第五話 疑いながら信じろ、矛盾しているが正しいことだ
夏は家に引きこもってホラー番組見ないとやってらんないっすよ。みなさんはこの夏何しますかね?自分はヒッキーになります。
では、第五話です。どうぞ。
「特別にタダで情報をあげるよーあいつは異能持ちだよー」
「見てりゃわかるわ、そんなこと」
「そっかー。じゃあボクはこの辺で失礼するよー欲しい情報があったら連絡してねー。あ、あと」
そう言って、去ろうとしたノワが止まって、こちらに振り返った。
「気をつけてね」
いつもの間伸びした感じではなく、本当に俺のことを心配しているような声。そしてそれだけ言うと、ヘッドフォンをしてその上からフードをかけて去って行った。
何に気を付けろと言うのだ。こんな世の中気をつけなければならないことなんてザラだ。その中の何に気をかければいいのだ。
まあ、わかってはいるのだが。あの嫌な笑みはあまり見たいものではない。整った顔の不気味で不敵な笑み。何かを企んでいるようにしか思えない。
「神崎、通ね……」
モニターに視線を戻すが、分割された左上の部分はもうすでに他の試合へと切り替わっている。
あまり干渉してはならないということはわかっている。だが、自分にも被害が出そうな場合は例外だ。帰ってきたら聞いてみよう、一晩泊めてやったのだからこれ以上世話をしてやる義務はないのだがそれだと後で御子柴さんに何を言われるかわかったものではない。
それに何より、嫌な予感がする。
やっぱり面倒ごとに巻き込まれてる気がしてならない。
一時間ほど会場前で待っていると、一台の軍用車がターミナルで停まるのが見えた。時間から考えて恐らくリヴと神崎の送迎用の車だろう。
先に出てきたのは神埼だった。するとどこから現れたのか、女性の軍勢が神崎を襲った。サインやら握手やら写真撮影を申し込んでいる声がここまで届く。
「……何だあれ」
ファン、なのだろうけどとにかく勢いがすごい。ギャーギャーワーワー。耳が痛い。
神崎は一旦車の前から移動して、それから全員に笑顔で対応していた。さっきの不気味な顔ではなく、完璧なビジネススマイルと言った感じだ。
思わずこちらもさっきの姿を忘れてでも感嘆せざる得ない。周りにマネージャーらしき人は見えないため、あの人数を一人で対応しきっている。
ひとしきり終わったのか、少しずつファンが減っていき神崎が手を振ってファンから去ろうとして振り返ったとき、目が合った。
五秒か十秒、もしくはほんの一瞬だったかもしれない。神崎はやはり笑う。でもこちらを嘲笑っているかのような、そんな気がする。
俺から目をそらした。負けた気がするが、気にしたほうが負けだ。ポケットから端末を出し、適当に弄っていた。次に顔を上げたときには神崎の姿はなかった。
しかし、ちょうどリヴがやっと降りてくるところだった。その肩には一メートル以上はあろうアタッシュケース。見た感じ怪我はないようだがその顔色はよくない。
「おーい……大丈夫か?」
近寄って声をかけてみるが、反応がない。もしかして無視されちゃってますか?
「リヴ!」
「は、はい!……あ、陽向さん」
俺の顔を見た途端、一瞬だが怖気付いたような顔をした。
「大丈夫か?」
「は、だだだだ大丈夫ですはい」
全然大丈夫じゃないじゃん?さっき死にかけたのだから不思議ではないが、神崎に言われてたことも影響しているのかもしれない。内容がわからないことにはわからないが。
「今日、どうすんの?」
「えっと、美咲さんから連絡が来て、今日は美咲さんの家にお泊まりさせていただきます」
いつの間に連絡先を交換していたのだろうか。まあ今はそんなことはどうでもいい。
「…神崎に何を言われてたんだ…?」
「…い、いえ別に何も……何も」
俯いていてその表情はわからないが嘘だ。この程度の嘘は俺にでもわかる。しかし言いたくないことを無理矢理言わせれるほど親しくない。気にはなるが置いておくしかない。
下を向いていたリヴが突然顔を上げ、
「あ、あの案内してください!」
「………はい?」
突然の申し出に、ただ問い直すことしかできなかった。案内?御子柴宅へ?
「陽向さんの家本たくさんあったじゃないですか。それで本屋の場所を教えてもらいたくて、そのついでに少し案内してもらえればな…と。ここら辺には試合がある時にしか来なかったものでして」
なるほど。言わんとすることはわかった。んーそこら辺も御子柴さんに丸投げできないかなー。やめとこ、倍で投げ返されそうだ。
……護衛、か。
「なあ、なんでその髪隠さないんだ?」
髪だけでも染めるか隠すなりすれば危険性は格段に減る。理由も無く、危険そのものを護るには抵抗、というか納得がいかない。理由がなくても護るなんてお人よしにはなれないし、なりたくもない。
「……やっぱり隠したほうがいいですか?」
自分のその綺麗な金色の髪に触れながらそう言った。
まあ理由ありなのは明白だろう。人通りの多い場所を通らなければ問題はないかもしれない。いやちょっと待て。人の寄り付かなそうな道を通れば、そういうところにはびこっている連中に襲われそうだし――喧嘩になれば負けない自信はあるが――かといって、大通りを通れば昨日のように偽善者団体もとい反追放のやつらに絡まれるかもしれない。それにこっちもこっちで襲われないとは限らない。うおぉぉおどうすればいいんだー。
悶々と悩む俺をリヴが小動物の不思議な行動を見るかのような目で見てきている。何だこのたとえ。全然わからんぞ。
「わかった。……まあ俺もちょうど行こうと思ってたからついでにな。じゃあ行こうぜ」
何言ってんだ俺は。行こうとなんかしてなかったよね?……これが前時代に流行ったツンデレと言うやつか。
「あ、いえ……出来れば明日にして欲しいんですが…いいですか?」
明日。明日は予定入ってるな。家でごろごろ本を読む。銃の整備。とにかくごろごろ。うん無いな、予定。
「まあ、いいけど。じゃあ御子柴さんと待ち合わせとかしてないのか?」
「陽向さんか知っているから、と言われました」
……知らないよー?いや、正しくはほとんど覚えていない。最後に訪れたのは一年以上も前の話だ。
御子柴さんが働いているレストランに師匠が安くて美味いから何度も何度も訪れたため、いつの間にか常連となっていた。御子柴さんと知り合ったのは師匠のナンパが始まりだ。今思い出しただけでもこっちが死にたくなる経験だった。
そんな恥かしい体験を思い出しながら俺は御子柴さんに電話をした。
幸運にも休暇だった御子柴さんを召喚してリヴを送り届けることができて、翌日。
俺が着替えていたところで、ポケットから何か落ちた。二つ折りにしてある紙。開くと番号と住所が書いてある。二日前に錦戸から貰ったものだ。もう話すことも頼ることなんてないと思っていたが、さっそくほしい情報が出てきたところだ。情報屋でなければ料金は基本取らない。確かな情報は持っているだろうけど、ぼったくりにやる金はない。
端末に紙に書いてある番号を打ち込む。四コール目で出た。
『はい、錦戸です』
「瀬戸だ」
そういや、この人は俺より大分年上なのになんで自然にタメ口利いてんだろ。最初に話したのが試合中だったからか?俺のポリシーが崩れていってる気がする。
『おぉ、瀬戸かー。いやー番号渡しといて何だが本当に掛けてきてくれるとは思わなかったぜ』
「そうだな、俺も思わなかった。ところで早速だけど聞きたいことがある」
『んー?なんだなんだー女の落とし方かー?』
……師匠と同じにおいがしますねこの人。ノワでも知らなそうな情報だな。
「神崎通ってやつについて。どういうやつなのか知りたい」
『神崎通…神崎…。あぁ思い出した。テレビによく出てるタレントだろ。娘が見てはしゃいでるのを見て俺もはしゃいでるぞ』
これは親バカではなく、ただのバカだな。そう思いました。つかあの巨体が娘の後ろではしゃいでいる光景は……。忘れよう、多分アンタッチャブルなことだ。それかパンドラの箱。
笑ってはならない、今は話を進めなければ。
「ルナティックゲームにも参加してるってのは知ってるか?」
『あったりまえよぅ。ゲームが終わるたびにインタビューされてっぞ。娘がいつもそれ見てる』
毎回娘の話題を出さないとやってられないのかこの人は。
「戦闘スタイルとか知ってることはないか?例えば……異能、とか」
言った瞬間沈黙が落ちてきた。端末の向こう側からは何も聞こえない。仲間内でもないのに軽率に他人の異能を話して危険にさらされてしまう可能性は否めない。
『……………俺が話したって言うなよ。家族がいるんだ。厄介ごとは勘弁だぜ?』
「もちろん、そっちを巻き込むようなことはしない」
俺だって巻き込まれたくはない。もうすでに時遅しなのだが。
『俺も具体的なことを知っているわけじゃあねえ。が、恐らく相手の動きを読めるってのは聞いたことがあるぜ』
相手の動きを読む。それならリヴの弾をすべて避けれたのも納得がいくが、予知?いや精神的なものか?それとも目に関する異能か?
「そうか、その、ありがとな。迷惑は絶対にかけないよう努力する」
『おう、何か知らんががんばれよ。あとうちに来て娘の顔を今度見てくれ、かわいいいぞ』
考えとく、と言って俺は通信を切った。願わくば、盗み聞きされてませんように。これ、フラグかな?
肩のあたりに穴の開いたコートを羽織り、ホルダーとポーチの付いたベルトを締めてホルダーに二つの愛銃をセットする。
錆びれた音のする我が家のドアを開け、リヴとの待ち合わせ場所に向かった。
狭い林の中の小道を抜け街の南西の入り口に着く。待ち合わせ場所は中心から北西の大通りだから少し歩かなければならない。
――ん?
視線を感じる。見下すでもなく、侮蔑するようなものでもない。通行人が見ているわけでもない。ただただこちらをじっと監視しているような視線。背後から、路地?いや屋根か?
「…………誰だ!」
走って路地に駆け込んでみるが、そこには誰もいない。気のせいだろうか、いつもより警戒度が高くなっているだけなのかもしれない。いたとしても、姿が見えない相手を追うことはできないため諦めるしかない。
――――くくくっ
笑い声。路地の奥から聞こえる。笑いを押し殺そうとしているけど出てしまった、のかもしれない。どちらにしてもめんどくさいし、不気味だから追わないが。
無視して再び歩き始めた。
待ち合わせ場所に着いたが、まだリヴは来ていなかった。道迷ってたりするかな。いや。そもそも待ち合わせをしていること自体を忘れている可能性もある。たった二日間の付き合いでそこまで推察できる俺すげぇ。
端末を取り出して待っていた。
空を見上げようとした時、遠くにあるビルが太陽に光を反射して俺の目に入ってきた。何で前時代のビルをまだ残してんだよ、と思って手を掲げた瞬間、
肩から後ろに飛ばされた。
――――撃たれた。
読んでいただいた方ありがとうございます。
ちょっと自分の恐怖体験でも語ってみようと思います。
夢の中の話です。
深夜起きます。みんなは寝ていて真っ暗です。寝室からキッチンのほうを通って階段の下に来ました。明かりのスイッチがあり、押して電気を点けます。階段の上を見ます。日本人形があります。こちらを見ています。電気消します。ダッシュで寝室に戻り布団に潜り込んだところで、目を覚ましました。
他にもいくつか怖い夢を見たことはあるのですが、当時幼かった自分には強烈過ぎた夢で、他のものが霞んでしまいました。
では、また。