第三話 長い一日(厄日)が終わりを告げる
「夏休みって、なんだ?」が最近の口癖となりつつある不動です。
世間はとっくに夏休み。けど自分は明日の授業の予習のことを考えている日々です。まあそれも七月いっぱいで終わるので、八月に入ったらフィーバーしてやりますよ。課題?課題って何ですか?
とりあえず、第三話です。どうぞ。
風の噂、というかただの盗み聞きなわけだがルナティックゲームには世界大会があるというのを聞いたことがある。本当のことかどうかはわからない。その大会で優勝した者の国はさまざまな特典があるとかないとか。そこで、ルナティックゲームを導入している国々はなんとか勝利を得るために研究をして、そしてできたのが異能。何この雑説明。
しかし、異能はすべての人に発現するわけではない。というか、発現する確率は三割を切っているらしい(盗み聞き)。というわけで我が日本帝国は、更なる研究と数撃ちゃ当たる戦法で初回に限り無料で異能発現のためのさまざまな実験が受けられちゃうサービスが開始したのだ!
通称「AE」。
アビリティーイクスペリメントの綴りの略称だ。な~んで日本人はこんなに横文字が好きなんだろ……。
俺がそのサービスを受けた結果、得た異能が「加速」というデメリット、というか使いどころがほとんどない異能だった。加速といっても、瞬間的に音速超える移動なわけだが。
まあ、あれだ。音速に耐えられるだけの体の頑丈さを手に入れたのだ。いいじゃないか、ポジティブに行こう!
「そういやスペース」
「リヴでいいですよ」
ファーストネームですか……。人見知りで照れ屋な僕にはなかなかハードル高いですね。どうせ明日までだろうし名前呼ぶの控えとこ。
「武器はどうしたんだ」
「リヴですよ」
頑なー。勘弁してほしい。ここは俺も負けるわけには行かないな。頑張れ俺。
「別いいだろ。自分の苗字嫌いなの?」
「そういうわけではなくてですね、スペースって日本語で言えば宇宙って言う意味が馴染み深いじゃないですか。宇宙って呼ばれるのは抵抗があるんです。これは譲れませんね。ポリシーみたいなものです」
ほーん。ちゃんと理由があるんですねー。俺にもあるぞ、初対面の人は遠慮しながら接するっていうポリシーが。
「スペースは――――」
「リヴ、ですよ?」
かなり強情だな……。人のこと言えんが。
話が進まないので俺から諦めることにした。やっぱちょろ過ぎだろ……。
「……リヴは武器どうしたんだ?」
「隠してあります、見つからないようなところに」
まあそうだよな。街中でスナイパーライフルなんて運んでたら嫌でも目に付く。なるべく目立つ要素はなくしておいた方がいい。じゃあその金髪も隠しといたほうがいいと思うんだよね!でも隠してないってことは何か事情があるのかもね!知らんけど!
レストランから自宅までの道で一度大通りを通らなければならない。ついでに買い物でもしとくかなと、道に入ったとき人だかりができているのが目に入った。大きなカメラがあったりマイクがあるから、インタビューでもしているのかもしれない。
「なんだあれ」
「さあ、なんでしょう?行ってみますか?」
その言い方、行きたいならついて行ってあげますよ的に聞こえるのはどうしてだろう。考えすぎかな。考えすぎだな。
「いや、いい。疲れたし帰ってなるべく早く寝たい」
そういって再び歩き始めたとき、人だかりから誰かが出てきた。通行人たちもその人物を見ているから、インタビューを受けていたのはあの人で間違いないだろ。
有名人なのかもしれないが、テレビとか全然見ない俺は世事にとことん疎い。興味もさほどわかないため、そのままスルーしよかと思ったが目が合ってしまった。そして俺の後ろに視線が行き一瞬顔をしかめたと思ったら、そのままこちらに近づいてきた。
「陽向さん、何か悪いことしたんですか?目つき悪いですし怪しいですよ?」
「するわけねえだろ。する度胸もない」
というかさらっと目つきのこと悪く言ってやがるし。一応あなたを助けたのは私なんですよ?わかってんの?
「あの人、有名人なんですか?」
「知らん」
俺とリヴが小声で話している間にもどんどんこちらに迫ってきている。そして俺の前で止まった。
茶髪のイケメン君。背は、俺が一六〇ちょいだから、相手は一八〇くらいか。高。違う、俺が小さすぎる。
「ちょっといいかな?」
丁寧な物腰で声をかけてくる。一見ただの優男なのにどこか圧力を感じる。端的に言えばちょっと怖い。
「どこに行くんだい?」
「……普通に帰宅途中ですけど」
「その女の子は?」
あーこれは完全に怪しまれてますね。リヴの言ったこともあながち間違ってなかった。ふと視線を周囲に向けると通行人は足を止め、立ち並ぶ店の客と店員は話を止め全員こちらを見ている。特に俺には侮蔑の目を。この男は相当人望がある人なのかもしれない。人望があるやつが一度疑えば、何も知らない周りのやつらはだいたいそいつに付く。つまりこの場にいるほとんどの人が一時的に敵だ。ならなるべく下手に出て疑いを晴らし、この場を離脱するのが最善だ。
「……連れですけど」
「本当かい?」
「ええ」
それから男は俺の足元に視線を落とし、つま先から頭のてっぺんまで嘗め回すように見た後、
「本当のようだね。すまなかった、最近また過激な者が出没しているらしいから少し疑心暗鬼になっていたみたいだ」
その直後、止まっていた時間が再び動き出したかのように人々が動き出した。大通りの喧騒が戻ってくる。
「いえ、じゃあこれで」
「ああ、気をつけてね」
その言葉は俺に向けられたものではなかったと思う。それに、さっきの言い方は少し違和感があった。信用したのは俺の言葉ではなかったような気がする。気のせいかもしれないが頭の調べ物リストに一応書き加えておいた。
「なんだったんですかね?さっきの」
買い物は諦め、家に向かって再び歩き始めてしばらく、リヴがそんなことを聞いてきた。
「絡まれた原因はお前だよ。まったく」
ため息が出る。ほんと今日は何なんだ、厄日か。死にかけるわ撃たれるわ、挙句にめんどくさいものを引き取ってしまった。いいこと無さ過ぎでしょ。
「リヴみたいな外国人をこの国から追放してるやつらがいるだろ。ならあの人はその逆、反追放団体の人だと思う」
「へーそんないい人もいるんですね」
まあ、そのいい人っていうのはある一点から見た感想なんだけどね。こいつらは守られていいかも知れないけど、こっちは迷惑しか被ってない。今度からあそこら辺の店に行きにくくなったなあ。
俺の家は、市街地から少し離れた場所にある。ぶっちゃけ隠れ家みたいなもので、ほとんど見つかることはない。
「……ここですか?」
リヴが控えめに聞いてきた。わかるぞ、その気持ち。
林の中にちょこんとある平屋の外観は廃屋と見間違えられてもおかしくはない。「お前ごみ屋敷にでも住んでんの?」と言われたら反論できない程度に外はぼろい。でも大事なのは中身ってよく言うでしょ?外見だけで判断するのよくない。
「大丈夫だ、他人に住人がいると悟らせないためにこんな風にしてある。中はちゃんと掃除してあるから」
嘘を交えながら言うと相手は信じるんだよ。逆か。
「いえ、気にしてませんよ」
それは気にしてる人の言い方だね。気にしないけど。
リヴを招き入れ、机に一日装備しっぱなしだった愛銃とナイフを置く。疲れたーーと伸びをしていると、
「その銃見たことがないんですが、特注ですか?」
置いた銃をリヴが手に取り聞いてきた。
「貰いもん。俺の師匠が作ってくれた。ついでにこの家も師匠の手製だ」
「へーかっこいいですね。名前あるんですか?ちなみに私のも市販品を師匠に改造してもらいました」
家のことは無視された。俺からしたら家を一人で建てた方がすごいと思うんだけどなあ。ぼろいけど。それほど銃に夢中でいるらしい。銃が好きな女の子もどうかと思うけどね。
ルナティックゲームに装備の制限はない。したがってどんな改造でもしていいのだ。
「『デイブレイク』と『トワイライト』だったと思う。俺の名前にちなんだそうだ」
「夜明けと黄昏。たしかにどちらも太陽に関する言葉ですね」
まあ名前なんてどうでもいいと思うけどな。こだわりがある人はあるんだろうけど。
それからは、先にリヴを風呂――自家発電をしているため、家電は使える。ぼろ屋だけど。――に入らせ、その間に銃の点検と、読書をしていたらいつの間にか眠っていた。
俺の長い一日がやっと終わった。
読んでいただいた方、ありがとうございます。
誤字・文法上の誤り等ありましたらご指摘ください。
この後書きで何か面白いことでも書けたらなと常々思っているのですが、いかんせん話題がないのです。悶々と十分くらい考えているのですがね。
まあ次回までに何か考えときます。では、また。