表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腹ペコ旅団、異世界を往く〜転生者は今日も腹を空かせる〜  作者: 大輔


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/54

第48話「走る鳥と、卵」

 朝に宿を出た。


 街道はまだ続いている。轍の跡が深い。昨日より空気が冷たい。北に向かっているのが肌でわかった。


 歩き始めて一時間ほどで、道が緩やかに登り始めた。丘の手前に林が広がっている。針葉樹が混じり始めた。南では見なかった木だ。


「今日も歩くだけっすかね」とマリネが言った。


「どうだろうな。この辺は魔物が出ると宿の主人が言っていた」とライルが言った。


「どんな魔物っすか」


「詳しくは聞かなかった。走り回るやつだとは言っていたが」


 ルイは林の方を見た。草が揺れている。風ではない。


「いるな」と言った。


   *   *   *


 林の縁から出てきたのは、鳥だった。


 大きい。マリネの腰くらいまである。翼は小さく、飛べないのがわかる。足が長くて太い。首が細長く、頭が小さい。色は灰褐色で、喉の辺りだけ白い。


 一体ではなかった。続いてもう二体、林の中から姿を現した。


 三体が横並びになって、こちらを見ている。


「でかいっすね」とマリネが言った。声が少し上ずっていた。


「タルビだ」とルイは言った。「足が速い。正面から追いかけるな」


「食えるっすか」


「食える。肉が多い」


 マリネが「よし」と言った。短剣を抜いた。


 タルビの一体が動いた。


 速かった。


 地面を蹴る音が聞こえたと思った瞬間には、もうマリネとの距離が半分になっていた。マリネが短剣を構えたまま固まった。


「横に」とルイは言った。


 間に合わなかった。


 タルビの肩口がマリネの腹に入った。大きな衝撃ではないが、マリネがよろけて片膝をついた。


「っ、痛い」


 ルイは棒を構えた。マリネに向かっていたタルビの首元を横から打った。鈍い音がした。タルビが体勢を崩して数歩よろめく。


 残り二体がこちらに向いた。


「ライル、右を頼む」とルイは言った。


「わかった」


 ライルが魔法を展開しながら右のタルビに向かった。ルイは左のタルビと、よろめいているタルビの二体を見た。


 距離を詰めてくる。足が速い分、間合いを取り続けるのが正解だ。


 左のタルビが突進してきた。ルイは半歩右に動いて躱し、首の後ろを棒で打ち下ろした。タルビが地面に頭を打ち付ける。すぐに立ち上がろうとした。脚が速いだけで打たれ強くはない。もう一度、同じところを打った。動きが止まった。


 よろめいていた一体が態勢を立て直して突進してくる。今度は棒の先端に土魔法で刃を形成した。石の刃が槍の形に固まった。突き出す。タルビの肩に刺さった。深くはないが、動きが鈍った。そのまま首を打つ。倒れた。


 ライルの方を見た。右のタルビが魔法を受けて動きを止めていた。ライルが剣で仕留めた。


 静かになった。


   *   *   *


「立てるか」とルイはマリネに言った。


「立てるっす。情けない」とマリネが言った。膝についた土を払いながら立ち上がった。腹を押さえている。「突進が速すぎて体が動かなかったっす」


「慣れていないからだ。初めて見る動きには体が遅れる」


「わかってるっすけど、わかってるだけじゃ動けないっすね」


「そういうことだ」とルイは言った。「今日の解体が終わったら少し稽古をつける」


 マリネが「ほんとっすか」と顔を上げた。


「棒術ベースで教える。短剣でも応用できる部分はある」


「やるっす」


 ライルが「俺も見ていいか」と言った。


「構わない」


   *   *   *


 解体を始めた。


 タルビは肉が多い。胸と腿が特に。羽を取り除いて皮を剥ぐと、想像より白い肉が出てきた。脂の層が薄い。加熱しても縮みにくいタイプだ。


 マリネが手伝いながら血を処理していた。手のひらに少し水を出して、切り口を洗い流している。


 ライルがそれを見た。


「それ、魔法だぞ」と言った。


 マリネが手を止めた。「これしかできないんすけど」


「それで十分だ。鍛えられる」


 マリネが「鍛えられるんすか、これ」と少し驚いた顔をした。


「水を出す量を増やすことから始める。制御ができれば使い道は広い」とライルは言った。「なんで言わなかった」


「聞かれなかったっすし、これしかできないから魔法って感じがしなくて」


 ルイは解体の手を止めずに言った。「知ってたぞ。ただ、使い方がわかっていなかっただけだろうと思っていた」


 ライルがこちらを見た。「言えよ」


「お前が気づくと思っていた」


「気づかなかった」


「そうか」


 ライルが「そうかじゃない」と言った。マリネが少し笑った。


   *   *   *


 解体が一段落して、林の縁を確認していたときだった。


 草の奥に、白いものが見えた。


 近づいた。丸い。大きい。タルビの巣だった。卵が四つ、枯れ草と羽で囲まれて置かれていた。


「卵だ」とルイは言った。


 マリネが駆け寄ってきた。「でかいっすね。鶏卵の倍はありそうっす」


「タルビの卵だろう。割れていない。全部使える」


 一つ手に取った。重い。殻が厚い。温度はまだ残っている。産まれて間もない。


 割ってみた。黄身が濃い。色が深い黄色だ。


「匂いを嗅いでみろ」とマリネに言った。


 マリネが鼻を近づけた。「濃いっすね。こってりした匂いがする」


「これは使える」とルイは言った。


「何に使うんすか」


「明日考える」


 マリネが「もう決まってそうな顔してるっすよ」と言った。


 ルイは答えなかった。


 卵を布に包んで荷物に入れた。タルビの肉を処理して、血抜きを終えた。陽はまだ高い。今日中に次の野営地まで進める。


 歩き始めながら、頭の中で組み立てていた。


 タルビの肉と、この卵。


 合わせ方は一つしかない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ