「俺」 2
働いたからにはそれ相応の報酬があって当たり前なのに。ギブアンドテイクなのに。ハイリスクハイリターンなのに。キャッチアンドリリースなのに。
―違うか。
大体特に日本人は形のないものに出費したくない性格なはずだろ。なんだ笑顔がお代って。某ファーストフード店によれば笑顔はただなわけで金銭的価値はない。だからそんなくさい台詞はかなくても。
善意で仕事してても腹はふくれないっつーの。大体それで頷いちゃう客も客だよな。普通ならそこでいえ、でも相当の事をしてもらったわけですし。とかなんとかいって意地でも料金は払うだろ。ちょっと粘っただけで納得しちゃうとか。最初から払う気がなかったんじゃないか。一体いつ道寺を懐柔したのか。次からは気を付けなければならない。
それにしても客が来なければ意味がない。口コミの威力はすさまじいと聞くが、どうやら今までの客は残念なことながら皆口が金庫並みに堅いらしい。それにしても口コミってカタカナのロコミみたいでなんか萌えキャラっぽい。良い評判だけぶちまけるコミィ~。
ふぅ。
事務所の構えが悪すぎるのも大きな要因の一つだろう。やはりライバルが多い現代にわざわざこのアパートを選ぶ物好きはいない。
妖相談所。
ふむ。もっと突飛なネーミングにした方が良かったかもしれない。それとポスターも鮮明な色使いで。あーでもカラーは高いしな。プリントするの。
競争が激しいから値段は格安にしたのに。それでも人が寄り付かないところを見るとおそらく競争相手が俺のポスターの上に自社のポスターをかぶせるといった嫌がらせをしているとしか思えない。
道寺はいつも俺がぐーたらしていると文句を漏らしているが、それもこれも仕事がないせいだ。奴がもう少し宣伝にでも力を入れて客が集まれば自然と俺も重たい、三トンはあるでろう腰を持ち上げるのに。象もびっくりの重さだ。百人乗っても壊れない物置も、象が載っても壊れない筆箱も俺にかかれば粉砕するに違いない。
仕事がないとき、つまりはオフの時にしていることと言えば漫画を読むか、パソコンで時間をつぶすかくらいしかない。自然とだらだらしてしまう。
今も「漫画で学ぶ歴史」なるものを読んでいる。
漫画によると昔、さかのぼって平安時代には妖怪と人間との間で争いが続いていたらしい。んで陰陽師さんがたプロフェッショナルの人達が人に害を及ぼす妖怪をびしばし退治してたとか。妖怪がお偉いさん方を狙って陰陽師が守る。特撮ものやアンパンがヒーローのあのアニメのように同じパターンが長らく続いていたらしい。ある意味平和だったのかもしれない。あ、でもたまに応天門なるものに放火したり、将門を煽てたりと大きな混乱を起こすこともあったらしいからあまり穏やかではない。
そして一度大きな戦があった。
総大将ぬらりひょん率いる妖怪軍と、陰陽道を究めた阿部清明を筆頭とする陰陽軍。
この二つの軍は決着をつけるべく、京都を舞台に約十年の月日を戦に費やした。十年間もどう戦い続けたのか詳細は漫画を読むだけではわからないが、おそらく大半がにらみ合いだったに違いない。
合戦の様子は凄まじかったのだろうが、俺にはそれを具現化するだけの想像力が、そしてこの漫画の作者にも画力が足りないわけで、あやふやなイメージしか浮かばない。
だって千年以上も前の事だし。こんなのただの過去でしかないし、テストに出る項目でしかない。この戦があってこそ今の社会が成り立っているとかそういうこともあるのかもしれないが、実感がわくはずもない。そんなことを言ってしまえば今俺がグータラしていることすらも将来の、千年後ほど未来の役に立っているかもしれないわけで。俺もしかすると救世主。妄想乙。