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腹ペコ旅団、異世界を往く〜転生者は今日も腹を空かせる〜  作者: 大輔


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第22話「ドラムダンジョン、一層目」

 ギルドに行ったのは朝だった。


 ドラスのギルドは今まで見た中で一番大きかった。天井が高い。依頼の掲示板が三列ある。受付が五つ並んでいる。冒険者の数も多い。街の規模に合っている。


 ライルが掲示板を見ながら言った。


「ドラムダンジョン関連の依頼、結構出てるな」


「どんな内容だ」


「素材の回収が多い。あとは調査系。一層から三層向けのものがほとんどだ。俺たちのランクだと、そのあたりが限界だな」


 俺は掲示板を眺めた。


 素材の回収。何の素材かが気になった。紙に書いてある名前を読んだ。聞いたことのないものが混じっている。


「これは何だ」


 指で示した。ライルが覗き込んだ。


「ダンジョン産の素材だな。ドラムキノコ……ああ、ダンジョン内に自生する茸の一種だ。薬草として使われることが多い」


「食えるか」


「……薬草として使われてるんだが」


「毒はないか」


「毒はないはずだが」


「なら食える」


 ライルが少し黙った。


「お前の発想の順番が毎回すごいな」


「旨いかどうかは食わないとわからない」


「それはそうだが」


 依頼を一つ取った。ドラムキノコの回収。三層まで潜って指定の種類を集めてくる内容だ。報酬は銀貨五枚。悪くない。


「これにするか」とライルに確認した。


「構わないが、お前の目的は依頼よりキノコだろ」


「両方だ。依頼をこなしながら食材を探す。効率がいい」


「効率……、まあいい」


 ライルが受付で手続きをした。受付の男がパーティ名を確認して、少し止まった。


「腹ペコ旅団」


「そうだ」


「……いってらっしゃいませ」


 ライルが小声で「毎回これだな」と言った。


「慣れた」と俺は答えた。


   *   *   *


 ドラムダンジョンはドラスから歩いて半刻ほどの場所にあった。


 丘の中腹に口が開いている。縦に長い楕円形の入り口だ。高さは俺の倍くらいある。中から冷たい空気が流れてきた。


 入り口の前に小屋があった。管理人らしい男が座っている。


「登録証の確認をします」


 冒険者証を見せた。依頼書も出した。男が書類に何か書き込んで、判を押した。


「三層までですね。四層以降は今のランクでは入れません。迷ったら引き返してください」


「わかった」


「あと、ダンジョン内での火の使用は制限があります。指定区域以外では使わないように」


 俺は少し考えた。


「火が使えない場所がある」


「はい。一層と二層の大部分は使用可能ですが、三層は禁止区域が多いです」


「理由は」


「ガス溜まりがあります。引火の危険があるので」


 なるほど。三層では火を使えない。調理の方法を変える必要がある。


「了解した」


 ライルが小声で言った。「今の返事、調理のことを考えてただろ」


「そうだ」


「戦闘の心配は」


「する必要がある程度には考えている」


「その順番が問題なんだよ」


 中に入った。


   *   *   *


 一層は広かった。


 天井が高い。壁が岩でできている。ところどころに発光する苔が生えていて、それが薄い明かりになっている。暗いが、歩けないほどではない。


 空気が冷たい。外より確実に低い。でも不快ではない。むしろ食材の保存には向いている。


「魔物は」と俺は聞いた。


「一層はスライム系と小型の虫系が多い。強くはないが、群れると面倒だ」


「食えるか」


「スライムは……食えないと思う。虫系は、地域によっては食うところもあるらしいが」


「見てから判断する」


 ライルが苦笑した。


 歩き始めてすぐに最初の魔物が出た。


 丸い。透明に近い体で、ゆっくり動いている。スライムだ。大きさは拳二つ分くらい。


 俺は棒で叩いた。一発で消えた。素材が少し残った。透明な液体が岩の上に広がった。


 嗅いでみた。


 無臭に近い。少し水の匂いがする。


「何してるんだ」とライルが言った。


「匂いを確認していた」


「スライムを嗅ぐな」


「無害だ。食えないな、これは」


「当たり前だ」


 先に進んだ。


 虫系の魔物にも遭遇した。羽が四枚ある。蜻蛉に似ているが、大きい。胴体が俺の腕くらいある。


 ライルが風の魔法で吹き飛ばした。


 落ちた虫を見た。胴体が太い。体の中に何かが詰まっている感じがする。


「これは食えるかもしれない」


「虫を食う気か」


「胴体に脂が詰まってる可能性がある。焼けば食える」


「……お前の食に対する探求心、どこまであるんだ」


「まだ底が見えない」


 ライルが空を仰いだ。天井だったが。


   *   *   *


 二層に降りたのは昼を過ぎたあたりだった。


 一層より暗い。発光苔の数が少ない。でも目が慣れてきた。


 二層に入ってすぐ、足元に何かを見つけた。


 茸だった。


 岩の割れ目から生えている。傘が平たくて、色が濃い茶色だ。大きさはまちまちで、小さいものは親指の爪くらい、大きいものは手のひら大がある。


 しゃがんで匂いを嗅いだ。


 来た。


 朝市で買った乾燥茸とは違う。もっと直接的な香りだ。土の底というより、岩の隙間から来る香り。暗くて、でも力がある匂い。生きている。


「ドラムキノコか」とライルが言った。


「そうだろう。依頼書の図と合ってる」


「採っていいぞ」


 俺は慎重に根元から採った。傘を傷つけないように。解体ナイフを使って、岩から丁寧に切り離した。


「そんなに丁寧にやるのか」とライルが見ていた。


「雑に採ると香りが飛ぶ。断面から成分が逃げる」


「依頼品なのに」


「依頼品だからこそ、いい状態で持ち帰る」


「……それは依頼のためか、食べるためか」


「両方だ」


 ライルが笑った。声が出た。


 十数本採った。依頼の必要量は超えている。余分は自分で使う。


「依頼より多く採ったな」


「余った分は食材だ」


「そうだと思った」


 採りながら、周囲を見た。ドラムキノコ以外にも何か生えていないか。別の種類の茸が岩の奥の方にあった。色が違う。白っぽい。


 近づいて嗅いだ。


 甘い匂いがした。


「ライル、この白いやつは何か知ってるか」


 ライルが来て見た。少し考えた。


「シロダケ……だと思う。食用だ。このあたりのダンジョンに出る。ギルドで売れる素材じゃないから依頼には出ないが、食堂が買い取ることがある」


「食えるのか」


「食えるはずだ」


「採る」


「依頼と関係ないぞ」


「関係ない。でも採る」


 ライルが溜め息をついた。でも周囲の警戒を続けてくれた。


   *   *   *


 三層への階段を前にして、ライルが言った。


「今日は二層までにしないか」


「三層まで行く依頼だ」


「そうだが、時間が遅くなってきた。三層は初めてだ。無理はしない方がいい」


 俺は少し考えた。


 合理的な判断だ。初めての場所を時間が押した状態で進むのは、リスクがある。食材も十分採れた。


「わかった。今日は戻る」


「素直だな」


「理由があれば従う」


「じゃあ明日また来よう。朝から入れば三層まで余裕がある」


「ああ」


 戻りながら、今日採ったものの使い方を考えた。


 ドラムキノコは生のまま焼けるはずだ。シロダケは煮込みに向いていそうだ。乾燥茸と合わせたらどうなるか。昨日買ったプラタ魚の残りもある。


 組み合わせが頭の中で動いていた。


「また飯のことを考えてるな」


 ライルが横から言った。


「どうしてわかる」


「顔が変わる。ダンジョンに入ってからずっと戦闘よりキノコを見るときの方が目つきが鋭かった。今はさらにそれより鋭い」


「そうか」


「自覚はあるか」


「ない」


「正直だな」ライルが少し笑った。「まあ、今夜の飯に期待してる」


「期待していい」


「即答したな」


「自信がある」


 ライルがまた笑った。


 出口の光が見えてきた。外の空気が入ってきた。昼間の温度が残っている。ダンジョンの冷気と混ざった。


 腹が減っていた。


 早く火を起こしたかった。



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