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腹ペコ旅団、異世界を往く〜転生者は今日も腹を空かせる〜  作者: 大輔


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第30話「審査の日」

 ギルドに顔を出すと、アネットが「ちょうどよかった」という顔をした。


 悪い予感がした。


「神崎ルイさん、少しよろしいですか」


 カウンター越しに台帳を出してきた。俺の依頼履歴だ。ここ数週間のドラスでの実績が並んでいる。


「Dランク昇格審査の対象になりました」


 ライルが隣で「来たな」と呟いた。


 アネットが丁寧に説明した。依頼の実績が基準を超えたこと、ギルド内での評価が一定以上であること、審査は二部構成で戦闘審査と筆記試験があること。


「戦闘審査は明後日、筆記試験は翌日です。受けますか」


 俺は少し考えた。


 Dランクになる理由は一つある。西の海沿いの国に向かう道中、Dランク以上でないと受けられない依頼がある。ライルから聞いた話だ。街道沿いの依頼は収入になるし、ランクが上がれば情報も入りやすくなる。


「受ける」


「では手続きをします」


 アネットが書類を出した。俺はそれに名前を書いた。


「あと」とアネットが少し声のトーンを変えた。「三層でイアンガルドを単独討伐したという報告が上がっています。本当ですか」


「ライルがいた」


「二人でということですね。それでも異例です。記録に残してもよろしいですか」


「好きにしてくれ」


 アネットが少し目を細めた。呆れているのか、感心しているのか判断がつかない顔だった。


   *   *   *


 翌日、戦闘審査の説明を受けた。


 会場はギルドの裏手にある訓練場だ。石畳の広い空間で、周囲に観覧用の柵がある。審査官が三人、端に並んでいた。


「神崎ルイさん。審査内容は二つです。一つは対魔物戦、もう一つは審査官との模擬戦です。どちらも実力を見るためのものですので、普通にやってください」


 普通に、と言われたが何が普通かは状況による。


 対魔物戦が先だった。檻から出てきたのはホーンラビットが二体。Gランクの魔物だ。俺のランクに対しては適正より低い。ウォーミングアップに近い内容だと思う。


 二体同時に来た。片方の突進を棒で受け流して、もう片方の首筋を打った。一体目が転んだ隙に、二体目に追いついて同じく首筋を打った。


 両方倒れた。


 十秒かかっていない。


 審査官が何か書き留めた。


 次は模擬戦だ。審査官の一人が前に出てきた。三十代くらいの男で、体格がいい。木製の得物を持っている。Cランク相当の実力者だとライルが教えてくれた。


「来い」と審査官が言った。


 俺は棒を構えた。


 相手の構えを観察した。重心が低い。右足が前。得物の持ち方から、最初の一手は右からの横薙ぎか、正面への突きだ。


 先に動いた。


 正面から踏み込んで、相手の右腕の内側を棒の先端で弾いた。得物の軌道が外れる。その隙に懐に入って、棒の柄で腹を突いた。


 審査官が一歩下がった。


 続けた。左、右、もう一度左。相手が防御に回った。


 三十秒ほどで審査官が手を上げた。


「止め」


 俺は棒を下ろした。


 審査官が少し息を整えてから言った。


「棒術はどこで習った」


「独学だ」


「独学でこれか」


 何かを言いたそうだったが、それ以上は聞いてこなかった。端に戻って何か書き留めた。


 ライルが柵の外から見ていた。俺が戻ると「あっさりしてたな」と言った。


「普通にやった」


「普通の基準がおかしい」


   *   *   *


 翌日が筆記試験だった。


 会場はギルドの一室で、机が並んでいた。受験者は俺を含めて四人。他の三人はFからEへの昇格審査らしく、問題の難度が違う。


 問題を受け取った。


 魔物の生態・弱点、薬草の分類と効能、依頼の優先順位と判断基準、緊急時の対応手順——一通り見た。難しくはない。前世の記憶と、この世界で実際に動いてきた経験が重なっている部分が多い。


 淡々と答えた。


 一時間の試験が四十分で終わった。見直して、提出した。


 出口でライルが待っていた。


「どうだった」


「問題なかった」


「手応えは」


「全部答えた」


 ライルが「それは満点ってことか」という顔をしたが、何も言わなかった。


   *   *   *


 結果は翌朝に出た。


 アネットがカウンター越しにギルドカードを差し出した。カードの色が変わっていた。Gの刻印がDになっている。


「合格です。おめでとうございます、神崎ルイさん」


「ありがとう」


「戦闘審査の記録ですが——」アネットが少し言いにくそうな顔をした。「審査官から、Dではなくもう一つ上を検討してもいいのではという意見が出ました。ただ規定上、一度に二段階昇格はできないので」


「Dで十分だ」


「そうですか」


 アネットが微笑んだ。今度は呆れでも感心でもなく、単純に笑った顔だった。


 ライルが隣で腕を組んでいた。


「規定がなくてもDでいいのか」


「今は必要十分だ。目立つのは好みじゃない」


「目立ってるけどな、十分」


 俺はギルドカードをしまった。


 これで西の街道に出られる。次の目的地に向かえる。


 ドラスでやることは、あと一つだ。



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