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帝国、連邦、皇国の三国で同盟が結ばれた時点で、聖教国から諸国に異世界の技術が流出していたことは明らかとなっていた。だが、それがどのような技術かまでは、ほとんど掴めないうちに諸国に分散してしまった。だから、大本に探りを入れる必要がある。三国の首脳部はそう考えた。だが、単純に聖教国や聖教国に情報を提供したロシアに探りを入れると、聖教国に、ひいては諸国に情報を流出させた連中に勘付かれる可能性がある。だから、その目くらましをする必要がある。
『なるほど、視察ですか』
『ええ』
サトウは顎に手をあてて考え込む。目くらましの為には、派手に動く必要がある。だから、私が異世界に行って色々な情報を集めることになったのだ。
『現時点では難しいと思いますよ?』
サトウはそう答えた。
『少なくとも、聖教国と国際連合との間で停戦協定がなされるまで不可能なことは承知している。だが、そうなった後を仮定して考えて欲しい』
そう言いながら、どうしてこうなった、と頭を抱えたい気持ちで一杯だった。私は軍人であって外交官や大使ではない。そんな仕事は管轄外だ。本国にそう言ったが、無駄だった。
『ふむ……。そうですね、それなら出来ないこともないでしょうが、恐らく国連側からこちらの国の視察団を受け入れる必要が出ると思いますよ?』
『なるほど』
私は考えるふりをする。その程度、想定した中では簡単な条件の方だ。なので、当然答えも用意している。
『魔導帝国は刺激が強すぎるだろうし、サンド皇国は環境が厳しすぎるな。恐らくガンド連邦でなら可能だと思う』
『色々疑問が湧いたのですが、良いですか?』
『良いぞ』
そう答えるとサトウは次々と質問してくる。
『魔導帝国は刺激が強すぎる、ということですが、どのような国なのですか?』
『まあ、一言で言うと混沌、だな』
『混沌?』
『特に、人種だな。そちらの世界では人間という種族は単一種らしいが、我々の世界では違う。我が国では、そんな百種以上の人類種が共生していてな。中には形が決まっていないものや、私たちと違って無機系の種族もいる。当然、文化や美意識も異なっているのだ。そんな所に単一種としか暮らしたことのない人を受け入れるのは、正直怖い』
『……なるほど』
サトウは何か思い当たる節があったのか私たちをまじまじと見ながらしきりに頷いている。
『では、サンド皇国は過酷、ということですが、どんな感じですか?』
『それは僕が答えるよ』
ボルタが右手を軽く挙げて答える。
『まず、国土の半分が砂漠で、残った所もとにかく暑い。しかも、砂漠では時々魔物が大量発生しては暴れるから、視察する地域によっては安全が保障できないね』
『なら無理ですね』
サトウはあっさりと言った。
『それで、最後に出て来たガンド連邦とは、多分国なのでしょうが、他国の人間が視察の受け入れなど勝手に決めても良いのですか?』
そう言ったサトウの表情は、怖いくらいに真面目なものだったが、気にせず答える。
『同盟国な上に許可は取ってある。というより、肝心のガンド連邦自体から視察団があるなら受け入れたい、と言ってきていてな。押しとどめるのが大変だった』
と、本国の連中が何人も言っていた。それに、三国の間で異世界関係で手に入れた情報は共有するという条約が結ばれているから、別に三国の誰が何を担当しても良いことになっている。まあ、その中で私が貧乏くじを引かされた訳だが。畜生。
『なるほど。……なら可能性はありますね。その要望は国連に知らせておきますが、良いお返事を御期待下さい』
『頼む』
本当に、頼む。
これにて前半部分終了です。