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聖教連合軍五十万は数日で敵と共に蒸発。残った僅かな連合軍はほうほうの体で西方戦線にある仮設本部に逃げ帰るが、そこにはタウロスもうるさかった連中もいなかった。西部戦線はその大部分の兵力がヌドラ丘陵に抽出されていたため壊滅、再編成もままならず、兵の脱走が相次いでいる。文字通り、全滅したと言って良いだろう。
だが、敵の被害も相当なものだった。少なくとも光の柱が現れる前、十万人はヌドラ丘陵に存在したのは確認されている。戦車も少なくとも百両はあり、砲はそれ以上だった。だが、その全てが蒸発し、こちら側に存在する異世界軍は消滅した。その影響か、本格的に異世界軍が門から出てきたのはあれから一週間も経ってのことだった。
「うーん」
その報告が上がった日、私は、サーペントで借りている廃商館の一室で書類と格闘していた。第三陣五万人の編成が終わり、東方戦線の後方の都市プランに向かっているためその準備、本国へヌドラ丘陵の戦いの後の経過報告、情報部が集めてきた情報の山。そして連邦と皇国との会議用の資料。どれも重要なため手を抜けない。愛用の電卓がうなりを上げる。
「追加です」
ようやくあと少しとなった時に、ここ数日書類運び係と化しているトーファ少尉 (陸軍士官、女性、ドワーフ族、三十歳彼氏有り) が無情にも追加の山を持ってくる。
「ああ、ここに置いてくれ」
私は、背は低いがいつ見ても良い筋肉だな、と現実逃避しながら先ほどまで山のあった場所に置くよう指示する。
「パソコンが欲しい。君もそう思わないか?」
私は雑に書かれた計画書を不可の山の上に置きながらトーファにぼやく。
「私もそう思います」
トーファは深くため息をつきながら山を机の上に置いた。
「ざっと暗算してみたのだが、パソコンがあればこの書類の七十二パーセントはデータでのやりとりで済む。そうなれば精神的な圧力は減る上に、経費も削減出来る。良いことずくめだと思わないか?」
「でも、技術流出防止法がありますし、パソコンを使えるようにするには情報、エネルギー関係のインフラの整備が必須ですよ?」
「そうなんだよな……」
私はため息をつきながら次の書類を見る。内容は良いが計算ミス。訂正して再考の山へ、と。
「私も毎日書類運びはつらいですけど、この一枚一枚に命がかかってますからね」
「だな。お互い頑張るしかないか」
「ですね」
二人で苦笑する。
「あ、この山は問題なしだから持って行ってくれ」
「分かりました」
一番右のひときわ高い山を指差して言うと、トーファは軽々と山を抱えて部屋を出る。
「それでは」
その後、消費期限の切れかけているレーションのクッキーで夕食を済ませながら山を片付ける。これで終わりか、と最後の一セットに取り掛かる。
「ん?」
だが、それはとんだ爆弾だった。