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ルナティックゲーム  作者: 不動 進
絶望が覆う世界で
5/10

第四話  苦手な相手というのは誰にでもいるものだ

心も体もボロボロの不動です。

使い古した雑巾のような心身で書きました、第四話です。どうぞ。

 俺は九歳の時、両親に捨てられた。


 大戦後でもあったし経済状況はかなり厳しかったんだと思う。そんな中子供一人でも育てていくのは難しかったのだろう。今となっては恨んではいない。確かに捨てられた直後は途方に暮れていたが、死にかけていたところを師匠に拾われた。拉致という言葉でも間違いではないと思う。

 それからはほとんどの時間を一緒に過ごし、最初は何のためにやっているのかもわからないまま体術やら銃を仕込まれた。


 とても優しく、そして快活でアホだった。


 そんな師匠が姿を消したのがちょうど一年前のこと。いや、姿を消したという表現は語弊があるかもしれない。ある日突然「旅に行ってくる!」と言って家を出て行ってから姿を見せないのだ。唖然としたが、こんな時がいつかは来るだろうと予想はしていたためすぐに慣れた。


 昔のことを思い出しながら、木に一発蹴りを喰らわす。その勢いを使いもう片方の足で回し蹴り。足を振り抜き全力で拳を当てる。


 「っら!」

 

 幹はびくともしないが、その枝がかすかに振動で揺れる。

 一連の動作を終え、ふう、と一息つく。


 日が地平線から顔を出すより前、俺はその時間帯に自然と起きれるようになり日課のぼっち特訓を行っている。市街地からは少し離れているため射撃の練習をしたり、こうやって一人寂しく木に日々の鬱憤うっぷんを言葉なしに語っている。そしてこの木は何の文句も言わず、ずっと俺を見守っている。この木は俺の親友みたいなものだな!うん!うれし涙が!

 木のいつものように蹴り続けている場所は樹皮がはがれ摺れている。我ながらよく頑張っているものだと褒めてやりたい。

 まあ、あんな狂ったゲームで生き残るためだ。こんなものでは足りないのではないかとも同時に思う。


 もう一度深呼吸をする。

 今は四月、季節は春、数本ある満開の桜の木を眺めながら朝の新鮮な空気を吸い込む。 

 桜の間から太陽が顔を出し一帯を照らす。絶望ばかりの世界に光を灯す。

 腰から「デイブレイク」を取り出す。拳銃にしては少し長い銀色の銃身が太陽の光を反射し黄金に見える。22口径は殺傷能力が低く、非力の代名詞として知られている。敵を殺さないための銃。


 「ショットガンとか持ったほうがいいのかねえ。火力に問題ありすぎでしょ」


 もう片方の「トワイライト」は口径が大きく「デイブレイク」よりは威力があるが、頼りなさは否めない。いくら銃身を長くして威力を高めても、やはりメインウェポン足りえることはない。今後は戦闘スタイルを考えていく必要がありそうだ。

 そんなことを考えながら桜とだいだい色に輝く太陽の絶景をしばらく眺めていると、近くに置いてあった端末が鳴った。拾い上げ確認すると、正午までに警備局に来なさいという出頭命令だった。わあ、早~い。


   * * *


 「はんへふふぁ、ほれ(なんですか、それ)?」


 ぼろ屋に戻ってまだ寝ていたリヴをたたき起こして朝食をご馳走してやっている時、先ほど来た警備局からのメッセージを見せると口に物を入れながら聞かれた。行儀悪いですね。食事中に見せた俺が言えることじゃないですけど。


 「見りゃわかるだろ。出頭命令だ。事情聴取でもするんだろ」

 「ん?」


 ……彼女の頭の上からはまだ疑問符が消えない。こいつ自分が昨日襲われたことを忘れてんのか?


 「君、昨日襲われてたの覚えてないの?」

 「…………あっ!いえ全然覚えてますよ!」


 ……異能には何かしら副作用があることがある。例えば、俺が「加速」を使えば全身、特に足の筋肉に多大な負担がかかり直後は移動が困難となる。彼女は自

らの異能を「望遠の目(テレスコープ・アイ)」と言った。推測するに、多分改造を行ったのは目のみではない。恐らく脳も。でないと目が映す情報に頭が付いていかないと思う。その副作用で記憶能力が落ちたとか?……推理しておいて自信ない。記憶力が悪いのは元からだと思う。鈍臭いし。今それ関係ないな。


 「早く終わらせるためにリヴがいた方がいい。できれば付いて来てほしいんだけど」


 箸と皿を持ったまましばらくぼーっとしていたが、唐突に何かを思い出したように、あ、と声を出した。そしてゆっくりと箸と皿を机に置き、ポケットから端末を取り出して、操作しこちらに向けてきた。


 「えっと、『ルナティックゲームのご案内』?」


 そのメールは参加している全員に届くもので、基本的に二、三日前には通知してくる。

 俺が最初の文を言うと、彼女は端末を持っている手とは違う手の指で画面をスライドする。日程と対戦者の名前が書いてある。


 「四月十五日の十三時、対戦相手は神崎通。……今日じゃん」

 「すいません……」


 いつ終わるかもわからない事情聴取に今日試合ゲームがあるやつを付き合わせれない。

 今日初となるため息をついた。


   * * * 


 センサーが俺を感知してガラスの扉が開く。数歩歩いて止まる。振り返ると自動ドアはちょうど閉まりきったところだった。

 そして今日二度目となるため息をついた。

 腹いせに十二時ぴったりに来てやったら一時間以上も話し込まれた。彼女がいない理由はなんとか説明してわかってもらえたものの、やはり一度連れてきてほしいということだ。うおぉぉ面倒くさいもの拾っちまったよぉぉ。


 腹も減ってはいるが、なんとなく彼女の試合が気になる。それに、会いたいやつもいる。

 そんなわけで目前にあるどデカいドーム状の建物に向かって歩き出すことにした。


 中に入る前からわかる熱狂。ギャンブラーたちが今日も今日とて元気に騒ぎまわっているのがよくわかる。ドアをくぐると、厳つい連中が物騒な言葉を叫んでいるなか、人ごみをよけながらモニターの見える位置になんとかつく。

 画面は四分割されていて、二人が接近しているか注目度の高い人を映していることが多い。画面の中にリヴの姿が見えないためすでに終わったのか、それともただ接近していないだけなのかはわからない。でも、彼女は狙撃手スナイパーだと言っていた。ならば接近された時点で敗北宣言をするように師匠に言われていてもおかしくはない。


 ただ、彼女の姿は見えないが代わりに見たことのある顔を見つけた。昨日の絡んできた男だ。どうやら戦っているステージは廃ビル街のようだが、迷いがないように一直線に走っている。死角が多い場所であんなことをするのは自殺行為だ。

 不思議に思い画面を凝視していると、誰かが近づいてきた。


 「よー瀬戸ー。久しぶりだなー」

 「あ?あっ、てめ一発殴らせろ」


 間延びした声で話しかけてきたのはノワ・ウォールナット。パーカーにデニム生地のズボン、首にヘッドフォンをかけた深い紺色の髪の姿を認めた俺は拳を作った。


 「あははー仕方ないじゃないかーボクは情報屋なんだからー。君の情報だって求められたら売ったりするよー」


 そう彼女・・は情報屋。昨日対戦した錦戸浩二にしきどこうじに俺の情報を売った張本人。


 「それより珍しいねー瀬戸が観戦なんてー。誰か気になる人でもいるのー?」

 「あー、まあちょっとな」

 「そっかー、リヴ・スペースかー。今は映ってないねー」

 ・・・・・・。情報屋ってみんなこうなんだろうか。怖いの一言に尽きるんだが。

 「知ってるよー、昨日たまたま見たからねー」

 「……どこまで知ってる?」


 恐る恐る聞いてみる。本当にすべて知ってたら軽く記憶を洗ってあげるくらいのことはしてやらないといけない。


 「知ってるわけじゃないけどー瀬戸は警備局からここに来たんじゃないのー?推測だけどねー」

 やだーもうほとんど知ってるようなもんじゃないですかー。怖い。情報屋ほんと怖い。

 「当たってるー?」

 「ノーコメントだ」

 「それ正解って言ってるようなものだよねーあははー」


 言ってない。断じてノーコメントだ。まったく、やりにくいことこの上ない。

 そうだ、つい最近調べ物リストに新しく加わってきたやつがいたんだった。今画面の中で走り続けているやつについて。


 「それよりクルミ、あの左上に映ってる男のこと何か知ってるか?」


 クルミ。ノワは自分が外国人であることを知られないために、クルミという別名で通している。何故クルミなのかは知らない。

 俺が聞くと、ノワはにっと不適な笑みをした。これは商売人の顔ですね。


 「高いよー?」

 「いくら?」

 ノワは右手で三を作って、一度握りそして五を作った。三十五円?安いね!……そんなわけないよなあ。


 「……俺の情報はいくらで売ったんだよ?」

 すると今度は一を作る。その顔は商売人の顔などではなく、完全にいたずらっ子の顔だ。

 「……一万?」

 「千」


 もう怒る気にもならない。それが情報屋が情報へ見出した価値だと言うならもう何も言うまい……。俺の異能とかその他もろもろ安すぎ。閉店セールでもやってんのかよ、こいつ。なんも面白くねえよ。


 俺のことはともかく、あの男は相当な人物らしい。なら、なぜあんな無謀な戦い方をしているのだろうか。

 男は走り続け、そして一つのビルに入っていった。カメラはその姿をビルの外から撮る。カメラが段々上昇しているから、あの男も階段を上がっていっているのだろう。

 そして、とうとう屋上に上りきったところでもう一人の人物が映された。その人物は、


 「リヴ……?」

 ということはあの男が神埼通ということになる。

 「あーあの子がリヴ・スペースかー。……ちょっとまずいなー」


 その間延びした声が珍しく真剣みを帯びていた。やはり降参すべきだ。すぐにでも。しかし、こちらの声はもちろん画面の向こうには届くわけもない。

 リヴは神埼が屋上に上がってきたことに気づき、身を起こして腰から拳銃を取り出し、構えて即座に撃った。

 その弾は普通なら神埼の腹部に当たるはずだった。しかし、弾は神埼の後ろの壁に埋まった。

 リヴの顔に驚愕の色が見える。


 「避けた…?」


 横にいるノワは真剣な顔で画面を見ている。

 立て続けにリヴが撃つ弾は、一度も命中せず、とうとう弾切れになった。

 何故降参しない?なにか理由があるのだろうか。

 神埼は、その右手に持ったリボルバーを撃たずに、歩いて近づく。リヴは金縛りにあったように動かない。いや、動けないみたいだ。

 そして息がかかるくらいの距離になり、長身の神埼は腰を曲げ、リヴの耳元で何かささやく。カメラはその口の動きを捉えてはいない。モニターの周りがその光景を見てざわめき始める。だが、そんなことの構っていられない。

 囁きかけられているリヴは、目を見開いて小さく首を横に振っている。


 しばらくして神埼は姿勢を直し、そしてカメラを見て口を動かした。

 次の瞬間ウィナーコール。出された表示は、勝者はリヴ・スペースだと。


 カメラを見続ける神崎の不気味な笑みに俺は身震いした。俺の中を覗き込まれているような、そんな薄ら寒い気がした。


読んでいただいた方、ありがとうございます。

誤字・文法上の誤りがありましたらご指摘ください。

また新キャラ出てきましたね。お気に入りのキャラです。名前は書きながら考えましたが。

さてさて、物語も少しずつ動いてまいりましたね。これからどうなるのか自分的に楽しみですねー。自分が書くのですけども。

何か面白いことを書くと言ったのに何も書けていませんね。なので、自分のことを少しだけ。

自分の額には傷があります。とても幼いころに兄に石をぶつけられできたそうです。結果、数針縫いました。ハリー〇ッターのような傷です。悪の帝王はどこですか?お待ちしておりますよ?


では、また。

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