第一章 風が吹く前
ここは無限に等しい空間のとある次元の世界に存在する
地球と言うちっぽけな場所。
そこではあるときから現在まで地球上では人間という生き物が
地球という場所を支配していた。いや地球という一つの命までもを
支配しているといっても過言ではなかった。
ただ、表面上支配しているだけだった。
そして現在支配された地球は人間という生き物を具現化したかのような
色に染まりつつあった。
これはそんな場所、世界の、素粒子にも等しい小さなお話し。
人間の「歴史」が出来て2000年も過ぎていた頃
日本という国があって表面上は平和な国として存在していた。
その平和な国には沢山の闇があったけど、
闇が明るみに出ることは当然なかった。
当然、国があるのだから「常識」もあって
それにそぐわない「常識」からはずれた「普通」の人間がいた。
彼はごくごく「普通」の人間であった。
いや、どちらかというとかなり優れている人間だった。
しかし、幸か不幸か彼はこの国の「常識」には適さなかった。
少年時代から「常識」からは外れた物として扱われたが
運動をすれば、全国大会に出るくらいはできたし、
勉強をすれば、かなり優れた成績はだせた。
ただ一つ、「常識」に収まればこの国では十分やっていく能力を持っていた。
しかし多少の「常識」外れが許されたのは、学生、いわゆる子供の時までだった。
当然大人になれはこの国の「常識」の中でのみ存在は許されなかった。
彼は仕事に就く事は出来たが、
仕事を続けることができなかった。
無理をしてでも彼はこの国で「常識」のなかで必死に「人間」であろうとした。
しかし、当然無理を重ねて必死に「人間」であろうとした彼は
日々力を失って、やがて抜け殻のようになっていた。
気が付けば、彼は何かにのっとられたのか、
それとも彼の意思だったのか
彼の目の前には彼によってもたらされた
夥しいほどの「死」が山積していた。
なぜこんなことになっているのかは彼にもわからなかった。
自分がなんで生まれてきたのか。
なぜ自分は普通の人間のようになれないのか。
そんな悩ましい日々をすごして、あがいていた彼ももはや限界だった。
この世界で人間として生きていくことが自分にはできない。
そうなれば当然彼に居場所は無かった。
彼は人間として生きていくことをやめてしまった。
最後に少しだけ今生を堪能して彼はそっとこの世を去った。
そのはずだったのだけれど、彼は生きているのか死んでいるのか、
科学的には生きていた。
だけれどもう彼には目的なんてなくて
目指す場所ももうなかった。
だだ強いて目的があるとすれば、もう一度死に場所を探すことくらいだった。
彼は、この国が苦手だった。
鉄とコンクリートと電磁波に囲まれた「密室」のような
この国が。
彼は、この国が怖かった。
あたりまえのように生まれた時から決められた
自分の目の前に選択肢はあれど方向は統一された
「常識」という見た目が華やかなだけの一本道。
だからせめて死ぬのなら、そんな場所から少しでも遠く離れた場所で
今度こそこの世に別れを告げたかった。
彼はとある山を、道なき道を奥へと進んでいった。
少しでもこの国の人間から離れた場所で眠りにつくために。
全く縁もゆかりもない場所だったのだがなぜか彼には死という目的より
不思議ななつかしさが頭にあった。
なんだか足どりも誰かに呼ばれるように、無意識にある場所に向かうように
進んでいた。
そして、道なき道を進んでいたはずの彼は
深い山奥で人間なんかがいるような場所ではないのに
広く開けた場所に出た。
見渡してみてもここに通じる道はなかった。
ここは?
そう思ったとき、何処か遥か遠くから風が吹いてきた。
客観的にはもちろんただの風だったのだが
彼にとっては違った。
その時彼にある「欠片」が蘇った。
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つづく。