第15話「旨い素材はどこにある」
ギルドの依頼掲示板は、朝一番が一番人が多かった。
冒険者たちが掲示板の前に集まって、依頼書を取り合っている。ライルが「いい依頼は朝早く取られる」と言っていた意味がわかった。
掲示板を端から読んだ。
街の警備補助、荷物の護衛、行方不明者の捜索——大半は戦闘と直接関係のない依頼だ。その中に、一枚だけ気になるものがあった。
「街道沿いの魔物討伐。ホーンラビット五匹以上。報酬:銀貨二枚。素材持ち帰りで追加買取あり」
ライルが隣から覗き込んだ。
「ホーンラビットか。Gランクでも受けられる依頼だな」
「素材が欲しい」
「討伐じゃなくて素材目的か」
「両方だ」
依頼書を受付に持っていった。Gランクの冒険者証を提示して、受理された。
* * *
街道を北に三十分ほど歩いた。
草原が広がっている。遠くに低い丘が見える。ホーンラビットは草原の魔物だとライルが言っていた。
「どのくらい強いんだ」
「Gランク相当だ。角で突進してくる。単体なら新人でも対処できる。群れると話が変わるが」
「五匹程度なら問題ない」
「お前の感覚は信用できないから黙っとく」
草原に入った。風が吹いていて、背の高い草が揺れている。レコードが周囲の気配を拾い始めた。
二百メートルほど進んだところで、気配があった。
草の向こうに、白い毛並みの生き物が三匹いる。兎に似た体型だが、額から短い角が生えている。耳が長くて、目が赤い。大きさは中型犬くらいだ。
「いる」
「見えてる。どうする」
「俺が前に出る。お前は後ろで待て」
「魔法使いを後衛に置くのは正解だが、お前一人で三匹は——」
すでに草原に踏み込んでいた。
ホーンラビットが気づいて、こちらを向いた。赤い目が光る。一匹が地面を蹴って突進してきた。
棒を構えた。タイミングを計って、角の軌道をずらすように横へ一歩。棒を首の横に叩き込んだ。一匹目が地面に転がった。
残り二匹が同時に動いた。左右から挟む形だ。
右を先に処理する。踏み込んで、棒を脇腹に入れた。二匹目が倒れる。左の一匹が角を向けて突っ込んできた。
棒で角を受け流して、勢いを逃がす。そのまま頭部に一撃。三匹目も沈んだ。
「……」
後ろでライルが黙っていた。
「あっという間だな」
「五匹いるはずだ。残りを探す」
草原を進んだ。百メートルほど先に、さらに四匹の群れがいた。
「四匹いる」
「依頼は五匹以上だから、合わせて七匹で十分だな。俺も出るか」
「見ていろ」
「見てるだけでいいのか」
「魔法を試したいなら使っていい」
ライルが少し黙った。
「……一匹もらう」
ライルが前に出た。右手を持ち上げて、指先に光が集まった。小さな火球が生まれて、一匹のホーンラビットへ飛んでいく。
直撃した。過不足なく、一撃で仕留めた。
「悪くない」
「当然だ」
残り三匹を棒で処理した。合計七匹。依頼達成だ。
* * *
解体を始めた。
新しい解体ナイフを使うのは今日が初めてだった。
刃を入れた瞬間、違いがわかった。石のナイフとは比べ物にならない。刃が滑らかに入って、筋膜に沿って動く。力を入れずに、肉が綺麗に分かれていく。
「旨そうに解体するな」
ライルが隣にしゃがんで見ていた。
「道具がいい」
「普通は討伐後に解体なんてしないぞ。素材だけ取って終わりだ」
「もったいない」
肉の部位ごとに分けて、布に包んでいく。昨日食堂で食べたホーンラビットより、この個体の方が明らかに肉質がいい。野生のものは運動量が多い分、筋肉がしっかりしている。
「お前が解体してる間、俺は何もすることがないな」
「周囲を警戒しとけ」
「それはそうだが……」
ライルが立ち上がって、周囲を見回した。しばらくして、「西の方に何かいる」と言った。
「魔物か」
「わからん。気配が複数ある」
手を止めずに聞いた。
「数は」
「五か六。ホーンラビットより大きい気がする」
解体を急いだ。必要な部位だけ確保して、残りは置いていく。立ち上がって、西の方角を見た。
草が揺れている。風の向きと違う揺れ方だ。
「走れるか」
ライルに聞いた。
「走れる。逃げるのか」
「依頼は達成した。戦う理由がない」
「……賢いな」
二人で街道へ向かって走った。背後で草を踏む音がしたが、追ってくる様子はなかった。街道まで出ると、音が止んだ。
「何だったんだ」
「知らん。でかい魔物の群れだ」
ライルが息を整えながら言った。
「お前、逃げるときの判断が早いな」
「勝てない相手と戦う意味がない」
「さっきまで一人で七匹片付けてたのに、逃げるときはすぐ逃げるんだな」
「場合による」
ライルが少し笑った。珍しい顔だった。
「……組みやすいな、お前」
返事をしなかった。
包んだ肉の重さを確認した。今夜の夕飯には十分な量だ。新しい香辛料も試せる。
「今夜は何を作るつもりだ」
「焼く」
「それだけか」
「香辛料を使う」
ライルが少し表情を変えた。昨日の夕飯を思い出しているのかもしれない。
「……早く帰るか」
「ギルドに寄ってから帰る。報酬と素材買取がある」
「そうだった」
街道を歩いた。風が草原を渡っていく。
依頼を一つこなした。金も入る。肉も手に入った。
悪くない一日だった。




