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ルナティックゲーム  作者: 不動 進
絶望が覆う世界で
7/10

第六話  後悔先に立たず、守れない約束はすべきではない

読みたい本あるし、読まなきゃいけない本もある。この連載も頑張んなきゃいけないし、見たいアニメもある。っべー、勉強する時間ねえわー(白目

と、いった感じで日々現実逃避に邁進している不動です。

はい、では第六話となります。どうぞ。

 ――――撃たれた。


 そう直感的に判断した。


 タイルに弾がめり込む音。肩から噴き出る鮮血。

 誰が、どこから、何の目的で。空中で吹き飛ばされている中、思考が加速する。

 遅れて銃声が聞こえてきた。辺りが一瞬の静寂に包まれ、そして一つの悲鳴が上がる。それが引き金となり通行人は叫びながら四方八方に逃げたり近くの建物に逃げ込む人もいる。

 尻から地面に落ちたと同時に襲ってくる強烈な痛み。

 …………死ぬのか?


 ――しっかりしろ!


 こんなところで死んでたまるものか。師匠に礼も言えてないし、勝手に出て行ったことに対して一発殴らないと死ねない。それにこんな死に方は、この世界に負けたみたいだ。それだけは嫌だ。

 全身の神経を駆け巡る痛覚に飛びそうになる意識を何とか掴む。急いで立ち上がって、二発目が撃たれる前に避難しなければ。運良く肩だったが次は外しはしないだろう。

 片手を地につけ、能力を発動させる。


 ――加速。


 反動で動けなくことも一瞬ちらついたが後先考えていたら、その前に撃たれて死んでしまう。反動なんて気にしていられる事態ではない。急所に当たらなかったのは不幸中の幸いだ。ただ不幸がでかすぎる気もするけどな!

 音速を超える速さで路地に倒れこむ。


 「ぐっ!!」


 撃たれた左の肩がコンクリートに叩きつけられ、路地に血が散る。味わったことのない程の激痛が脳に危険信号を送っている。やばいやばいやばい、このままでは大量出血で本当に死ぬ。ショックで意識が飛んでいないことが不思議なくらいだ。

 壁にもたれかかり、右手でなんとかポーチを開け包帯を取り出す。先っぽを口で噛み付き、丁寧さなど無視で包帯を左肩に巻く。とにかく、なんでもいいから出血を抑えれればいい。

くっそー、俺の肩は最近ついて無さ過ぎる。お気に入りのコートに二つ目の穴が開いちまったし。呪われてんのかよ。あれだな、発端ほったんは錦戸だからあいつが全部悪い。あいつからしたら好意的に思われてんのかも知れねえけど、恨んどこう。貴重な情報貰っといて何言ってんだこいつ。死ねばいいのに。いや、今実際に死にそうだけどね!

 そんなバカなことを考えていないとどうにも意識を保っていられない。


 巻きながら顔を少し出して撃たれた方を見る。道に水平に立っていて、正面から撃たれた。それに角度もかなり上向きだった。もちろん正面に人影がいれば気づかないはずがない。銃声も、銃弾が俺に当たってから少なくとも一秒以上のタイムラグがあった。そして未だに警報音が鳴っていない。ということは、街の外からの狙撃。

 遠くに見える高いビル。恐らくあそこからだ。

 逃げ惑う通行人たちを撃っていないから確実に俺を狙ったものだと考えれる。多分。じゃあ今日俺がここに来ることがわかっていてあのビルで待っていることができる人物――。

 わからない。可能性が無いわけではない。思えば、彼女に会ってから一度も怪しいとか疑うようなことをしなかった。あの鈍臭い雰囲気もあって微塵もそんな感情はなかった。しかし、それがすべて演技なのだとしたら納得が行く。それに加え昨日の様子も変だった気がする。


 バカだ。今そんなことを考えていても仕方がない。今は死なないことだけを考えるべきだ。

 御子柴さんを呼ぶという案を思いついた。が、仮にだ。仮に撃ったのがリヴだとしたら、治癒の異能を知られている。危険だ。

 じゃあ呼べる知り合いと言えば……錦戸は駄目だ。巻き込まないと約束した。

 そう考え、俺はノワの端末の番号を打ち込んだ。今の時間は午前九時を少し回ったくらい。昔から早起きだったから、今日に限って寝坊していないでくれよと願いながら掛ける。

 まったく、気をつけろと言われたのに申し訳が立たない。

 ノワはいつも通り三コール目で出て、いつも通りの間延びした声が聞こえてきた。


 「どうもどうもー情報屋クルミでーす。ご用件はー?」

 「…………助けてください」

 「……は?」


 バカにしているのか、驚いているのか、どちらとも取れる声だった。


   * * *


 正面からくるストレートを両手を交差して防ぐ。続いて引き絞られた左手が視界の右端から飛んでくる。右手で受け流し、そして腹に肘鉄を食らわしてやろうとしたが、ぎりぎり視界に入ってきた、今まさに振ろうとしている右足。次手の反撃を諦め後ろに飛び距離を取る。蹴りをまともに食らえばKOは確定だ。

 後手後手に回っていると思い、今度はこちらから突っ込む。俺の突っ込んでくるタイミングに合わせて振りぬかれる蹴りを上体を低くして避ける。懐に潜り込み足の地面を蹴る力をも使った拳を腹に当てると見せかける・・・・・。もちろん寸でのところで防がれてしまうことはわかっている、からフェイクを使わなければならない。思いっきりパンチを当てると思わせ、しゃがむ。まだ片足立ちになっている左足の踵を蹴る。自分より圧倒的にでかい相手が宙に浮かんだ。


 ――行ける!


 今日の勝利を確信した俺は落ちてくるのと同時に止めを刺そうと立ち上がったところで、踵が俺の右腕を捉えた。右腕が嫌な音を立てながら数メートル飛ばされる。完全に入った。


 「……痛ってー」


 右腕を抱えてうずくまる。

 空中にいながら、地面に手をつき体をじったのだろう。まったくどんな身体能力してんのか、それともそもそも体の構造が違うんじゃないかと嘆息する。


 「ガハハハ!いやー今のは入ったなー。いつも言ってるだろう?相手がどんな体勢でも攻撃してくる可能性を考えながらやれって」

 「でもそんなこと考えてたら攻めれないだろ」

 「相手の攻撃を見切った上で攻撃できるやつが強いんだよ」


 むちゃくちゃだ。

 そんなのあんたが相手じゃ出来るはずがないだろ、と心の中だけで不満を漏らす。攻撃を見切るなんて同格か格下相手じゃないと出来ない芸当のはずだ。いかなる面でも上を行かれている相手にしろと言ったって無理な話だ。


 「休憩にするか。……ほらよっ」


 タオルと水入りのボトルを投げてくる。

 木陰に入りボトルの口を開け、くいっと一口。冷たい水が乾ききった俺ののどを潤す。爽快だ。

 黄土色の無造作に伸びた髪が風でなびいている。俺は汗を拭きながら横目でその髪の持ち主の様子を見ていた。


 俺は朝から師匠の様子が少し変だったことに気づいていた。そわそわしていて、何か言いたそうな、でもどこか躊躇っているような。そこでこちらから聞くことはせずただじっと待っていることに決めた。本当に言わなければならないことだったら、聞かずとも勝手に言ってくる。と、思う。自信がないのはこれまであんな言いにくそうにしたことはなかったからだ。


 木々の隙間を縫って、風が吹く。木に背中を預け俺はぼーっと空を見上げ涼んでいた。程よい木漏れ日が気持ちいい。疲労した体が癒されていくのを感じる。このまま眠ることだって出来そうなくらいだ。何かの超越した存在に人工的に調節されているのではないかと錯覚してしまう。

 いつもならこんな休憩時間もいろんなことについて語ってくる。こちらが静かに休みたいことなど露ほども分かろうとせずに、自らの武勇伝とか世界の絶景とか文化などなど。今日はそのおしゃべりな口も朝からほとんど開かれていない。

 あんまり無口でいられるとこっちのペースが狂ってしまうんだけどなと思っていると、ようやく腹をくくったのか、口を開いた。


 「わしには娘がいる」


 顔の彫が深く髪色も金に近い、この明らかに日本人ではない容貌、四十手前という歳で自称が「わし」というのはいささかどころか大いに違和感がある。慣れているとはいえそのシュールさは否めないが、今はそんなこと置いといて、この人なんつった?


 「…………はい?」

 「わしには娘がいる」


 俺が聞き返すとまったく同じことを言う。いや聞こえなかったから聞きなおしたのではなく、言い難そうにしていたことがそんなことであったのかと聞いているのだが。なんだ、これから娘自慢でも始まるのだろうか。


 「へー…………で?」

 「わしには――」

 「わかったから話進めろよ!」


 壊れたレコーダーを聞いている気分、もしくは宇宙人とでも話している気分だ。いや、宇宙人に会ったことないけどまだマシな会話ができる気がするぞこれ。

 彼は「うっ…」と言葉に詰まり、また黙ってしまった。娘自慢にそんな躊躇いあるのかよ。娘ができたことなんて勿論ないから気持ちはわからないが。

 またしばらく風と鳥の鳴き声のみが音を支配する。黙っていられては何も進まないし気分が参るだけなので、しょうがないのでこちらから切り出すことにした。じゃないといつまで経っても組み手を再開できそうにないから。

 

 「何?娘自慢でも始めるの?」

 「ち、違う。えっとだな、む、娘はお前と同じくらいの歳だ」


 髭のない顎をこすりなだら言った。十四のガキに追い詰められて言う言葉がそれかよ。責めるような口調になってしまっていたかも知んないけどさ。その姿をその娘さんが見たらきっとガッカリするんじゃないでしょうか。

 あーそう・・・。と思うしかなかった。


 「・・・で?」

 「えー、むちゃくちゃ可愛い」


 結局自慢だった。つかそんな遠慮気味の自慢されても返答に困るし、そもそも娘自慢でこんな言いよどむはずがないと思う。自慢するならもっと堂々と、ガハハハと豪快な笑い方をしながら。自分の武勇伝を語るように、誇らしげにそして時々、羨ましいだろ羨ましいだろと鬱陶しさを含ませて。それが拾われてからこれまでに抱いた印象――すべてではないが、おおむね――だった。

 確かに彼の語ることはいつも俺の興味を引く。でも娘自慢はそんなに興味ないよ?鬱陶しいだけだもの。

 気まずい空気が流れる。ちょっと、風仕事しろ。


 「すうぅぅ、はあぁぁぁぁぁぁぁ」


 しばらくの沈黙のあと、風が仕事する前に飛ばしちゃった。相変わらずとんでもない肺活量だなと思いました。

 まあ気まずい空気を飛ばしたわけではなく、決心をしたような深呼吸なのだろう。そして真剣な表情に変わり、俺の目を見る。その顔にさっきまでの情けない雰囲気はなく、まさに歴戦の兵士さまさまの迫力があった。今度はこちらが気圧されてしまう。

 そして捲くし立てるように話し始めた。


 「可愛いといったが、最近は顔を見てやれていないんだ。まあ可愛いのは事実だけどな。天地がひっくり返ってもそれだけは変わらないだろう。会えていないのは妻と疎遠になってしまっているからだ。ちょうどお前を拾ってやったぐらいの時だ。わしはもう娘の成長を見ることができるかわからん。そこで!将来お前がわしの娘に会うことがあったら、よろしく頼む!」

 「ふ、ふーん……は?」


 は?

 言葉と思考が完璧にリンクした。じゃなくて、ツッコミどころ満載の内容だったが後半の意味が一ミリも理解できなかった。マジ意味不。これもう死語だな。


 「何言ってんの」

 「あっ、こら馬鹿を見るような目でわしを見るんじゃない。至って真剣だ。あんまり馬鹿にするんなら晩飯抜きにするぞ」

 「作るの俺じゃん」

 「ぬっ……」


 真剣さは顔が雄弁に語っていたし、真剣さどころか威圧感まであった。けどだ、内容が内容なのだ。そう易々と飲み込めるはずもなかった。ふざけた内容が相殺してしまっている。言い難そうにしていた内容がそんなものであったのかと疑いたくなる。親の気持ちはわからないけど、もっとこう、勢いよく言ってもいいもんなんじゃないの?


 「と、とにかくだ。頼んだぞ!」

 「えーと、まず何で俺が?あんた知り合いかなりいるんじゃないのかよ。戦友とかさ。なんでそこで俺が抜擢ばってきされるわけなの?」


 聞くと、ニッと笑って、


 「陽向、お前は俺に拾われた恩がある。そして見込みがある。……あ、勘違いすんなよ。娘をお前に嫁として頼むって言ってるんじゃねえぞ」


 誰もそんなことは考えちゃいない。本で読んだけど、結婚て人生の墓場なんだろ?墓場に自主的に行く趣味はない。

 見込みねえ……。どこにそんな根拠があるんだか。それに確かに恩はあるが、恩着せがましいような気がしてちょっとイラッと来た。


 「そんだけか?」

 「十分だろ?何だ、自信がないのか?力に自信がないんならまだまだ鍛えてやるよ。お前はチビでヒョロヒョロだが強くなる。わしはそう確信している。さあ、立て!再開するぞ」


 腰に手をあて得意げに話す彼に、俺は閉口するしかなかった。さりげなく気にしていることを突かれるし。好きでこんな体になったわけじゃない。


 「ちょ、ちょっと待てよ!全然休めてないんだけど!あと約束守れる保証ないし、会えるかどうかもわかんないから名前ぐらい教えろよ!」

 「会えたらでいい。名前はそのうちな。さっ、今日はわしに一撃食らわせれたら終わりにしてやろう」


 この話はもう終わりとでも言うように、屈伸運動を始めた。そして、とんでもない課題をさらっと出しやがった。そんなことしてたら日が暮れてしまう。それどころかへとへとになって飯が作れないでしょうが。

 

 「家でノワが待ってんのにそんなことしてたらいつ帰れるかわかんねえだろ」

 「じゃあ、待たせないように頑張れよ」


 今度は開いた口が閉じない。今までその一撃を当てれたことなんて片手の指の数もない。今日は相当頑張らなくてはならないみたいだ。

 一つため息を出して、立ち上がる。

 こちらに背を向けて準備をしている俺の師、アストルに向かってそっと近づき、飛び蹴りをかました。

 不意打ち上等。

読んでいただいた方ありがとうございます。

後書き考えている時に頭に浮かぶ課題の二文字。視界に入る忌々しいワークの数々。

まあなんとかなりますよね!七話も頑張って書きます。

では、また。

 

すみません、主人公の師匠の名前をなんか違うな、と思いまして勝手ながら変えさせていただきました。

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