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お兄様の花嫁探し  作者: 白露 雪音
1/2

1 波乱の幕開け

 花の女神フローディアが守護する王国フロラ。

 ソムニウム大陸の東側に位置する国で、女神の祝福とされる花びらが空から舞い落ちる事から花の国とも呼ばれている。

 そのフロラ王国王家の第一王子こと(わたくし)のお兄様、ディオライトは金髪碧眼の麗しい容姿に文武両道、次期国王としても誉れ高い素敵なお方だというのに、どのご令嬢にも首を縦に振らない。今年で二十四になるのに後宮には誰一人いないありさま。

 花の七賢人様方もお小言をこぼしているし、そろそろ誰か無理やり後宮入りしそうだけど、それじゃ両方とも幸せとは言えない。大好きなお兄様にも、私のお義姉様となる方にも幸福でいて欲しい。

 だから私は決意したのです。


「お兄様この用紙にお兄様のお好きなタイプを書きだせるだけ書いてください」

「…………で、それに俺が書いたとしてお前はどうするつもりなんだ、メリア」

「もちろん、これを参考にお兄様の花嫁候補を探しに行くのです!」


 ご尊顔麗しきお兄様、ディオライト・フロラ・フローディアは、私メリアリーヌ・フロラ・フローディアに深くため息をついた。

 お兄様の隣でクスリと笑うのはお兄様の幼馴染であり補佐官である、ラフィド・ユーリである。

 ラフィドは柔和な笑顔を浮かべたまま、お兄様に進言した。


「けれど真面目な話、そろそろ本当にどうにかしないと花の七賢人様方が黙ってはいませんよ。父上も頭を抱えていましたし」

「サクラの称号を持つ、ラフィドのお父様が他の賢人様方を抑えられないでいるのよ。もう腹括って、私のお義姉様を迎え入れてくださいな」

「…………『お兄様のお妃様』、じゃなくて?」

「そうとも言いますわね!」


 ラフィドが口を手で上品に抑えつつも、腹を抱えて笑い出した。

 あら? 何か面白いこと言ったかしら……。


「…………ったく、お前って奴は。お前もお義姉様、お義姉様言ってないで、自分の王子様を見つけてきたらどうだ」

「まだいいですわ、私はお義姉様とウハウハ――――いえゴホン、お兄様が幸せになるのを見届けるまでは、結婚しません」

「お前は、姉って存在に夢見すぎだ」


 夢見て何が悪いのですか。

 フロラ国王には現在三人の子供がいる。お兄様、私、そして弟のクラヴィス。

 つまり私には、お姉様が存在しないのです!

 侍女のローズマリーとミントは仲良し姉妹で、二人の仲良しっぷりを間近で見ている私からしたら羨ましすぎてベッドでのた打ち回るほど。

 その光景を二人に見られたら、


『まぁまぁ、姫様。どうしたんですの? まるで漁船に吊り上げられた小魚のように跳ね回って』


 と、二重奏で言われる始末。

 二人とも年上なのでお姉様ごっこをお願いして遊ぶのだが、やはり本物じゃないから終わると途端に寂しくなる。

 お母様にねだっても、お姉様は生まれてこない。ならばもうお兄様に頼むしかないじゃないですか。


「お兄様は、私の夢を笑うんですの!?」

「お、おいメリア泣くな! …………ったくしょうがないな」


 渋々だったが、お兄様は私が差し出した白い用紙に羽ペンですらすらと何か書いた。そしてぺっと乱暴に寄越してくる。

 私はひらりと舞う用紙を落としそうになりながらも掴み、食い入るように文字を追った。ラフィドも興味があるのか覗き込んでくる。


『1、妹の遊びに付き合う女。2、妹がヘマしても笑顔で流せるほど度量の広い女。3、妹が気に入った女。4、妹が…………以下、略』


「お、お兄様!!」


 見ればお兄様は耳まで真っ赤だ。

 私が感激で震えている中、ラフィドは呆れたようにお兄様を見た。


「……殿下、殿下はシスコンという言葉をご存じで?」

「~~うるさい! 別にこれといって好みなんてない。今までだってビビッとこなかったから断っただけだ!」

「殿下、何も陛下ご夫妻のように誰でも電撃が走るわけではないですよ……」


 お父様とお母様の恋は電光石火! だったらしい。見合いの席で双方電撃が走るなんて、夢みたい。

 そんな経緯もあって、お父様には側室がいなかったので後宮がガランとした状態は二十年以上前から続いている。この分だとお兄様の代も無駄に多い後宮の部屋は使われなさそうですわね。


「しかし、それでどうやって探すつもりなんだ?」

「お兄様のところに来たのは、伯爵家以上のご令嬢、しかも長女が多かったでしょう? だから他のご姉妹の方や、それ以下の身分のご令嬢の方もご招待してお茶会をするのです」

「お茶会ですか? 場所はどこで?」

「私のフリージア宮で行います。数日間滞在して頂いて、ばっちり素敵なお義姉様を見つけてみせますわ!」


 息巻く私を尻目に、ラフィドはお兄様に、難し顔を向けた。


「花の七賢人様方のご了承が必要ですね」

「まあ、俺の花嫁を探す為だって言ったら喜び勇んで協力するだろ。……今から胃が痛い」

「年寄りのいらぬお節介が爆発しそうですね。殿下の場合は自業自得ですが」

「お前な……」


 呻くお兄様に、容赦ないラフィド。私はそんなお兄様達にかまわずどんなお茶会にしようか思いを馳せるのでした。





                 ◆   ◆   ◆   ◆





「……どうしてこうなった」


 頭を抱えるお兄様と、そんなお兄様とは正反対に嬉々とした私がいるのは、特設で作られた貴賓席。フロラ王都スリズィエの中央広場に『ディオライト王子の花嫁探し大会』会場が設営されたのだ。二晩で。

 お兄様の右隣に控えるラフィドが、お兄様と同じく疲れた顔で頭を押さえた。


「やはり、やらかしましたね」

「お茶会じゃなかったのか。メリアのフリージア宮でするんじゃなかったのか。なぜ俺はここに座らせられている……」

「あらやだ、睨まないでくださいなお兄様。ちゃんと私、お茶会をする旨を花の七賢人様に伝えに行ったのよ? ね、私ちゃんと話しましたよね、ラフィド」

「ええ、姫様はきちんとお話しなさいました。ただ父上達がはしゃぎ過ぎてお祭りになってしまっただけです」


 お兄様の花嫁探しをやると言った時の花の七賢人様方の喜びようは半端ではなかった。

 これが最初で最後かもしれないと思ったのでしょう、お兄様が逃げられないようにあっという間に計画を立ててしまわれました。

 お兄様の花嫁候補は、お父様の『運命の相手は貴族だけとは限らん』という言葉で国中の娘達が対象になった。ふれこみを行って次の日には王都の宿が破裂するほどの人で溢れ、路上で寝泊まりせざるを得ない人まで現れたので緊急で騎士団の寄宿舎と訓練所が解放された。

 美しく着飾った娘達がお兄様の姿を一目見ようと広場に集まっている。だが残念ながら薄いカーテンで仕切られている為、はっきりとこちらを見ることはできない。


 うーん、これだと私もお義姉様を探しにくいのですけど……。


「殿下、姫様! ご機嫌はいかがですかな」

「最悪だ」

「最高ですわ!」

「父上、お願いですから羽目を外しすぎないで下さいよ」


 一人の立派なちょび髭をはやした壮年の男の登場で三種三様の返事がなされた。

 ラフィドの父であり、フロラの国王を支え時に厳しく見張る、サクラの称号を持つ花の七賢人の長、グラード・ユーリ様だ。


「はははっ、殿下そんな暗い顔をなさらずに! ここからでは見えにくいですが、なかなかの美女がそろっていますぞ。彼女達の中からきっと殿下のお気に召す娘が現れるでしょう。色々イベントも用意しておりますゆえ、ごゆっくりご堪能下さい」

「……うわー、嫌な予感しかしなーい」


 うっきうきのグラード様にお兄様は空を仰いで嘆いた。

 お兄様とラフィドがグラード様に気をとられているうちに、私は静かに席を立って貴賓席から離れた。

 だってここにいたら、お義姉様を探しにいけないもの!

 お兄様一人では絶対、お義姉様を探してくれない気がするので私、ちょっとそこの広場まで行ってきます。

 もちろん一人では危ないので。


「ローズマリー! ミント! バジル!」

「はい、姫様こちらに!」

「準備はばっちりですわ!」

「…………なんで俺まで…………」


 私付きの侍女、ローズマリーとミント、その弟で近衛騎士団所属のバジルが物陰から現れる。興奮冷めやらぬ姉二人とは対照的にバジルは渋い顔だ。

 分かってます。後でバレたらお兄様とラフィドにとても怖い目に合わされるのは分かっています。けれど……。


「お義姉様を探す為、私どんな手段でも使ってみせますわ!」


 バジルの犠牲も厭いません。今のうち謝っておきます、ごめんなさい。すべてが終わったら料理長の美味しいご飯をおすそ分けしてあげますからね!

 私はローズマリーとミントが用意した簡易衣裳室で素早く着替えると何食わぬ顔で広場に来た。


 ふっふっふ、これぞ『参加者に化けて潜り込み、内部からお義姉様を見つけちゃおう大作戦!』です。

 私の役柄は良家のお嬢様。ローズマリーとミントは付添いの使用人でバジルはその護衛役として来ているということになっている。

 一応変装の意味もかねて、金髪の長い髪をカツラで黒髪にした。目は碧眼のままだがこれだけでも衣装の効果もあって私とはバレにくいでしょう。

 ローズマリーとミントの髪も元々の赤と青から落ち着いた茶にしている。バジルの緑頭も茶に。全員で目立たない仕様。

 おしくらまんじゅう状態の中、三人に守られながら参加申込書を無事に提出した私は、ようやくほっと息をついたのでした。




                 ◆   ◆   ◆   ◆




「…………うん、もうすごく嫌な予感するんだが。メリアどこいった?」

「いつの間にかいませんね……」

「姉様なら、侍女達と一緒にどこかに行きましたよ」


 グラードに絡まれていきなり疲れ切ったディオライトとラフィドは、ようやくメリアがいなくなっていることに気が付いた。ディオライトが呻くと、いつからいたのか、王家の第二王子クラヴィスが立っていた。

 クラヴィスはまだ十二になったばかりだというのに、その堂々たる態度は王族のそれだ。金髪碧眼である兄や姉と違って母親譲りの漆黒の髪と黄金の瞳を持つクラヴィスは将来兄に負けないほどの美形になること間違いなしと言われているが、残念なことにその顔にはあまり笑顔は浮かばない。

 すごく無表情な王子様だった。


「クラヴィス! 見てたんなら止めてくれよ」

「嫌です。姉様は行くと言ったら行く方なので、俺は無駄なことするの嫌いです」

「冷たい……メリアに何かあったらどうする」

「バジルがいましたし、侍女二人も姉様付きだけあって護身術も扱えます。広場に見学に行くくらいなら問題ないでしょう」

「…………あの、姫様が見学だけで終わらせるとお二人は思っているのですか?」


 ラフィドは心配そうに声を上げる。ディオライトとクラヴィスは押し黙った。

 数泊後、クラヴィスが初めて困惑の表情を見せる。


「それ以上はしないと踏みましたが……俺も何だか嫌な予感がしてきました」

「俺は最初っからしてる! あーもう、誰か呼べ! メリアを連れ戻してくれーー」


 しかし簡易とはいえ変装を施した四人組を人の群れの中から探し出すことは叶わなかった。



                 ◆   ◆   ◆   ◆




 花びらがひらひらと舞い踊る。まるでお兄様の花嫁探しを祝福してくれているかのようだ。


 申し込みを終えた私は、案内書をもらい立ち止まって読める所まで下がった。民家にくっつかないと誰かとぶつかってしまいそう。


「えーっと、まずは各々好きな衣装を着て壇上を練り歩けばいいのかしら?」

「ひめ……お嬢様の順番はずいぶんと後ろですね」

「申し込みぎりぎりでしたものね」

「なんでもいいですから、さっさと着替えて会場行って下さい」


 姉二人が弟の足を無言で踏んだ。

 あらあら、仲良しさんですわね。


 有能な侍女である二人の手にかかればコンテスト用衣装など一瞬で用意できる。私は早着替えで衣装を変えると二人を連れ立ち控室になっている天幕の中に入った。男子禁制なのでバジルは外で待機です。

 参加者数が多すぎるので用意されている天幕は数十個におよび、どこも一杯のようだった。


「ごきげんよう。お隣よろしいかしら?」


 私は良家の娘らしく品良く挨拶した。これでもお姫様なので上手に挨拶できたと思うのですがいかがでしょう?

 相手の反応を見ると、清楚そうな大人しい印象の少女は、緊張したようにコクリと頷いた。

 一般市民の方かしら? 良く見ると来ている物が普通のエプロンドレスだ。くすんでいて、あちこち傷みも見える。コンテストに着ていく衣装とは思えなかった。


「あの勘違いならごめんなさい。この大会、急に決まったからもしかして衣装が用意できなかったのではなくて?」

「あ……そ、そうです。……でも受付の人に聞いたところ、衣装は主催者側でも提供してくださるとのことでしたので……」

「まあ、でしたらいらない心配でしたわね。失礼」


 ちゃんと用意できない人の分は準備してあるようです。さすが花の七賢人様達ですわね。

 人心地ついた私は、ようやく周囲に耳を向けられるようになった。席を立ち色々回っていると衣装や飾り、化粧などの話で盛り上がっている女性達の声が聞ける。ものすごく黒い争いが見えたような気がしたけれど、お兄様争奪戦のようなものですし、気持ちは分かりますわ。

 私のお兄様は素敵です!

 ですが私、できればお義姉様になっていただく人は、妹の方にも気が向いてくれる人がいいです。


 ローズマリーとミントを引き連れて歩いているせいか、一瞬にして『良家のお嬢様』に見られる私の前にはささっと道が開く。

 ううん、ちょっと失敗したかもしれません。これじゃ、まともに話ができない……。

 ちらっと参加者を見れば、さりげなく視線を外されてしまう。一般市民が、身分を持つ貴族とは話しにくいだろう。しかし二人を連れていないとお兄様達も心配するだろうし、なにより私が不安になってしまう。

 いつも二人と一緒ですからね……。

 どうしたものかと困っていると、甲高い悲鳴が天幕に響いて驚いて振り返った。ローズマリーとミントが私を囲むように構える。

 悲鳴を聞きつけた女性騎士が入ってくると、中は慌ただしさを増した。

 私達は注意しながら、現場に近づくと一人の少女が座り込み涙を流している。


「あ、あの子!」


 最初に天幕に入った時に話をした大人しそうな少女だった。女性騎士が彼女に声をかけていたが少女は震えて泣くばかりで話が進んでいない。

 心配になった私は彼女に駆け寄り、そっと肩を撫でた。


「一体、なにがあったのです?」

「――――あ…………」

「落ち着いて、はい深呼吸~すってーはくーー」


 大げさに私がやってみせると、彼女はゆっくりと私に合わせて深呼吸をしてくれた。そうそう、まずは落ち着かなくてはいけませんよ。

 何度か深呼吸を繰り返すと、少女の震えがようやく止まった。


「話していただけますか? 何があったのか」

「……はい。あの先ほど衣装のお話をしましたと思いますが、その衣装が届けられたというので、ここまできて……それで」


 ポロポロとこげ茶色の大きな瞳から涙が零れる。私はもういいですわ、と出来るだけ優しい口調で言うと立ち上がって彼女が開いたであろう衣装箱を開けた。


「!! 酷い……」


 無残にも引き裂かれ、ほとんど原型をとどめていない。

 ローズマリーとミントの顔が険しくなった。彼女達は衣装を作ったりするのが好きな人達だ、それをこんな姿にした犯人に憤りを感じたのでしょう。


「そこの騎士様、この衣装箱を届けたのは誰かしら?」

「え、その王宮の衣装係と聞いていましたが……」

「その方、置いて行ったのはこの箱一つ?」

「いえ……他にもいくつか」


 戸惑う女性騎士を尻目に私とローズマリー、ミントが素早く他の衣装箱を確認する。


「……全滅ですわね」


 届けられたすべてのドレスがズタズタに引き裂かれていた。不安げに見つめていた参加者達の中から多くの娘や女性が泣き崩れてしまった。彼女達のドレスだったのだろう。

 お兄様の花嫁探しの大会でこんな酷いことをするなんて赦せませんわ!

 私は姫らしからぬ大股で天幕を出ると待機していたバジルに突撃した。


「ど、どうかしました? なんか騒いでるみたいですけど……」

「バジル、急いでガーベラ様のところへ行ってちょうだい」

「ガーベラ様? バラの七賢人様ですか?」

「あの方が衣装を担当しているはずですわ! 誰か不届き者が混じっているのです、早く!」


 事態があまり把握できずまごつくバジルをガーベラ様の元へ叩き出すと、私は隣の天幕へ行って衣装箱をすべて開け放った。


 ――――――こちらもダメ。ということはすべての天幕で同じことが?


「ローズマリー、ミント、今から私とても無理難題を言ってしまうわ」

「まあ、お嬢様の無理難題なんていつものことですわ」

「慣れっこですわ」


 優雅に笑う彼女達のなんと頼もしい事か。だからついつい我がままを言ってしまうのだけど、これからは気をつけないといけませんわね。


「ドレスを失った人達に衣装の提供を」


 すべての天幕でやられたとなれば、相当な数になるだろう。普通の服ならばいざしらず、コンテスト用のドレスである。容易にはいかないはずだけど。


「あら、お嬢様にしては可愛いお願いですわね」

「ええ、とっても可愛らしいですわね」


 二人は微笑むと私に天幕の中にいるように言って風のごとく行動を開始した。


 さて、私は天幕に戻らないと。あの子のことも気になりますし……。

 そうして踵を返した時だった、誰かに腕を掴まれ引き戻される。


「どなた!?」


 いつも守ってくれる三人がいなくて、私は必要以上に大きな声を出してしまった。


「おっと、失礼お嬢さん。怖がらなくてもいい、怪しい人間ではありませんから」

「じゅーぶん、怪しいですわ」

「そうですか?」  


 見上げるほどに背丈のある男性で、輝く白銀の髪に翡翠の瞳、男性とは思えないほど肌理細やかな白い肌で一見すると儚げな印象を与える美麗な容姿をしていた。

 お、お兄様といい勝負……はっ、いいえお兄様が一番カッコいいですとも!

 しかし、細身で弱そうに見えるのに、振りほどこうともがく私の力をものともしない。やはり美人でも男ということでしょうか。


「何のご用でしょう? 私、忙しいのですけど」

「そうつれなくしないで下さい。俺はただ貴女とお近づきになりたいと思ったのですよ」

「私と?」

「先ほど拝見させていただきました。貴女の行動力には感嘆いたしました。貴女の姿を見て一目でこの人だと思ったのです」

「は、拝見しましたって、貴方、男子禁制の天幕を覗きましたの!?」

「あれ、そっち気にしますか? 失礼とは思いましたが、悲鳴が聞こえたもので」


 それでも覗いたらダメでしょう! 周りには女性騎士が配備されているのだから、彼女達に任せればいいのだ。

 彼は私の反応が不満だったのが、顔を曇らせたが、すぐに涼やかな笑顔を取り戻した。

 あれ、なんでしょう。今、背筋をゾクゾクと這い登るような感じがしました。お兄様やクラヴィスのいう嫌な予感!

 彼はなぜか私の腕から手を下に移動させ、撫でるように私の左手に触れるとそのまま自分の口元まで攫っていった。

 指先に彼の吐息がかかる。

 え? なに? この人なにしてるんですの?


「王子ではなく私のお嫁に来ませんか」


 お兄様のお嫁になるつもりはありませんが、私にはお義姉様を探すという重要任務があるのです!

 つまり、


「すみませんが今ちょっと忙しいのでお断りします!」


 自分の手を思いっきり引っ張ると、私は猛然と走り去った。

 変な人に会いましたわ! なんか怖いので早く戻ってきて二人ともーー!!


 無理難題を押し付けたのは私なのに、今にも不安で押しつぶされそうです。

 イノシシのごとく、男子禁制の天幕へ飛び込み、私はようやく落ち着くことができたのでした。








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