第54話「王都、一日目」
門をくぐった。
音が変わった。
街道の静けさから一転して、人の声、荷馬車の音、商人の呼び込み、鍛冶の音、何かを叩く音が混ざり合って壁に反響している。石畳の道が真っすぐ伸びている。両側に建物が続いている。二階建て、三階建て。南の港町とは規模が違う。
「うるさいっすね」とマリネが言った。でも目が広がっていた。
「慣れる」とルイは言った。
「ルイさんはこういうところ来たことあるんすか」
「似たようなところには」
「また昔の話っすか」
「そうだ」
マリネが「いつか全部聞かせてほしいっすね」と言った。
「機会があれば」
* * *
まずギルドを探した。
道行く人間に聞いた。三人目にようやく場所がわかった。大通りから一本入ったところだと言った。
見つけた。
大きかった。南の港町のギルドとは比べ物にならない。建物が三階建てで、入口が広い。外に依頼の告知板がある。貼り紙が何枚も重なっていた。
中に入った。
広い。受付が五つある。冒険者が大勢いた。ざわついている。装備が重い連中が多い。ランクが上の者が集まっているのがわかった。
受付に向かった。登録の更新と、現在のランク確認を頼んだ。手続きは早かった。王都のギルドは慣れている。
受付の女が書類を確認しながら「三人ともCランクですね。王都での活動を希望ですか」と言った。
「しばらくここを拠点にする」とルイは言った。
「わかりました。王都周辺の依頼は現在魔物の出没が多いため、Cランク以上に開放されているものが増えています。詳細は告知板をご確認ください」
「魔物が増えている原因はわかっているか」
受付の女が少し表情を変えた。「現在調査中です。詳しいことはまだ」
「そうか」
ルイは告知板を一通り確認した。依頼の数が多い。討伐、護衛、調査。内容が多岐にわたる。魔物の討伐依頼が特に多かった。王都近郊、北の村、東の街道沿い。報酬が高い。それだけ状況が切迫しているのがわかる。
「今日はここまでにする」とライルに言った。「宿を取る。情報を集めるのは明日からだ」
「同意だ」
* * *
宿を探した。
大通り沿いの宿はどこも値が高かった。一本外れた路地に手頃な宿があった。清潔だった。主人が無愛想だったが、部屋はしっかりしていた。三人分の部屋を取った。
荷物を置いてから、三人で通りに出た。
夕方の王都は賑やかだった。食堂が並んでいる通りがあった。香りが混ざり合っている。焼いた肉、スープ、香辛料、焼き菓子。
ルイは歩きながら鼻で確認した。知っている匂いと、知らない匂いがある。知らない匂いのする店の前で足を止めた。
「何の匂いだ」とマリネに言った。
「私に聞かれても」とマリネが言った。
店を覗いた。煮込みを出している店だ。鍋の中に濃い色のスープが入っていた。表面に油が浮いている。香りが複雑だ。発酵のものが入っている。
「ダルモか」とルイは言った。独り言に近かった。
「もしかしてそれっすか、ガルドさんが言ってたやつ」とマリネが言った。
「入る」
三人で入った。
スープを頼んだ。出てきたものを一口飲んだ。
発酵の深みがあった。塩気の奥に旨みが重なっている。味噌に似ているが、もう少し滑らかだ。複数の素材を合わせて発酵させている。仕込みが長いタイプだ。
「これがダルモか」とルイは言った。
「旨いっすね」とマリネが言った。「なんか複雑な味っす」
「発酵させた調味料の味だ。時間をかけて作る。だから味に深みが出る」
「作れるんすか、これ」
「材料次第だ。壺はある。素材が揃えば仕込める」
ライルが「それが目的だったんだな、ずっと」と言った。
「ああ」
「壺を持ち歩いていたのもそのためか」
「そうだ」
ライルが少し黙った。「計画的だな」
「当然だ」
マリネがスープをもう一口飲んだ。「これが作れるようになったら、また料理の幅が広がるっすね」
「広がる。それだけじゃない。この味があれば作れるものが増える」
「楽しみっすね」とマリネが言った。
ルイはもう一口飲んだ。味を確認した。頭の中で素材を分解していた。何を使っているか。どう合わせているか。時間をかければ近いものが作れるはずだ。
窓の外に王都の夜が広がっていた。人の声が続いている。灯りが連なっている。
やることがある。食材がある。作りたいものがある。
それで十分だった。




