3.ドSへの道
「まず、あいさつです。ドSならば、相手より先に挨拶してはいけません。まぁ、アルカディア様に挨拶しない人間もいないので好都合です。私に挨拶してみてください。」
とても生き生きとしていらっしゃる。
「えっと、おはようございます。」
「あぁ、アルカディア様。もう起きてしまわれたのですね。私は昨晩、貴方が安らかに永眠できるか心配していたのですが、祈りは届かなかったようですね?
もしくはもうすこしストレートに何かおっしゃいました?や、ゴミの掃除が終わっていないようですね。メイドに言いつけておかなければ。というものがあるのですが!」
とても輝いていらっしゃる。というか、心がそれはもう見事にぽっきりと折れた。
「アルカディア様は一応侯爵令嬢なので一番最後のものが良いかもしれませんね。ちなみに、相手の事をそのまま罵ってしまうのはドSではありません。優美に相手に気付かれにくい形で悪意を伝えるのがドSです。試験にでますよ! はい、では復習です。
アルカディア様、おはようございます。」
「あら、ゴミの掃除が終わっていないようですわね。メイドに言わなければ。」
「アルカディア様、素質ありますね……。終わっていないようですわね、の所でふわりと銀髪が揺れたのには私も気持ちいい何かを感じました。しかし、これからはセリフを言い終わった後にその碧眼を緩ませ、少し御笑いになるといいですよ。」
素質あるんだ、私……。誉められてるはずなのに全く嬉しくない。驚きだよ。というか、ロレンスが変態化してる……。気持ちいい何かって何よ?
「次は髪型です。ドSの定番と言えばやはりストレートですので、まっすぐにいたしましょう。それに、服装。できればラインがよく出るものがいいですが、さすがに侯爵家の令嬢がそれではまずいので色は紺、黒、赤色がいいでしょう。」
髪型のセットとドレスを選んでくれたメイドに凄い変な眼で見られた……。
「でも、なんであんなドレスがクローゼットにあったの? 買った覚えなどないのだけれど。」
「私が旦那様にお願いしてアルカディア様ドSバージョンクローゼットにためてあるのです。」
「お父様、オーケーしたの!?」
「旦那様もドSのアルカディア様を見てみたいとおっしゃっておりました。」
国の宰相として活躍していらっしゃるお父様がそんな事を……知りたくなかった身内の素顔という物ですね。
「では、慣れるためにまずは暇そうな弟君のカルロス様と話してみましょう。」
カルロスか……。攻略対象者だからいきなり本番てことじゃない。前の私は貴族の令嬢らしくあまり兄弟と関わってこなかったみたい。そのままいけば兄弟が密かに愛をつのらせておかしくなるところだったわ。
危ない危ない。
よし、気合いれていくわよ!
「カルロス様、アルカディア様がいらっしゃいました。」
カルロスの従者、ルイとかいったっけ? が部屋に声をかける。
「えっお姉さまが!! あ、お姉さま、おはようございます。」
「あら、ゴミが落ちているようですわ、メイドに掃除を言いつけなければ、ね?」
ふむ。我ながら上手い出来だった。
「お姉さま、そんなところまで。ありがとうございます。」
ドSキャラが効いていない! 後ろを振り返ると、ロレンスが声を殺して笑っている。このドSが!とりあえず頑張って話を続けよう
「カルロスは何をしていたのかしら?」
「あの、本を読んでいました。」
ヤバい。これどうやって返そう。えーっとそう、優美に相手を見下すのよね
「あら、本など見ても分からないでしょうから、私が見せてさしあげますわ!」
どうだっとばかりにロレンスを振り向くとついに床にうずくまっている。私のドSさに恐れをなしたのでしょう。あれ、笑っていらっしゃいませんか?