第53話「王都の手前で」
翌朝、早めに出た。
空が晴れていた。昨日より風が強い。北の風だ。冷たいが、空気が澄んでいる。遠くまで見通せた。
歩き始めてしばらくすると、街道の様子が変わってきた。荷馬車の数が増えた。旅人の数も増えた。行き交う人間の服装が多様になった。商人、冒険者、農夫。それぞれが違う荷物を持って、同じ方向に向かっている。
「人が増えてきたっすね」とマリネが言った。
「王都が近い。人と物が集まってくる」とルイは言った。
「なんかわくわくしてきたっす」
「気を抜くな。人が増えるところはスリも増える」
「そういうこと言うっすよね、ルイさん」とマリネが言った。でも荷物をしっかり抱え直した。
ライルが「ルイ、王都に着いたらまず何をする」と言った。
「冒険者ギルドで登録の更新をする。それからガルドの店を探す」
「食材が先か」
「ギルドが先だ。ただし、ギルドの場所を探しながらガルドの店の場所も調べる」
「同時進行か」
「当然だ」
マリネが「王都のギルドって大きいんすかね」と言った。
「大きいはずだ。王都は規模が違う。依頼の数も、冒険者の数も」とライルが言った。「ランクが上の依頼も多い。今の俺たちには手が届かないものも多いだろうが」
「今の俺たちには、ってことは将来的には手が届くようになるっすか」
「そのつもりで動いていれば」
マリネが「よし」と小さく言った。
* * *
昼前に、街道が丘に差しかかった。
丘を登りきったところで、三人が同時に足を止めた。
遠くに、城壁が見えた。
大きい。想像していたより遥かに大きい。灰白色の石の壁が、地平線に沿って伸びている。中央に高い塔がある。塔の先端に旗が立っていた。風を受けて翻っている。城壁の手前に広がる街並みが、ここからでも見えた。
「でかいっすね」とマリネが言った。声が少し小さかった。
「王都だ」とルイは言った。
「想像より全然でかいっす。こんなところに来たんすね、私たち」
ライルが黙って城壁を見ていた。少し間があってから「来たな」と言った。それだけだった。
ルイも黙って見た。
遠目に見ても、規模が違うのがわかる。人が集まれば物が集まる。物が集まれば食材も集まる。ダルモとクロタレがある。それだけではないはずだ。あの規模の都市なら、まだ知らない食材がある。まだ食ったことのない組み合わせがある。
「行くか」とルイは言った。
「行くっす」とマリネが言った。
三人で丘を下り始めた。
* * *
王都の門まであと半刻ほどの距離になったところで、街道脇の草地に人が集まっているのが見えた。
露店だった。
街道沿いに幾つかの露店が並んでいた。王都に入る前の最後の商いをしている行商人たちだ。野菜、果物、乾物、干し肉。荷物を広げて旅人に売っている。
「寄るっすか」とマリネが言った。
「少し見る」とルイは言った。すでに足がそちらに向いていた。
ライルが「止める気はない」と言った。マリネが笑った。
露店を見て回った。
南では見かけなかった野菜がいくつかあった。細長い根菜で、皮が紫色のものだ。匂いを嗅いだ。土の香りの中に、わずかに苦みがある。加熱すると抜けるタイプの苦みだ。
「これは何という」と売り手の老人に聞いた。
「ガルネっていうよ。この辺でしか取れない。煮ると甘くなる」と老人は言った。
「いくつか買う」
次の露店に乾燥させた茸があった。形が平たい。傘が大きい。乾燥しているのに香りが強い。水で戻せば旨みが出るタイプだ。
「これも買う」
マリネが「次々買うっすね」と言った。
「王都に入ったら値が変わる。外で買える物は外で買う」
「そういう計算もするんすね」
「当然だ」
一通り見てから、また歩き始めた。荷物が少し重くなった。
城壁が近づいてくる。門が見えてきた。人の列ができていた。荷馬車が並んでいる。
「並ぶっすか」とマリネが言った。
「並ぶ」とルイは言った。
列の最後尾についた。
城壁の影が差してきた。石の壁が高い。冷たい風が壁に当たって渦を巻いた。
マリネが壁を見上げながら「ほんとに来たんすね」と言った。
「来た」とルイは言った。
それだけだった。
列がゆっくりと進んでいった。




