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もんこれ  作者: おでん
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四章/初めての大会

 それが楽しいことだったり、期日が迫っている状況だと、いつもより時の流れが早く感じられる。

 みくるは文字通りモンコレ漬けの毎日を送った。大会までの八日間はなんとも濃密な毎日であったが、過ぎ去ってしまえばあっという間の出来事だった。

 大会前日の夕方、みくるは部室で昇と対戦していた。青葉は毎週木曜日に用事があるため、今日はいない。彼にも用事があるため、時間的にもおそらくこれが大会前にできる最後の試合となるだろう。できることなら勝って終わりたいと、彼女はいつも以上に気合を入れて対戦に臨んでいた。

「これでターンエンドだ」

 昇は百戦王クローヴィスとグレート・グリフォンを本陣に召喚。残り山札三枚をすべて引き、手札を四枚にしてターンを終了する。

 みくるのターン。手札が二枚まで減っていた彼女は陽光の護法陣の効果により第一手札調整で残り山札五枚をすべて引く。これにより双方の山札が尽きた。彼女にとってはこれが最後のターンとなる。

(粉塵、スクロール、火口箱、烈火弾に閃光弾、スペル・バリア、ワルキュリア採魂隊。消耗品が五枚にスペルが一枚。即時召喚可能なユニットが一体か……)

 まずは手札を確認すると、みくるは次に戦場へと目を向ける。彼女のユニットで敵軍領土に侵入しているのは三体で、逆に昇はユニットを八体もこちらの領土に侵入させていた。数だけ比べれば圧倒的に不利な状況だが――

(大丈夫。ベストを尽くせば、まだ勝つ可能性は残ってる)

 これは単にみくるがそう願っているというだけではない。手札を確認し終えた直後にはもう、彼女は一種の予感のようなものを感じていた。気配と言い換えてもいい。その奇妙な感覚は昇との試合数が六○を超えたあたりから稀に感じるようになっていた。

 気配は勝利だけでなく、敗北を感じることもある。そしてどちらであっても、みくるが気配を感じるときは決まって終盤戦の山札がほとんどない状態だった。そのため自信家である彼女は大胆にも、気配の正体は無意識に勝率を計算した結果だと考えていた。

 だが実際、山札が切れた状況であれば相手の手札も捨て山を確認すればほとんど確定させることができる。手札が分かれば、残る不確定要素はダイス目と相手の思考だ。ダイス目は事前に出る数を計算しておくことが可能であり、相手の思考は状況が詰みであるなら考える必要もない。こうしてモンコレはゲームからパズルへと変化する。

 そう、パズルである。以前、昇はゲームよりパズルのほうが得意だと言っていた。その意味をみくるは対戦を重ねることで嫌でも理解することになる。彼は終盤で確率的に正しい選択を導き出せるとき、彼女と比べて格段に計算するのが速く、しかもこれまで一度も間違えたことがなかったのだ。二人と戦ってみて、序盤は人の顔色を読み取るのが得意な青葉のほうが強いと思ったが、逆に終盤は絶対にミスをしない彼のほうがとても強かった。

 しかし昇がどれだけ迅速正確にパズルの答えまで辿り着けるとしても、時間をかけて必死に頭を使えば、自分にだって彼と同じ場所に立てるはずだ。そしてどんなに複雑なパズルでも、答えに辿り着いたときの快感を思い出せば、みくるはいくらでも頑張れる気がしていた。

(さて、それじゃまず昇の手札を確定させますか)

 昇の捨て山に手を伸ばし、みくるは中身を確認していく。このデックとも五○戦以上戦っており、なにが何枚入っているのか完璧に把握していた。

(えーと、残ってるのはサンド、フリーズ、粉塵、ゼピュロス、ストーム・ナイトの五枚か。それぞれのカードの内容は確か――)

 みくるは特定したカードのテキストを思い出す。それが終わると彼女はもう一度自分の手札の内容を確認した。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 今回の戦場に代理地形は存在しない。裏向きで戦場に配置されているカードは互いに本陣だけである。よって昇はまだ見えていない五枚のカードのうち四枚を持っていると推理できる。同時にこれ以上はどうやっても彼の手札を推理することは不可能だった。が、ここまで分かればもう充分だ。

 手札の特定が終わると、みくるは昇の本陣を落とせるかをまず考えることにする。

 今、昇の本陣前には戦天使サンダルフォンとマーブル・ビートルのパーティが陣取り、その右の地形にゼピュロスが単騎でいるという状況だった。三体の合計レベルは一○だ。二つの地形から一つの地形へと同時に進軍を試みることは可能であり、もし本陣戦を仕掛けるならこの三体で行くのがベストだとみくるは考えていた。

 対する昇の本陣には百戦王クローヴィスとグレート・グリフォンがいた。二体の合計レベルは一○だ。なので彼がもしゼピュロスを持っていても即時召喚することはできない。戦闘になれば百戦王の特殊能力でパーティのイニシアチブが合計で+6になる。こちらのイニシアチブはゼピュロスの+1だけであり、先攻はほぼ間違いなく彼だろう。

 グレード・グリフォンの攻撃力は7で百戦王の攻撃力はチャージ+4を含めて8だ。こちらの防御力はゼピュロス1、サンダルフォン4、マーブル・ビートル4の合計9しかない。マーブル・ビートルは後攻をとった場合、特殊能力で防御力が+2されるが、それでも11にしかならない。勝つためにはまず彼の先制攻撃に対抗して生き延びる必要があった。

(攻撃に対抗で使えて有効なのは烈火弾と閃光弾か)

 ブレイズ烈火弾はユニット一体が□か◎マークの特殊能力を持っていた場合、それを使用しているしていないにかかわらず火炎/2Dのダメージを対抗で与えることができる消耗品だ。そして百戦王とグレート・グリフォンは二体とも◎マークの特殊能力を持っていた。もう一つのシャンバー閃光弾は攻撃中のユニット一体に閃光/3Dのダメージを与える消耗品だ。さらに使用者がエンジェルかワルキュリアの場合、3Dで倒しきれなかったときでも相手を行動完了にして攻撃を止めることができた。どちらも強力な消耗品であるため烈火弾はアイテム■以外にコストとしてスペル火を、閃光弾はスペル聖が必要だった。

(どっちか使ってどっちか倒せば攻撃力は10以下になるから、隊列を上からマーブル・ビートル、サンダルフォン、ゼピュロスにしておけば倒されるのはマーブルだけか。で、百戦王の防御力は6でグレートは5と。サンダルフォンの攻撃力は5でゼピュロスは2だから、こっちの攻撃が通れば勝てるけど、まあ烈火弾か閃光弾に対抗がくるか)

 そもそも昇は閃光弾の使用を宣言させてくれないだろう。彼もみくるの手札は当然把握している。となれば攻撃の前にグレート・グリフォンの特殊能力□鷲獅子の一撃でサンダルフォンに8点のダメージを与え、倒しにくるはずだ。なぜなら攻撃して3Dダメージを喰らえばほとんどの場合死ぬが、2Dのダメージなら防御力5のグレートは6/36の確率で生き残るからである。

 みくるは推理した昇の手札を思い出す。彼が対抗で使えるカードはサンド・カーテンとフリーズ・ブリーズと滅びの粉塵の三枚だ。英雄である百戦王が一体でアイテム■とスペル風※を持っているため手札に三枚揃っていればすべて使用可能だった。彼女はその三枚が揃っていると一旦仮定して、対抗で烈火弾を使ったあとの展開を頭の中でシミュレートしてみる。

 昇が取る選択肢としては滅びの粉塵で消耗品の効果を打ち消すか、サンド・カーテンで耐性を与えるかの二つが考えられる。もし粉塵で打ち消してきたらこちらも粉塵を使えばいい。彼は次にサンド・カーテンで耐性を与えるはずだ。それを今度はスペル・バリアDualで打ち消す。対抗で彼がフリーズ・ブリーズを使ったら魔力のスクロールで打ち消し――

(あ、ダメだ。枠が足りない)

 サンダルフォンは一体でアイテム■■とスペル聖※を持っていた。が、それ以外のユニットではゼピュロスがスペル※を持っているだけであり、たとえ手札に消耗品を五枚持っていても相手本陣戦で使える枚数は二枚までだった。みくるは最初に粉塵でなくサンド・カーテンで対抗してきた場合も考えてみる。残念ながらこちらも同様に枠が足りなかった。

 もし昇が対抗で使えるカードを三枚揃えていたら本陣戦に勝ち目はない。

 だが逆に三枚中一枚でも欠けていたら――

(そのときは私の勝ちだ)

 五枚中四枚を選ぶ組み合わせは全部で五パターンだ。その中で三枚が揃っていないパターンは三つ。つまり本陣を攻めれば3/5――六○パーセントの確率で勝てる計算だった。

(いや、違う)

 みくるは烈火弾の成功率を考えていなかったことに気付いた。2Dで5以上が出る可能性は30/36だ。彼女は机の上でエアギターならぬエアそろばんを弾いてパーセントに変換してみる。

(大体八二パーセントってところか)

 次に二つの可能性を掛け合わせる。出てきた本陣戦の勝率は約四九パーセントだった。小数点以下をどう扱うかで数パーセントのズレが生じるため、おおよそ半分くらいと考えていればいいだろう。

(うーん、ちょっと厳しいかなぁ)

 しかしこれで本陣戦の勝率は分かった。そして本陣を落とすだけがモンコレで勝つ方法ではない。みくるは次に判定勝ちの可能性を考えてみることにする。彼女はまず始めに戦場の状況を確認し、次に特殊能力を持つユニットのテキストをあらためて読み直した。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 歩行なら本陣前か横、飛行なら本陣斜め前まで進軍させれば次のターン本陣に攻め込むことが可能となる。この状態を昇はリーチと呼んでいた。戦況は今、みくるがダブルリーチをかけつつも同時にトリプルリーチをかけられている状態だった。

 モンコレは先にリーチをかけたほうが有利にゲームを進められる。そして速いユニットは対抗するためのカードを消耗した終盤戦に強い。これまでの傾向としては昇がイニシアチブ+を持つユニットで先にリーチをかけ、次に本陣を囲んでみくるが消耗するのを待ったあと、最終的に彼女が『特殊能力を持たない、ただ速いだけのユニット』に対抗できなくなったところで負けるパターンが多かった。

 しかし手札さえ揃っていれば速いだけの無能力者など怖くない。そして今回の終盤戦は運がいいことに対抗で使えるカードが手札に多く残っている。これは本当に幸運なことだった。昇がフリーズ・ブリーズで2を出したり、みくるがイニシアチブ差が4もあるのに先攻を二連続で取ったりしなければ、彼女はとっくに負けていただろう。

(この試合は本当に運がよかったなぁ。ま、どれだけ運がよくても最後に勝たなきゃ意味ないけど。……とりあえず侵入されてるユニットを殲滅させるのはできそうかな)

 みくるの本陣は八体のユニットで囲まれている。もし自軍領土に存在しているユニットが本陣にいるヘルヴォル、鐘音隊、キューピッドの三体だけだったなら、せっかく敵軍領土に侵入したサンダルフォンをさげないかぎり殲滅など不可能だった。が、今回は本陣斜め前に太陽を睨む天使、輝く雨の天使、キューピッドの三対がいる。手札の即時召喚可能な採魂隊も含めて七体で相手をすれば、八対すべてを倒しきるのも難しくないように思えた。

 八体の中でゼピュロスのような単純に速くなるユニットを除けば、特殊能力を持っているのは鉄砲蟲と旋風姫シャイヤーだけだ。みくるは速いだけのパーティは一旦後回しにして、最初にシャイヤー、伝令兵、鉄砲蟲のパーティから考えてみる。

(パーティのケンタウロスの数は二だから、シャイヤーが□特殊能力を使ったらパーティに4点ダメージか。こっちが防ぐ手段としては烈火弾で焼くか、採魂隊を即時召喚して□特殊能力で狩るか、それとも単純に防御力が5のヘルヴォルを進軍させるか。でもヘルヴォルだと鉄砲蟲にやられちゃうんだよなぁ。でも鉄砲蟲は防御力1だから火口箱でも倒せるのか。ただ、火口箱はせっかくならダメージが+1される雨の天使がいるパーティで使いたいし……。うーん、どうしようかな。とりあえず伝令兵とシャイヤーが道の上で速くなってるから同時攻撃になることはないのか)

 同時攻撃とはイニシアチブ結果が同じ数になったときに発生し、単純にユニットの基本的な攻撃力と防御力を比べるだけの戦闘だ。これが起きてしまうとプレイヤーに対抗の手段はない。そのため手札的には絶対に勝てる戦闘で単純に攻撃力と防御力が高いだけのパーティに負けるといったことが起こり、みくるも同時攻撃には何度も作戦を狂わされてきた。昇に言わせれば同時攻撃が起こることも考慮して作戦を立てない彼女が悪いらしいが。

(とりあえず横はヘルヴォルと採魂隊でいいかな。たぶん最初に鉄砲蟲が□特殊能力を使ってくるから烈火弾で焼いて。次にシャイヤーが□特殊能力を使ってきたら採魂隊で狩ると。これで向こうの攻撃力は4に下がるからヘルヴォルは普通に生き残って、攻撃で倒す。烈火弾に粉塵で対抗されたら、使った奴を採魂隊で狩ればいいし。……あ、でも先にシャイヤーに動かれてそれを採魂隊が防いだら、鉄砲蟲に対抗で撃つ烈火弾に粉塵使われると対抗できないんだ。まいったなぁ……)

 みくるは試行錯誤の結果、横はヘルヴォルと鐘音隊の二体で攻めることにした。これなら先にシャイヤーの□特殊能力を使われても鐘音隊が自分自身に□特殊能力を使えば生き延びることが可能であり、鉄砲蟲に対抗で使った烈火弾に粉塵を使われても同じく粉塵で対抗し返すことができる。

(攻撃力が足らないから一体残ることになるけど、まあそれは仕方ないか)

 次にみくるは本陣左斜め前にいるストーム・ナイトとクローヴィスの新兵のパーティを考えてみる。

(ストーム・ナイトにイニシアチブが+2あるから、たぶんあっちが先攻でしょ。で、そこに進軍できるのはサンダルフォンとマーブル・ビートルとキューピッドの三体で、即時で採魂隊も可能と。できればサンダルフォンとマーブルは戻したくないから、キューピッドと採魂隊で倒したいところだけど。でもシャンバー撃ったら絶対対抗されるしなぁ……)

 サンダルフォンとキューピッドで攻めれば、逆にどう対抗されても絶対に勝つことができる。しかし最終的には対抗負けすると分かっている戦闘で昇が無駄に消耗してくれるとは思えない。そして対抗するためのカードを温存された場合、本陣前に陣取るゼピュロス、クローヴィスの騎兵、クローヴィスの新兵というパーティに太陽を睨む天使、輝く雨の天使、キューピッドのパーティで勝つことがとても困難だった。

 やはりここは四九パーセントの確率に賭けて本陣を攻める場面なのだろうか。

(……まだだ。きっと答えはある)

 みくるにターンがまわってきてもう一○分が過ぎようとしていた。少し前の彼女ならとっくに判定勝ちを諦めて本陣へと進軍している時間だ。

 しかし今のみくるは違った。ここ二、三日は考えることがあまり苦しいとは思わなくなってきていた。むしろ楽しいとさえ感じ始めている。いつのまにか、彼女は『考える』遊びの虜となっていた。本気で考えているとき、昇は絶対にイラついたりせず、むしろどこか嬉しそうにいつまでも待ってくれる。彼女が考える遊びに夢中になれるのも、きっとそんな彼のおかげだろう。

 ふと、みくるは昇だったらこの局面でどうするだろうと考えてみる。なんとなく、彼ならこの局面からでも簡単に本陣を落として勝ってしまうような気がいた。

(本陣を陥落させるには絶対に烈火弾が必要で、だけど昇が粉塵とサンドとフリーズの三枚を持ってたら絶対に勝てないわけで。……ん? 待てよ。もし三枚揃っていても、私が烈火弾を温存しつつ本陣戦より前の戦闘で昇がどれか一枚を使ってくれたら……。いや、使ったら負けると分かってて昇が使ってくれるわけが――)

 瞬間、みくるは気付いた。

(そうか、ヘルヴォルを横に進軍させたとき□特殊能力で烈火弾を回収すればいいだけじゃん。そうすればキューピッドと採魂隊で斜め前を攻めたとき、ストーム・ナイトは対抗したくてもできない。なぜなら対抗すれば私が本陣を落とせる可能性が出てくるから!)

 モンコレは戦闘に勝つゲームではなく本陣を落とすゲームだ。そのためリーチをかけられると本陣戦以外では手札を消耗するような戦いはできない。思い返してみれば、これは昇にさんざんやられたことだった。

 この事実に気付いたあとはスムーズにその後の展開を考えることができた。本陣斜め前を落としたら、次はあえてキューピッドを残し、太陽を睨む天使と輝く雨の天使の二体で本陣前を攻めればいいのだ。太陽と雨の二体でも、隊列で太陽を下にして対抗で火口箱を騎兵に使えば太陽は生き残り、ディフェンダー+4のおかげでパーティを殲滅することができる。

 だが実際には対抗で使った火口箱にサンドか粉塵で対抗され、太陽を睨む天使は倒されるだろう。なぜならここでカードを温存して全滅してしまったら、キューピッドが前に進み、サンダルフォンとマーブル・ビートルのパーティがゴブリン路上誘拐団のいる左に進軍してしまえば一○○パーセント判定負けすると分かっているからである。そこで昇は本陣戦で負ける可能性が出てくると知りつつも火口箱に対抗するしかないのだ。

 みくるはこの論理に間違いがないか今一度確認する。そして絶対に間違いないと確信できたとき、彼女は吐き出すようにつぶやく。

「……やった」

「答えは見つかったみたいだな」

「うん。お待たせ」

 集中しすぎたせいで呼吸するのも忘れていたらしい。みくるは何度か深呼吸して息を整えると、まずヘルヴォルと鐘音隊の進軍を宣言する。

「ほう、それで来るか」

 昇は一瞬眉をひそめたあと、うっすらと笑った。

 ヘルヴォルの□特殊能力の2Dダメージで3が出てひやりとする場面もあったが、昇は粉塵を使うこともなく、戦闘は完全にみくるのシミュレーション通りに進んだ。

 次にみくるは本陣にいたキューピッドを斜め前のストーム・ナイト、クローヴィスの新兵のパーティに進軍させ、採魂隊を即時召喚させる。昇は隊列をストーム・ナイトが上になるように変更し、ダイスを振る。ダイスの目は3だった。

 ここはとても大事な局面だ。みくるはごくりと唾を飲み込むと、念を込めてダイスを振る。

 そして――

「なあああああ」

 最悪にも5の目が出たダイスを眺め、みくるは絶叫する。直後、彼女は体を後ろにそらすと、バタンと椅子ごと床に倒れた。

「大丈夫か?」

 昇は軽く立ち上がり、聞いてくる。

「あー……頭は打ってないから大丈夫」

 派手に音が鳴っただけで実際にはたいしたことはない。しかしモンコレ的にはこの同時攻撃はまったく大丈夫ではなかった。

 両手を左右に広げ、みくるはしばし呆然とする。その間、スカートは重力に従い捲れ上がり、パンツが全開で見えていた。そのことに彼女は最初から気付いていたが、もう見たければ見ればいいじゃないかとあえて隠さずにいた。だというのに昇ときたら――

「おい、手札が見えてるぞ」

 そっちかよ。と、ツッコミを入れる元気すらなく、みくるは手首を捻ってとりあえずカードだけ隠しておいた。

 しばらく休んでどうにか気力を回復させると、みくるはまず横に転がって椅子から降りる。次に上体を起こして床に座ったまま椅子を戻し、最後にふらふらとまるでゾンビのように立ち上がり、椅子に座りなおす。

 何度見返してもダイスの目は5で、同時攻撃の運命からは逃れられなかった。キューピッドはレベル2でありながらストーム・ナイトと同じだけスペルとアイテムが使え、採魂隊は手札からの対抗がない状況なら同じレベル3にほぼ勝てる強力な特殊能力を持っている。だがその強さと引き換えに、二体は同時攻撃にとことん弱かった。今回の戦闘では隊列が上のストーム・ナイト一体すら倒すことができず、二体はあっけなく散ることとなる。

 これで考えていた作戦は使えなくなってしまった。今、自軍領土には昇のユニットが六体も残っている。次にみくるが本陣前を太陽を睨む天使と輝く雨の天使の二体で攻めたとしても、きっとなにも対抗されずにスルーされてしまうだろう。なぜなら彼は本陣前のパーティを見殺しにしてもまだ三体残るからだ。そしてこちらが歩行の百戦王にちょっかいを出されないようにユニットを左右に二体ずつ分けて四体侵入させても、ゼピュロスとキューピッドのパーティでは二体合わせても防御力がたったの2しかなかった。グレート・グリフォンに攻め込まれ、即時でゼピュロスを召喚されたら、たとえ烈火弾でグレート・グリフォンがこんがり焼けてもゼピュロスの攻撃力2で死んでしまう。

(あっちがイニシアチブ+3を持ってるのに運よくこっちが先攻になって、烈火弾で5以上が出てくれれば勝てるけど。一応ゼピュロスが手札にない可能性もあるのか。そもそもゴブリンにマーブル単騎で勝ったあと、サンダルフォンを合流させないといけないから……)

 気力が回復したといっても、一度途切れてしまった集中力を取り戻すのはなかなかに難しい。みくるは最後の力を振り絞って確率を計算する。そうして色々な条件を掛け合わせてようやく出てきた数字は、約二一パーセントだった。

(ダメだ、低すぎる)

 これなら昇の本陣がサンドかフリーズか粉塵のどれか一枚だと考え特攻したほうがまだ勝つ可能性は高い。

「サンダルフォン、マーブル、ゼピュロスで本陣に進軍」

 ゼピュロスは本陣斜め前から合流する形で進軍するため、みくるは隊列が分かりやすいように三枚のカードを一旦昇の本陣横に重ねて置く。隊列は下からゼピュロス、サンダルフォン、マーブルだ。

「本陣に来るか」

「私から見たら一応まだ落とせる可能性は残ってるしね」

「そうか。俺はストーム・ナイトが同時で生き残った時点で今回の試合は引き分けで満足するつもりだったんだけどな」

「……え」

「そういや、最近みくる化粧してないよな。どうしたんだ?」

 ふと、昇は突然モンコレとはまったく関係ない話題を振ってくる。

 最近はモンコレをするのがとても楽しく、みくるは四日前ついに化粧をする時間がもったいなく感じ、それからはずっとすっぴんで過ごしていた。どうせしても気付いていないだろうと思っていたため彼女は昇の言葉を普通に喜びつつ、「はあ」と小さくため息をつく。なぜならこうして彼が試合中にモンコレ以外の話題を話し始めるときは、決まって彼女がプレイングでミスをしたときだからだ。

 きっと昇の手札には三枚揃っているのだろう。だとしても、みくるにはまだほんのわずかに希望が残っていた。

「モンコレが楽しくってさ。ま、すっぴんでも充分かわいいでしょ?」

 言いながら、みくるはダイスを振る。出た目は2で、振るまでもなく昇の先攻となる。彼は予想通りグレート・グリフォンの□特殊能力でサンダルフォンを狙ってきた。

「対抗するか」

「もちろん。対抗、烈火弾。……あ、ちょっと待って。これを使うのはサンダルフォンとゼピュロスの二体ね」

 コストが二つ以上必要な戦闘スペルと消耗品は、そのコストを二人以上のユニットで分担して支払うことが可能だった。そして烈火弾のコストをゼピュロスとサンダルフォンの二体で支払うことにより、約八パーセントの希望を未来に残すことができる。このことに彼女は烈火弾で対抗する直前に気付いたのだ。

 みくるはダイスを振る。烈火弾のダメージは7だった。

「なら俺はサンドでグレート・グリフォンに耐性/火炎を付ける」

「対抗、サンダルフォンが一人でスペル・バリアDual。サンド・カーテンの効果を打ち消す」

「それにはフリーズだな」

(お願い、出ないで)

 ダイスに手を伸ばす昇を眺め、みくるは祈る。スペル・バリアや魔力のスクロールと違って、フリーズ・ブリーズはスペルを使用したユニットに吹雪/2Dダメージを与えるだけで効果は打ち消さない。よってもし昇が2Dで2か3を出せば、防御力4のサンダルフォンは生き残り、彼女は勝つことができた。

 昇はダイスを二個手に取り、同時に振る。一つはすぐに止まり、2が出た。そしてもう一つは駒のようにくるくると回り――

「合計は7だな」

 どうやら勝利の女神はみくるの後ろからいつの間にかいなくなっていたらしい。残念ながら3/36の奇跡は起きてくれなかった。

「……対抗、魔力のスクロール」

「対抗、滅びの粉塵」

「……対抗、ありません」

 勝敗が決した瞬間、みくるは極度の空腹と軽いめまいに襲われる。

 きっと考えるためにエネルギーを使いすぎたのだろう。みくるは小学校の林間学校で登山をしたときのことを思い出す。今感じている疲労と爽快感は、あのとき山頂で感じたものとよく似ていた。

 この敗北は今の自分が本気で考えた結果であり、みくるに悔いはない。

 が、それでも正解があるのなら知りたいと思う。ただ、今日はもうこれ以上は頭が回りそうになかった。なのでみくるは手っ取り早く、昇に聞くことにする。

「ねえ。私、どうすれば引き分けにできたの?」

「みくるはサンダルフォンと太陽を睨む天使の二体で自軍本陣前を攻めればよかったんだよ。あいつらなら対抗合戦になっても絶対に勝てるし、たとえ同時になってもこっちを殲滅できるからな。そしたら次にマーブル単騎で左の路上誘拐団を倒して、最後に輝く雨の天使とキューピッドをゼピュロスと合流させる。これで敵軍領土に侵入しているユニット数はみくるが四に俺が三となるわけだ」

「ちょっと待って」

 戦場を一旦本陣に進軍する前の状態まで戻してから、みくるは昇が言った通りにユニットを動かしてみる。

「ここまでされたら、俺はもうグレート・グリフォンをマーブルにぶつけて引き分けにするつもりだったよ。そっちが烈火弾と閃光弾を持っているとき、ゼピュロス、雨、キューピッドのパーティをグレートで一匹でも削れる確率は約二三パーセントしかないからな。マーブル単騎で路上誘拐団を倒すとき、俺がゼピュロスを即時召喚すれば約五三パーセントで追い返せる。もし追い返せたならグレートはダメ元で特攻させてもいいが、そのパターンで勝てる確率は約一二パーセント。俺が確実に引き分けを狙えるときは引き分けを選ぶとしたら、約八八パーセントの確率でみくるは負けない試合ができたってわけだ。ま、逆に能動的に勝利を目指すとしたら、さっきみたいに本陣に特攻かけるしかなかったけどな」

「なるほど……」

「さて、それじゃそろそろ帰るぞ」

「うん、おっけー」

 時間的にも空腹度的にもこのあたりが限界だった。みくるも帰るという選択肢に異論はない。彼女は手早くデックを片付け、カバンにしまう。

 部室から下駄箱までの道を歩きながら、昇は言う。

「そもそも、あの局面だったらみくるはヘルヴォルを横に進軍させるべきじゃなかったな」

「なんで? てか、できればそれカードを片付ける前に言って欲しかったんだけど……」

「ああ、悪い。でもみくるだったら最後の局面くらい完璧に思い出せるだろ」

「まあね」

 さすがに最後の試合の最初からを再現することは不可能だったが、疲れた脳でも最後の局面を思い出すくらいなら可能だった。

「で、どうしてダメなの?」

「あれ、最終的に本陣前の戦闘で対抗しなきゃ確実に判定負けするって状態にして、俺から対抗札を釣り出すつもりだったんだろ」

「うん」

「考え方自体は良かったんだ。ただ、あのパターンだとストーム・ナイトと同時になったときが困る。だけどもしヘルヴォルと鐘音隊でストームを攻めれていれば同時でも問題はなかったんだ。そうだろ?」

 みくるは各ユニットの攻撃力と防御力を思い出してみる。ヘルヴォルは攻撃力5の防御力5で、鐘音隊は3の2だ。ストーム・ナイトは5の4でクローヴィスの新兵は2の2。確かにこの数値なら同時になっても双方全滅するだけであり、先攻を取られても鐘音隊の□特殊能力でヘルヴォルの攻撃力と防御力を3ずつ上げれば手札を消耗することなく勝つことができる。

「本陣横はイニシアチブ的に絶対同時にはならなかったから、キューピッドを進軍させて即時採魂隊でキューピッドが閃光弾使えば勝てる。そしたら最後に太陽、雨、キューピッドで本陣前を攻めれば釣りは完璧だったんだよ。ここで対抗して生き残らなきゃ、次にサンダルフォンとマーブルで路上誘拐団を攻められたら一○○パーセント負けるからな。同時が起きても俺の負けだ。つまり、本来ならあの局面は本来なら俺が九割負ける場面だったってことさ」

 そう言うと、昇はなぜか嬉しそうに笑って肩をすくめる。

「……そこで負ける私って、なんなの」

 少しはできるようになったと思っていたみくるにとって、九割勝てる試合を落としたという事実はそれなりの精神ダメージを与えた。ふと、たぶん青葉がデックに入れている胡蝶使いの□特殊能力を喰らったくらいかなと彼女は思う。

「てか、昇ってどんだけ未来に生きてるのよ」

「なんだよそれ」

「だってそうじゃん。昇、すごく強いし。計算で答えが求められる局面じゃ絶対に間違えないじゃん。なんでなの?」

「たぶん、最近は山札が六枚以下になったら手札が一二枚あるつもりで戦うようにしてるからじゃないか。ただ、俺だって間違えることはあるぞ。実際、さっきの本陣戦でみくるがやった烈火弾をゼピュロスとサンダルフォンの二人で撃って希望を残すパターン、俺はうっかり見逃してたしな」

「嘘。マジで」

 前半の手札が一二枚あるつもりで戦うという言葉はいまいち理解できなかった。しかし後半の昇でも間違えるという言葉、そして実際に一箇所だけでも彼より優れた選択に気付けていたという事実に、みくるは衝撃を受ける。

(……って、昇が気付いてないわけないか)

 まだ昇と青葉としか戦ったことのないみくるにとって、彼の存在はモンコレに限っていえば完璧超人だった。なのできっと彼は自分を励ますため嘘をついたのだと彼女は考えた。

 そろそろ下駄箱が近くなってきた。

 昇の家は駅の近くにある。ただし今日も彼は駅とは逆にある保育園へと妹を迎えに行くため、校門を出たらそこでお別れだ。

 みくるは最後に聞く。

「明日の大会、私が優勝できる確率って、どれくらいだと思う?」

 心なしか歩調を緩めつつ、昇は答える。

「人数と面子にもよるだろうな。対戦しなきゃいけない回数が増えるほど運で勝てる可能性は減るし、常連面子が多い場合も青葉が有利か。あいつの相手の顔色から状況を読む能力は対戦回数が多い相手ほど精度があがるからな。逆に常連の数が少なければ、俺らみたいに安定した戦い方のほうが勝率は高いはずだ」

「へへ、そうかな」

 まるで親に褒められた子供のようにみくるは笑う。昇は彼女のことを同じスタイルで戦う者と認めてくれたのだ。些細なことだが、彼女はそれに嬉しさを感じていた。

「だからまあ、最善を尽くしてほんの少し運がよければ、たぶん勝てるさ」

 そんなみくるに引っ張られてか、昇も優しい微笑を浮かべる。青葉がいない状況でそんな顔を向けられると、彼女はすでに彼と恋人であるように錯覚しそうになる。

 みくるは思う。もう大会で優勝する必要なんてないんじゃないか。ここ数日は放課後ずっと一緒にいるし、もう恋人ということでいいんじゃないかと。

(……いや、ダメだ)

 ずっとモンコレをやっていたせいなのか、昇は一つの発言をとても大切にする。ここ数日の対戦で、それがよく分かった。だから少し考えれば、大会前に彼が恋人と認めてくれるわけがないのは明白だった。もしこのタイミングで『もう私たち恋人ってことでいいんじゃない?』と言えば、きっと静かに怒らせるだけだろう。

 校門で別れる直前、彼は言う。

「そういや、その柄は何枚も持ってるのか?」

「その柄って……ああ、ミツバチ柄のパンツはこれ一枚だけど」

 どうやら倒れたとき、ちゃんと見てはいたらしい。

「……てか、なんでそんなこと聞くの」

「いや、その柄を履いてると大会でインセクトデックをなんとなく呼び込みそうだと思ってさ。戦天使でインセクトとやるのは相性的に厳しいし、できれば戦うのは避けたいだろ」


 モンコレの大会でメジャーな方式は三○分一本制のスイスドロー形式と呼ばれるものである。スイスドローとはこれまでの試合結果によって得られた得点が近いもの同士で戦う大会形式で、モンコレでは本陣陥落勝ちは一○、山札切れ判定勝ちは七と、勝ち方によって得られるポイントが少し違った。

 大会当日。ショップにはみくると青葉を含め、六人のモンコレイヤーが集まった。昇は妹を迎えに行っているので今はいない。

 たぶん青葉以外の女モンコレプレイヤーを見るのが珍しいのだろう。あえて話しかけはこなかったが、みくるはプレイヤーの視線を一身に集めていた。

 しかしそれも対戦が始まるまでの話だ。いざ対戦が始まれば、各プレイヤーの目つきは戦う男の目に変わり、誰もが今から戦う相手に集中する。

 みくるの初戦。彼女は用意された六席の中央に座り、まずはスコーピオンデックと戦うことになる。右隣には青葉、左隣にはサングラスをかけた男性が座った。

 スコーピオンと戦うのはこれが初めてだ。しかし公式サイトには大会で上位入賞したデックの内容が公開されており、今回戦ったデックは公開されているスコーピオンデックとほとんど同じだった。結果、みくるは初戦を山札切れ判定勝ちで勝利し、勝利ポイント7を得る。

 スコーピオンとの決着が付いた直後、隣に座っていた青葉が本陣陥落勝ちし、一回戦は終了する。左隣に座っていたサングラスの男性はみくるたちより一五分以上も早く本陣陥落勝ちし、その後は二人の戦いをじっと眺めていた。

 みくるの二戦目。彼女は再び中央の席に座り、一回戦でサングラスの男性に負けた細目の男性と戦うことになる。相手はケンタウロスデックを使ってきた。ケンタウロスはもう昇相手に五○戦以上も戦っているデックタイプだ。彼女は開始一○分で本陣陥落勝ちし、その後は隣で戦う青葉の試合をずっと眺めていた。

(真っ白なやつ履いてきたせいで、逆に引き付けちゃったのかなぁ)

 青葉は今、一回戦で勝利したサングラスの男性と戦っている。そしてどちらもデックタイプはインセクトだった。二戦目も勝ったみくるは次にこの対戦の勝者と戦うことになる。つまり最終戦である三戦目は、どうしても相性の悪いインセクトと戦わなければいけなかったのだ。

 初めての大会で二連勝中とはいえ、インセクトと戦って簡単に勝てるとは思えない。だからといって負けるわけにはいかなかったし、このときのみくるは純粋に一人のモンコレイヤーとして負けたくないと思い始めていた。

 この試合、みくるはサングラスの男性の戦い方を重点的に観察し、記憶した。青葉のデックと戦い方は今さら見るまでもなく分かっている。

 しばらくして、デュエルスペースに昇がやってくる。彼の額には少し汗が浮かんでいた。妹を迎えに行ったあと、急いで来てくれたのだろう。嬉しいことだが、今は少しでも対戦相手の情報が欲しい。みくるは軽く目を合わせると、すぐに視線を戦場に戻した。

 試合は終盤戦までもつれ込み、おかげで男性のデック内容はほとんど把握することができた。ベルゼブブ以外のユニットはすべてインセクトの青葉と違い、男のデックには嵐の魔神パズスが三枚にアンデット・インプが二枚、あとはシャドウ・ストーカーが二枚だけ入っていた。水、風、聖に対応した語法陣も二枚ずつ入っており、インセクトでまとめたデックというよりは手札を増やしてベルゼブブを最大限に活かすデックなのだろう。

 特殊能力で多くのダイスを使うベルゼブブを入れている割に、男の戦い方はとても堅実で、使っているスリーブも無地の緑と、どことなく昇に似ていた。双方の山札が切れると彼は充分に考える時間を取ったあと、最後のターンを開始した。

 そして――

「……ありがとうございました」

 青葉はどうやっても覆せない戦場を悔しそうな目で見つめ、頭を下げる。制限時間いっぱいまでかかったインセクト対決は、最終的に男の山札切れ判定勝ちで終わった。

 この場で二勝しているのはこれでみくると男の二人だけになる。次の三戦目で二人は戦い、勝ったほうが優勝だ。

 いよいよ初出場で優勝という奇跡が現実味を帯びてきた。みくるは何度か大きく深呼吸してなんとか心を落ち着かせる。

 二戦目の終了時間がギリギリだったこともあり、三戦目はすぐに始まった。

 おそらく三戦目の前半がみくるにとって今日一番運がよかった場面だろう。あらゆる局面でダイスの目は彼女に味方し、逆に向こうは英雄を召喚した時の代償でベルゼブブ、ヘラクレス、パズス、アイス・ライム、サンド・カーテンといった厄介なカードを次々と飛ばしてくれた。とくにベルゼブブの代償でベルゼブブが飛んでくれたのは本当に助かった。

 しかし英雄を三種類九体も入れていれば、こんな局面も想定の範囲内なのだろうか。男は重要なカードが英雄点で飛んでいってもほとんど動揺を見せず、淡々と戦場を広げ、インセクトを展開させていく。そしてみくるは強固な虫の壁をなかなか突き破ることができず、じりじりとターンが進んでいき――

(あと一○分か)

 今はみくるのターンだ。彼女は現時点で推理、推測できることをあらためて確認していく。ミスがないよう確実に、それでいて可能なかぎり手早く。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 本陣を落とす方法は分かっている。簡単だ。残りの山札四枚の内容がクロスファイア、ウィークポイント、ゼピュロス、テルブレット消魔弾であればいい。その四枚さえあれば、みくるは約九六パーセントの確率で本陣戦を勝つことができた。

 しかしみくるは今回、代理地形を二枚配置しており、本陣を含めて未知のカードが七枚ある状態だった。言い換えればそれは三枚のハズレが混ざった七枚のクジであり、本陣を落とすにはそこから四枚引き、すべてが当たりである必要があったのだ。その確率は1/35――約三パーセントしかなかった。

 一応、消魔弾だけはヘルヴォルの□特殊能力で捨て山から拾うことも可能である。そして消魔弾を除いた三枚を引くだけなら、まだ5/35――約一四パーセントの可能性が残っている。ただし消魔弾を回収するには男が約一一パーセントの確率でサンド・カーテンを持っていないことが大前提としてあった。そのため山札から消魔弾だけ引けずに捨て山から回収できる確率は、色々な要素を掛け合わせると約四パーセントにしかならなかった。

 単純に当たりを四枚引く確率と合わせても、約七パーセント。

 本陣陥落勝ちを狙って残り山札四枚をすべて引くのは、どう考えても分が悪すぎる。そしてこの事実に、みくるはあらためて状況を確認する前から気付いていた。

 今、みくるは手札を五枚持っている。第一手札調整はまだしていない。陽光の護法陣を支配しているので、なにも捨てなければ山札から二枚引くことができる。手札の内容はバニッシュ、封印の札、アーク・エンジェル、そしてワルキュリア騎兵隊が二枚だ。

 第一手札調整で二枚捨てれば、残りの山札はすべて引ききることができる。そしてもし四枚引いてどうしても本陣を落とせない手札になった場合、どれを残していれば判定勝ちを狙いにいけるだろうか。状況確認を終えたみくるは男が手札に戦闘スペルを三枚すべて持っていると仮定し、ずっとそれを考えていた。

 が――

(ダメだ。これじゃ勝てない)

 どう考えても、判定勝ちを狙うには一枚か二枚、カードが足りなかった。

 それでも諦めずに、彼女は脳細胞を限界ギリギリまで使って、見落とした可能性がないかを探し続ける。なにも考えず二枚捨て、神に祈りながら四枚引くよりも確実に良いと言える選択肢がどこかに残っていると信じて。

「対戦時間、あと五分です」

 無感情な店員の声。

 三戦目、青葉はすでに本陣陥落勝ちを決めている。現時点で彼女は二一ポイント持っており、トップだった。もしこのままみくるが時間切れで引き分けを選べば、得られるポイントは三だ。ポイントで並ぶには、最低でも山札切れ引き分けで四ポイント獲得する必要があった。

 カードを持つ手が震えてくる。頑張ってずっと敗北の気配を無視していたみくるにも、抑えきれない焦りがやってくる。

 もう限界だ。

(手札が九枚あれば、判定勝ちも狙えるのに!)

 せめて今回だけでいいから、手札を九枚にして戦うことができたら――

「……うぅ」

 それに気付いた瞬間、みくるは脳天からつま先まで本当に電流が流れた気がした。

 暗闇で床にロウソクの火だけを頼りに大きな絵を描いてて、突然部屋の電気がついて全体像が見えたように、今まで個別に考えていたことが一気にみくるの頭へ飛び込んでくる

(え、なにこれ。もしかして昨日昇が言ってたことって、こういうこと? 7/35……いや、たぶん10/35。三三パーセントでなにかしらの戦闘スペルが欠けていることも考えたら、もっとある。それにヘルヴォルとケルブの二体がパズスとゴールデン・シザースのパーティと同時になる確率と足し合わせたら――)

 七枚から四枚を抜き出す組み合わせは三五パターンある。そして判定勝ちするために必要な手札は、なにもこのターンの最初に揃っていなくてもかまわない。最初から本陣陥落勝ちを諦め、第一手札調整でなにも捨てず二枚引き、メインフェイズで手札を消耗したあと、第二手札調整で残りの二枚を引く。相手のターンで使う予定のカードは第二手札調整までに引くと仮定し、擬似的に手札を九枚あると考える。みくるの頭に浮かんだ7/35や10/35といった数字は、そうやって判定勝ちを狙ったとき、勝てる手札のパターン数だった。

「はは、ははは……」

 妙な声を出したかと思えば今度は笑い出したことで、男が眉をひそめる。だがそんなことを気にしている暇はない。実際にプレイする余裕も考え、みくるは残り三分までと時間を決めて計算を始める。たとえ時間が少なくても計算を怠るわけにはいかない。なぜなら判定勝ちを狙うなら多くの戦闘をこなす必要があり、起きて欲しくない同時攻撃の確率などを掛け合わせていったら、もしかしたら普通に四枚引いたほうが勝率が高い可能性もあるからだ。

「対戦時間、あと三分です」

(たぶん、大丈夫……)

 さすがに全部のパターンは計算し切れなかったし、急ぎでやったせいで計算間違いがあったかもしれない。ただ、計算できた範囲だけでも最初から判定勝ちを狙ったほうが勝率が高いというのが分かった。それは、たった一パーセントの違いでしかなかったが。

「おまたせしました」

 みくるは対戦相手に頭を下げると、次に山札へと手を伸ばす。

「手札は捨てなくていいんですか?」

 ふと、男が聞いてくる。

「はい、これで大丈夫です」

 男が手札に戦闘スペルを三枚揃えていた場合、消魔弾かクロスファイアのどちらかが最初に来て欲しかった。そして実際にみくるが引いたのは――

(オーロラ・カーテンとクロスファイア)

 これで最初の運試しは乗り越えた。しかしホッとしている時間はない。みくるはまず本陣前にいるヘラクレスとシャドウ・ストーカーのパーティにマスティマで進軍を仕掛ける。ダイス目は5と3で、先攻は彼女が取る。

「マスティマ攻撃。対抗、騎兵隊を二枚捨てて攻撃力」

「対抗、ヘラクレスが□すくいあげ」

「対抗、封印の札」

「対抗ナシ」

 男も残り時間が少ないのは当然分かっている。いつも昇と戦っているときのようにみくるが理解できる範囲で言葉を省略すると、向こうも合わせて省略してくる。こうして五分以上も停滞していた戦場は、その姿を一気に変えていく。

 マスティマで自軍本陣前を殲滅させると、みくるは次に自軍本陣左斜め前にいたヘルヴォルとケルブのパーティを前のパズスとゴールデン・シザースのパーティへとぶつける。ダイス目は2と1で、先攻は再び彼女が取る。

「ヘルヴォルがパズスに□聖痕の弾丸。回収するのは消魔弾で」

 本陣陥落勝ちを諦めた今、ここで本当に回収したいのは閃光弾だった。閃光弾か眠りの粉のどちらかは次のターンでどうしても使いたいカードだ。しかし消魔弾は消魔弾で使えるカードであり、さらに無事2Dで4以上出たとなれば、男は絶対に無視はできないはずだった。

「対抗、パズスがヘルヴォルに□特殊能力」

 予想通り、男はデーモンであるパズスを手札から捨てて対抗してきた。これで□特殊能力のダメージは+3され、電撃/1D+3となる。ダイス目は5だった。この局面でまったく厄介な目を出してくれる。

 ヘルヴォルの防御力は5だ。ここでエンジェルかワルキュリアを防御力+1Dするケルブの□特殊能力で耐えられるかどうか。勝つために必要なカードを引ける確率を除けば、計算した中で一番運が必要な場面が今だった。

(お願いだから、ここで3とか出ないでよ……!)

 時間がないのでみくるは一瞬だけ念を込めると、ダイスを振った。そして出た目は――

「……5!」

 最大の運試しを乗り越えたことで、みくるは思わず出目を叫んでしまった。そんな彼女とは対照的に、男は淡々と対抗を宣言する。

「対抗、パズスがサンド・カーテン」

「対抗、ヘルヴォルがクロスファイアDual」

「……対抗ナシ」

 一瞬だけタイミングを遅らせ、男はそう宣言する。ここで男がアイス・ライムかフリーズ・ブリーズを使ってくれればみくるの勝つ確率が上がったのだが、さすがは青葉にも勝って二連勝しているだけはあり、勢いで使ってはくれなかった。きっと彼女が必死に勝つ方法を考えている間、男もまたずっと負けないように対応を考えていたのだろう。

 サンド・カーテンを消耗させクロスファイアでパズスを倒したあとは、ゴールデン・シザースの反撃でケルブが倒され、ヘルヴォルは元の地形に戻る。次にみくるは敵軍本陣にリーチをかけていたエゼキエルと騎兵隊のパーティで、すぐ前のシー・スコーピオンとナーガの胡蝶使いのパーティを攻める。相手にイニシアチブが-3あるおかげで難なく先攻を取り、エゼキエルの□特殊能力と戦闘スペルのバニッシュを消費して彼女は進軍を成功させた。

 ここまでくれば、あとはアーク・エンジェルと採魂隊をエゼキエルたちが支配していた地形に移動させ、第二手札調整で当たりの組み合わせが引けることを祈るだけだ。みくるは震える手で山札を引いてくる。最後に残っていた二枚はウィーク・ポイントと眠りの粉だった。これなら――

(勝てる!)

 ターンが男にまわる。これが最後のターンだ。

(あ、やば。なんか気持ちいいな、これ)

 今、二人の対戦は最後に残った優勝を決める戦いという以上に注目されていた。まさか相性的に不利な戦天使が判定とはいえインセクトに勝つとは思っていなかったのだろう。対戦中の二人を除いた四人の参加者は、制限時間ギリギリで勝負が決まる瞬間を今か今かと待っていた。

 きっと男は最初にベルゼブブでアーク・エンジェルと採魂隊のパーティに勝負を挑み、自軍領土に侵入されているユニット数を削りに来るはずだ。そこをウィークポイントとオーロラ・カーテンを使って相手を消耗させたら、それでみくるの勝ちは決定する。

 しかし男はみくるの予想を裏切り、ベルゼブブでヘルヴォルを攻めてきた。ダイスの目は1と6で、先攻は男が取る。

「攻撃で」

「対抗ありません」

 まだ勝負は決まっていないというのに、みくるは軽く笑顔を見せつつそう宣言する。ただ、彼女が笑ってしまうのも無理はなかった。なぜなら彼女の勝利はもうほとんど間違いのないところまで来ていたのだから。

 男は次にゴールデン・シザースと即時召喚したベルゼブブの使途の二体でマスティマを攻め、アイス・ライムDualでマスティマを氷漬けにする。これで男はみくるの領土に三体のユニットを侵入させることに成功した。だが、男が勝利するにはアバドンでエゼキエルかアーク・エンジェルのパーティを殲滅する必要がある。

 アバドン。それは捨て山のインセクトをゲームから除外するごとに攻撃力と防御力を2ずつ上げていく、ベルゼブブとはまた違った、もう一体のインセクトの王だった。

 みくるは青葉のインセクトデックと対戦することで、アバドンの怖さをよく理解していた。捨て山に生贄が溜まっていない序盤ならまだしも、一五体ものインセクトが捨て山に眠っている今、アバドンは攻撃力防御力ともに三○点オーバーする可能性を秘めた化け物だ。

 が、そんな化け物にも対処法はある。

 簡単だ。倒せなくても、攻撃してきたら行動完了にして帰ってもらえばいいのだ。それは基本的に時間稼ぎにしかならない対処法だったが、今はもう最終ターンである。一ターン時間を稼げれば、それでよかったのだ。そして眠りの粉はレベル5以上のユニットを普通/対抗で行動完了にさせる、みくるの最後の切り札だった。

 みくるは残った三枚のカードから眠りの粉だけを左手に持ち、あとは伏せる。

 それだけで、男はみくるがなにを持っているか察したようだ。今までポーカーフェイスならぬモンコレフェイスを貫いてきた男が、わずかに顔を歪ませる。そして男は力の抜けた声で、アバドンとワインド・センティピードの進軍を宣言する。

 もう、完全に勝てると思っていた。みくるは振り向いて昇を見ると、嬉しそうに微笑んだ。そしてあとになって考えると、それが勝利の女神を嫉妬させてしまったのかもしれないと彼女は思う。

 この試合最後のダイスが振られる。

「――ふっ」

 状況を飲み込んだのは男のほうが早かった。男は一人短く笑ったあと、言う。

「同時です」

 力を失ったみくるの左手から、眠りの粉がテーブルにぽとりと落ちた。


 みくるは子供の頃、蟻をティッシュで包みライターで燃やしたことがある。

 もしかしたら、そのバチが当たったのかもしれない。ショップから駅までの帰り道、みくるはふとそんなことを考えていた。

 昇と青葉は今、みくるの数歩後ろを静かに歩いている。二人とは、試合が終わってからまだ会話らしい会話をしていない。

 おそらく二人はみくるがとても落ち込んでいると思っていることだろう。実際、彼女は落ち込んでいる。ただ、気分が落ちているのは極度の空腹が最大の原因だった、そして今の気持ちは負けて悔しいというより、むしろ楽しいお祭りが終わってしまい寂しいといった感じのほうが強かった。

 駅まであと少しとなった頃、昇が言う。

「あの局面で判定勝ちを狙いに行ったみくるの選択は、間違ってなかった」

 みくるは立ち止まると、振り返って昇を見る。彼はパタンと携帯を閉じ、ポケットにしまうところだった。

「ずっと計算してくれてたの?」

「ああ」

「……そっか。ありがとう」

 微笑を返すと、みくるは駅に向かおうとする。

「待ってくれ」

「……なに?」

 再び振り返る。すると彼は目線をチラチラと泳がせ、たまに咳払いや頭を掻いたりするだけで、なかなか用件を言おうとしなかった。

「言いたいことがあるなら、早めにはっきり宣言して欲しいんだけど」

 ふと、前に似たようなセリフを自分も言われたなと思う。宣言なんて普段は使わない言葉が自然と出てくるようになってしまうとは、どうやらみくるも昇のように、もう引き返せないところまでモンコレに脳を犯されはじめているらしい。

 みくるが促しても、昇はまだそわそわとしていた。だがしだいに落ち着いてくると、彼は視線をまっすぐ彼女に合わせ、一呼吸置いたあと、言う。

「俺の彼女になってくれ」

 きっと壮絶な試合のあとで脳にエネルギーが足りていなかったせいもあるだろう。みくるは突然の告白に、しばらく反応らしい反応を返すことができなかった。

「……聞こえなかったか?」

 昇が恥ずかしそうに小さな声で聞いてくる。

「いや、聞こえたけど。……え、でも優勝したのは桜井さんで、私は三位なんだけど」

「たかがゲームの結果ぐらい、どうでもいいだろ」

「それ、昇が言うの」

「ああ、言うさ。モンコレなんて所詮は子供の遊びだ。でも本気でやれば、子供の遊びもなかなか面白かっただろ」

「うん」

 今なら甲子園を目指して毎日泥だらけになるまで練習する高校球児の気持ちが分かる。これはなにも大げさなことではない。野球でもサッカーでもカルタでもモンコレでも、きっと本気でやるのはどれも大変で、だけど本気でやるからこそ本当の面白さを知ることができる。大会までの果てしなく濃密な特訓の日々は、みくるにそれを気付かせてくれた。確かにモンコレも、青春の一つの形だ。

「そもそもゲームで重要なのは結果じゃない。ゲーム中、勝つためになにを考えて行動し、そいつが今出せる力の中でどれだけ力を出し切れたかが大切なんだ。そして俺は単純に強い奴より、たかがゲームに本気になれて、へとへとになるまで全力を出し切れる、そんな……みくるみたいな奴が好きなんだ」

 好きという言葉が出てきたことでみくるもようやく感情が状況に追いつき、胸の奥からじわじわと暖かな気持ちが湧き上がってくる。だが、まだ完全にこの局面を理解したわけではない。彼女はこのまま喜んでいいのか、しばし戸惑う。

 すると昇が先ほどよりも大きな声で、再び宣言する。

「俺はみくるが好きなんだ。だから俺の彼女になってくれ」

 それは少々ひねくれたところのある彼には似合わない、ストレートな二度目の告白だった。

「なんか捻りがないっていうか、ド直球だね」

「知るか。好きなもんは好きなんだから他に言い方なんてないだろ」

 これもまた、彼に似合わない子供のような幼稚で感情的な論理だった。しかし彼が恋をしてしまったのなら、これくらいのことは別に不思議でもなんでもない。

「それに、みくるなら知ってるだろ。俺はパズル|《計算》は得意でも、ゲーム|《駆け引き》は苦手なんだよ」

 多少落ち着いてきたのか、ちょっとひねくれた彼が戻ってくる。

「うん。そうだね」

「分かったなら、返事を聞かせてくれ」

 そんなの、考えるまでもない。

「まあ……対抗ないです」

 みくるがそう答えた直後、青葉が言う。

「わたしは対抗したいかなー」

 そう言いつつも、青葉の表情はほとんど諦めモードだった。まあ、ここまではっきりとした告白を見せ付けられたらそれも仕方がない。

 ふと、みくるは思う。

「ねえ、確か昇の家ってここから歩ける距離にあるんでしょ?」

「ん? ああ、そうだけど」

「なら、今日これから行ってもいい? 青葉も一緒に行こうよ」

「ダメとは言わないが、狭いぞ。つか、三人でなにする気だ」

 一緒にカラオケに行ったり、帰り道に公園で隠れてキスしたり。前々から、彼氏ができたらやりたいことは色々と考えていた。ただ、今一番みくるがやりたかったのは――

「とりあえず、行く前にどっかで美味しいものでも食べてからさ」

 昇と青葉。二人の顔を見て、みくるは笑う。

「今日はみんなで、モンコレしようよ」


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