線が不快だ。中には、これみよがしに笑っている奴もいる。私は、神妙な表情を崩さずに言った。

「それは楽で良いのだが、航空支援なども良いのか?」

「要らぬ。むしろ、こちらの攻撃に巻き込んでしまうだろうからやめろ」

 ここでまた連中は笑う。すごい自信だな、と言いかけたがやめる。楽が出来るなら、それに越したことは無いのだ。

 その後は本隊の作戦会議が主だったが、これがひどい。どいつもこいつも先陣を切りたがり、まともな作戦など何ひとつ無い力押しときた。こんなので大丈夫なのか? とゲン爺とボルタと顔を見合わせたが、それに気付く者も無し。正直、何のために来たのか分からない。だというのに、昼食時になれば牛のステーキやらガチョウの丸焼きやらという無駄に豪華な食事を摂りながら作戦にもならないことを話し続ける。訳が分からない。大公曰く、貴族の話し合い、となるとこんな感じらしい。そんな話をしていても咎められない程度にはうるさかった。というか、仮にも友軍なのだから殴りあうなと小一時間程問い詰めたい。そんなひどいものだった。

「では、作戦はこんなところだろう。では、解散」

 その言葉が出たときには、空が赤く染まっていた。

「ああ、東部、南部戦線の四人は残ってくれ。話がある」

 帰ろうとすると、タウロスがそう言った。四人で顔を見合わせて、タウロスの方に向かう。他の連中がテントから賑やかに出て行った後、タウロスは話し出した。

「各国に今回のいきさつについて通達したのは魔導帝国だということは知っている。諸君は、その内容を信じるか?」

 質問の意図がいまいち分からなかった。四人で顔を見合わせたあと、全員頷く。

「そうか、なら良い」

 タウロスはそう言って黙り込む。ますます意味が分からない。

「何か不都合が?」

 耐え切れず、私は口を開いた。

「いや、何の不都合も無い。ただ、そうだな……。あの情報に付け加えるとしたら、我が国は既に国際連合と和平交渉を行ったのだ」

 その情報は初耳だった。だが、それでも未だ戦争が続いている、ということは決裂したのだろう。

「だが、中華連邦の反対が酷くて流れてしまった。注意しろ、あいつらは強欲すぎる」

「いまいち話の要点が分からないのじゃが」

 ゲン爺が言う。私もそれは全面的に肯定だ。

「そうあせるな。我が国では異世界の軍隊が門を確保した後こちらに来る順番を知っている」

 それだけの情報を掴んでいることに驚いた。と同時に話が見えてきた。

「一番初めが中華連邦軍なのだな?」

「そうだ」

 タウロスはうなずく。

「正確には、一番目は中華連邦と統一朝鮮。そして二番目がロシアと日本で三番目がアメリカとブリテン。ここまでは掴んだ」

 意外と聖教国は諜報力があるのだな。そんな場違いな感想を抱いた。だが、これではっきりした。

「連合軍は、第一陣を全滅させるつもりだな」

 隣でボルタと大公が目を剥いた。

「そうだ。そして邪魔者がいなくなったところで第二陣のロシアと日本の連合軍ととりあえず休戦協定を結ぶ。そこから和平工作を進める、というのが今回の作戦だ。ただ……」

 そこから先をタウロスはいいづらそうに口をつぐんだ。

「ただ、どうした?」

 ボルタが尋ねる。

「本国の見通しは甘すぎる。恐らく、我々も全滅するだろう。そうなれば、そもそもの休戦協定が結べん。だから、もしそうなった時は、諸君らにして欲しい」

 人の視線を怖い、と思ったのは久しぶりだ。それほど、タウロスの視線は力強いものだった。

「要するに、尻拭いをしろ、ということか」

「そうだ」

 嫌味にも動じない。全く、面倒なやつだ。特に、リスクはあるが私たちにとって悪い話ではない (良い話でもない) 所が、なお面倒だ。私は、ため息をひとつはいて答える。

「後で外務省に裏付けをさせるが、それで貴公の話が本当だと分かれば、その話受けよう」

「本当か!」

「ただし、聖教国の外交官を何人か寄越せ。そいつらに停戦交渉をさせるが、私たちはあくまでその仲介をするだけ、という立場を取る。それらを呑むのが条件だ」

「それなら大丈夫だ」

 タウロスは即答する。まあ、妥当な所だろう。

「では、任せられた」

「よろしく頼む」

 そうタウロスは深々と頭を下げた。



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