第2話 ミーティングと部活動紹介 ~ディズニーメドレー~
音楽室に行くと、ミーティングの準備がはじまっていた。
部長でテナーサックスの佐藤 朱莉先輩がホワイトボードに何か書いている。
放送がかかった。そろそろみんな集まってくる頃だろう。
「それでは、2014年度第一回ミーティングをはじめます。まず、マネージャーの宮下ゆずから連絡です。」
部長はそういうと、マネージャー、ホルン吹きの宮下 ゆず(みやした ゆず)先輩に場を譲った。
「えー、まず本年度の部員についてです。現在3年生48名、2年生54名の102名で活動しています。今年の新入部員獲得目標は60人です。各自知り合いに声をかけまくって少しでも体験入部にこさせてください。それから、今からプリントを配布します。それに学年、クラス、パート、楽器、名前と希望の係を書いて下さい。それを元に来週、係を発表します。」
ここの吹奏楽部では2・3年生全員が何らかの係に入っている。お茶係、日誌係、かぎ係、楽譜係、美化係などが2年生の担当だ。3年生になると、もっと重要な(たとえば会計とか、スケジュール係とか、広報とか・・・)係になれる。
俺は純也と一緒に運搬係を希望した。というか男子は何と書いても強制的に運搬係だ。
「続いて、副部長の鈴木 真帆から明日の予定についてです。」
鈴木 真帆先輩は俺の憧れのバストロ吹きの先輩だ。トロンボーンパートのパートリーダーだけでなく副部長、マネージャーもこなし、さらに頭がいいという意味不明な先輩だ。
「明日の部活動紹介についてです。明日の配当時間は15分、場所が講堂のステージのみです。曲はディズニーメドレーです。なのでディズニーメドレーの各パート一人ずつを明日の出演者とします。ピッコロ1人、フルート2人、オーボエファゴット1人ずつ、Esクラ1人、Bクラ3人、バスクラ1人、アルト、テナー2人ずつ、バリ1人、ペット4人、ホルン4人、ボーン4人、ユーフォ1人、チューバは2人、エレベ・エレキ1人ずつ、パーカス7人でお願いします。だから3年生中心になるかな?で、出ない人は手拍子、拍手、掛け声などで盛り上げてください。あ、指揮は真衣香です。部活動紹介が終わったらすぐに体験入部なので、帰り際の1年生に声かけまくってください。1人でも多く!!!」
俺も1年前は卒業した大野 裕介先輩に無理やり連れてこられたんだっけ。と、懐かしく思いながら真帆先輩の話を聴いていた。
「つづいて。私から、新しい顧問の先生の紹介です。2年G組の下村 結樹先生です。」
「下村結樹です。中学からトロンボーンをはじめて、高校は橘商業高校で一応マーチングも座奏も全国いきました。川中中学校から来ました。」
「あれだ、メリーウィドウ!」
とっさに大原が言った。大原はかなりの吹奏楽ヲタクである。
「そう、よく覚えてるね。一応前の学校では小編成で東海大会までいきました。」
「「「おお~~~。」」」
「今年度から、外部の林先生が来られる回数が大幅に減ったのでその分は私が指導します。まだまだこの学校、この吹奏楽部について知らないことばかりですが、一緒に成長していきましょう!」
「「はい!!」」
「今まで林先生がどうされてたのか知らないけど、私は生徒のみんなを普通に呼び捨てするし、結構ガンガンやります。パート練習とかで困ったこととかあったら職員室に呼びに来てください。いつでも飛んでいきます。」
「「はい。」」
「でははじめに。今年のコンクール、どこを目指しますか?地区金賞?県?東海?全国?それから、マーチングやりますか?せっかく人数いるんだからやって損はないと思いますよ。今日の帰りまでに決めて、部長さん、言いに来てください。職員室で待ってます。」
「えー、ではまず今年度の目標を決めます。目標は地区金賞がいいと思う人。」
・・・
「県大会がいいと思う人。」
ぱらぱらと手を挙げるひとがいる。
「東海大会がいいと思う人。」
増えてきた。
「全国大会がいいと思う人。」
多くの人が手を挙げた。
「では、目標を『全国大会出場』とします。」
「「「「「はい!!!」」」」」
「続いて、マーチングをやるかやらないかです。やりたい人。」
ほとんど全員が手を挙げた。
「では、マーチングもやりましょう。こちらはどこを目標にやっていきますか?県大会金賞がいいと思う人。」
ぱらぱらといる。
「東海大会がいいと思う人。」
ほとんど全員がこの意見のようだ。
「では、座奏で全国、マーチングで東海を目標にやっていきましょう!」
「「「「「「はい!!!!」」」」」」
「ではパート練習に移ってください。」
こうしてミーティングは終わりを告げた。
俺はトロンボーンパートの同級生、橋本 佳奈とともにパート部屋になった2年G組へと向かう。
「しゅーごー!」
真帆先輩が陽気な声をあげた。
「なんかすごいことになっちゃったねー。まず、明日の出演者決めようか?えーっと、まず1stは誰がいた?」
現在トロンボーンパートは11人編成だ。
そのうちバストロが俺と真帆先輩の2人だから、俺が明日吹くことはないだろう。
「よし、じゃあ4thは一磨ね。あたし司会だから~」
「え!?」
とっても驚いたが、みんな知っていたようだ。
「じゃあ明日出るりんりん、まな、まお、一磨は14時からリハね。他の人はコンクールの課題曲合わせよっか。そろそろ選定会だしね。」
「「「はい。」」」
りんりんは1stの福原 凜先輩、まなは2ndの松岡 愛先輩、まおは3rdの浅野 麻央先輩だ。
なぜか明日も本番になってしまったので、まだ気は抜けない。
低音のロングトーンをしながら調子を確かめる。
今日はまあまあ、悪くない日だ。
俺は小学校4年生の頃にトロンボーンをはじめた。バストロに映ったのが小5の春だから、もう3年以上バストロを吹いている。
なのにもかかわらず、中学からバストロにかわった真帆先輩のほうが数段上手だ。1年も経験に差があるのにどうしてこうも違うものなのか。と考えているうちに、リハーサルの放送がかかった。俺はりんりん先輩、まな先輩、まお先輩と一緒に講堂へ向かった。
どうやら部活動紹介に出演する2年生は俺と大原だけのようだ。さすが大原。先輩がいるのに今日も1stだ。
リハーサルといっても時間を確認するだけなので、ディズニーを1階と入場の青葉を1回吹いたらリハは終わってしまった。しかし、
「このままじゃとても1年生の前では演奏できません。10分後から合奏室で合奏をします。」
という真衣香先輩のひとことにより、合奏が行われることとなった。
真帆先輩にその旨を告げ、合奏室へ向かう。
また今日もゆり先輩のAから合奏が始まる。
「じゃあ、ディズニー頭からお願いします。」
「「「はい。」」」
少し吹いて、すぐに真衣香先輩が止めた。
「出だしのトランペット、もっと華やかに。派手に。そこからミッキーマウスへの転換を明確にしてください。」
「「はい。」」
合奏が続いていく。合奏は、その日の指揮者の機嫌のよしあしでかなり内容が変わってくる。あいにく、真衣香先輩は機嫌が悪い。
クラリネット、トランペット、トロンボーンのディキシースタイルのソロになった。大原が不発に終わる。
「彩佳ちゃん、吹けないの?」
真衣香先輩が冷酷に聞く。
「吹けます。吹かせてください。」
大原も負けじと言い張る。
「だったら最初から吹いてちょうだい。もう一回、そこから。」
パーカッションなだけあって、真衣香先輩はかなり厳しい。
合奏が終わった頃には、みな(特に金管)クタクタになっていた。
その日は練習を18時に切り上げ、トロンボーンパートは近所のサイゼリアでミーティングをすることとなった。
「では、2014年度第一回トロンボーンパートの集いをはじめまーす!」
「「「「いえーーーーーーい!」
「まず、今年の新入生獲得目標についてですが、意見ある人?」
「はい。男がほしいっす。」
そう言ったのは、唯一のパートの男の先輩、加藤 健先輩、通称カトケンだ。
「俺もそう思います。カトケン先輩いなくなったら俺一人ですよ?」
「あはは、そうだよね。それにトップが男の子だと強そうに見えるよね。」
いつでも陽気で、ちょっと男好きな麻央先輩。
「じゃあ、男2人、女の子4人の6人でいいかな?」
「「「はい。」」」
その後も、しばらく雑談のような割とどうでもいい話が続いた。2人集まると30分は語れるのがトロンボーンパートだ。
みんなそれぞれ話している。俺も同級生で主に3rdを吹く藤井 みなみ(ふじい みなみ)と低音について語っていた。この部で1,2を争う吹奏楽ヲタクの俺とみなみだからできる話だ。ちなみにトロンボーンパートは下の名前で呼ぶのが基本となっている。
突然、真帆先輩が神妙な顔つきで言った。
「今から、コンクールについて大切な話があります。」
全員が静まり返る。当然、コンクールは大切な大会だからだ。
「今年、川上中学校吹奏楽部は現時点で102名、1年生が50人入ったとしても152人です。それを3チームに分けるそうです。座奏Aとして全国大会、センチュリーホールを目指せるのは50人、マーチングメンバーとして大阪城ホールを目指せるのは70人、その他の人は座奏Bとして朝日小編成や中日に挑むことになります。座奏Aに入れるのはトロンボーンは多くても5人です。その5人を、今年はオーディションで決めるそうです。」
全員が息をのんだ。去年までは、3年生全員で出て、足りない分を2年生が補う、という形だった。トロンボーンパートでコンクールに出たことがある人は、今年はカトケン先輩ただ一人だ。そのカトケン先輩も、出る予定だった先輩が怪我をしてしまったから出ただけだった。
「それで、そのオーディションなんだけど、どのメンバーに入りたいか希望を取るみたい。でも、あくまで希望で、オーディションで宮島先生、森先生、植田先生、下村先生が聞いて全体のバランスとかも考えて決まるから、1年生が座奏Aにいるかもしれないって言ってた。」
驚きのあまり誰も声を発さない、いや発せないのだ。
「でも、トロンボーンは全体の10分の1が目安でしょ?だから座奏A5人、マーチング7人入れるの。ほら、だから2・3年みんなで受かろうね!」
「「「・・・はい!」」」
真帆先輩はどうやらこれがいちばん伝えたかったようだ。まあ俺はもともとマーチングがやりたかったわけだし、何の心配もないのだが。
家に帰って、先生のこと、マーチングのこと、コンクールのことなど一通り母に伝えた。驚かれたけど、明日の部活紹介で吹くことがいちばん驚かれた。
翌朝。いつものように6時半に家を出て、7時に学校に着いた。
いつもは一番乗りなのに、今日はすでにトランペットの音がしていた。
大原だ。
邪魔をしないように、そっと音楽室の扉を開ける。
しかし、気づいてしまったようだ。ロングトーンをやめて、にっこりと笑いかけてくる。
「一磨、おはよ。早いね。」
「いつもは一番乗りだけどな。大原こそどうしたの?」
「いやー、昨日の合奏ひどかったじゃん?あの状態で本番迎えたら精神病んじゃうよ。ほら、ペッターに大事なのってメンタルじゃん?」
そういって大原は微笑んだ。しかし、目が腫れている。
「・・・お前、昨日泣いたの?」
「ばれた?・・・ちょっとんえ、やっぱり真衣香先輩にあれだけ怒られたのはキツかった。あれから川原でも練習していったんだけど、全然だめで。もう嫌になっちゃう。だからこうして今日、早く来てるんだけどね。」
「ま、無理するなよ。」
「ありがと。そうだ一磨、一緒に3Dやらない?」
3Dとは、ヤマハの「3Dバンド・ブック」という緑色をした基礎の本だ。
「おっけ。ちょっと待ってて、音だししてくる。」
音だしを終えて大原のもとに戻ると、先輩が2~3人練習しに来ていた。
「大原、やるぞ。」
「あ、うん。10ページから。長調だけね。」
「おう。」
ただひたすら、音階、ハーモニー、アルペジオを続けていく。
ある程度ふけるようになってくると、基礎練習が楽しくなってくる。
28ページまで終わる頃には部員のほとんどが集まっていた。
8時になって、朱莉先輩が声をかける。
「そろそろ終わってください。部紹介組は楽器を教室に持っていってください。打楽器は体育館に持っていきます。」
片づけを終えると純也が俺を待っていた。
「よう、一磨。」
「よ。」
「オーディションの話、聞いた?」
「おう。なんかいやだね。もっと楽しくやりてー。」
「俺、マーチング希望しようと思ってる。スーザフォン吹いてみたいし。一応体力あるほうだし。」
「俺も。元からマーチングに興味あったんだよね。」
「まあ、お互いがんばろうぜ。」
そうこうしているうちに、教室に着いた。
午前の授業は、部紹介のことが気がかりでずっと上の空だった。おかげで、級長に選ばれてしまった。ちなみに女子は、葵だ。
昼食の時間。俺はいつものように5分で昼食を済ませる。しかしここからはいつもと違う。楽器ケースを持って大原と講堂へ向かう。大原もかなり緊張しているようだ。
「・・・・ねえ一磨。」
「なに?」
「今日のソロ、成功したら今度アイスおごってよ。」
「いいよ。その代わり失敗したらお前の奢りな。」
「・・・わかった。大丈夫だから!」
舞台に上がる。1000人を超える中学生が一斉に真衣香先輩に視線を向ける。
ちょっと真衣香先輩がかわいそうだが、その程度でへこたれるような真衣香先輩じゃない。
タクトがあがる。
ティンパニのロールの後、「星に願いを」のテーマからディズニーメドレーは始まる。フルートを合図にミッキーマウスマーチにうつる。最初はフルートのかわいらしいマーチだ。次第にクラリネット、金管が加わっていく。トロンボーンの副旋律が飾り付ける。まもなくチューバのソロだ。のんびりとしている。
オーボエのソロから小さな世界が始まる。サックスのロマンチックな小さな世界。フルートがかわいらしい装飾♪を吹く。楽器が増え、厚いハーモニーの小さな世界にかわる。
テンポが速くなり、ハイ・ホーに展開する。トランペットとベースが軽い雰囲気を出している。そしてトランペット、クラリネット、トロンボーンのディキシースタイルのソロの「狼なんか怖くない」だ。大原、勇樹先輩、りんりん先輩の3人が自由に、楽しそうに吹いている。
テンポが落ち、いつか王子様がになった。朱莉先輩のテナーサックスがなんともエロティックなソロを華麗に吹く。
また軽い曲調にかわる。そして「口笛吹いて働こう」ではトロンボーンのソロだ。とても音が高いのだが、りんりん先輩は余裕で吹いてしまう。ここは何度聞いても聞き惚れてしまう。
そしてクライマックスの「星に願いを」になった。がっつりアラルガンドをかける真衣香先輩。今日はノリノリだ。
最後の音が消えしばらくし、真衣香先輩はタクトを降ろす。客席から溢れんばかりの拍手が送られた。
無事に部紹介を終え、体験入部の時間になった。カトケン先輩と音楽室をのぞきに行くと、なんと90人もの1年生が来ていた。朱莉先輩、真帆先輩、ゆず先輩は忙しそうにしていたので放っておけ、とのカトケン先輩のひと言によりそっと音楽室を去った。
今年も大変な体験入部がはじまった。