第10話「そろそろ街へ行くか」
十二日目の朝、目が覚めてすぐにステータスを開いた。
【ステータス】
名前 :神崎ルイ
年齢 :17歳
レベル:10
経験値:150/1000
称号 :転生者・森の征服者
【ユニークスキル】
記録
【スキル】
棍術:Lv.5
解体:Lv.4
採取:Lv.3
罠設置:Lv.3
野営:Lv.2
調理:Lv.3
隠密:Lv.3
観察:Lv.2
レベル10。当初の目標通りだ。
スキルも十分に揃っている。戦える。食える。生き延びられる。この森に来た日と比べると、別人のようだと思う。あの日は焚き火を起こすのに十分かかっていた。今なら三分もかからない。
棍術がLv.5、隠密がLv.3——どれも森の中で地道に積み上げた結果だ。チートと呼ぶには地味かもしれない。でも、確実に強くなっている。それで十分だ。
「そろそろ街へ行くか」
焚き火に水をかけて消した。じゅっという音とともに、煙が上がった。
* * *
出発前に、この十二日間を振り返った。
最初の夜、川魚を焼いて食べた旨さ。二日目に初めて魔物を倒したときの手の震え。四日目に罠を仕掛けて、思った通りに動いたときの小さな達成感。雨の夜、火を守りながら飲んだ熱いスープ。黒いトカゲを初めて見て、勝てないと判断して退いたこと。そして昨夜の、骨スープ。
全部がレコードに残っている。消えることなく、完全に。
この能力の本質が、少しずつわかってきた気がする。
レコードは経験を蓄積する。経験が増えるほど、判断が速くなる。体が先に動く。知らないことが減っていく。誰かが何十年もかけて積み上げるものを、俺は圧縮して積み重ねることができる。
「強い能力だな」
改めてそう思った。地味に見えるが、底がない。
それに——レコードは戦闘だけじゃない。料理も、採取も、野営も、全部が記録されて精度が上がっていく。この先どこへ行っても、何を食べても、経験が積み重なる。それだけで、生きていける気がした。
* * *
荷物をまとめた。
骨スープの残りを革袋に詰めた。冷めても旨かったから、道中の食料にする。黒いトカゲの肉も干しておいたものが数切れある。木の実も一袋分。水は川で補充した。
昨夜のうちに、黒いトカゲの鱗を数枚剥いでおいた。硬くて丈夫だ。防具の素材になるかもしれない。街で誰かに聞いてみよう。毛玉の毛皮も、丸めて荷物に括り付けた。
武器は、森で拾った一番頑丈な棍だ。長さが俺の身長と同じくらいで、重さも丁度いい。棍術のスキルが上がってから、この棍との相性が格段によくなっていた。
「準備完了」
誰に言うでもなく呟いて、森の外へ向かって歩き出した。
十二日間過ごした拠点を振り返る。岩の窪み、焚き火の跡、川のある場所——全部がレコードに刻まれている。この場所で過ごした時間が、今の俺を作った。
感慨があるかと言えば——少しだけあった。
* * *
半日歩くと、森が薄くなってきた。
木々の密度が下がって、空が広く見えてくる。地面に踏み固められた道が現れた。人が通った跡だ。レコードが記録する——最後に誰かが通ったのは、一日以内。街はそう遠くない。
道沿いに歩いていると、遠くに煙が見えた。
炊事の煙だ。
腹が鳴った。
「塩の味がする飯が食いたいな」
十二日間、塩なしで食い続けてきた。悪くはなかった。でも、塩があればもっと旨かったものが、いくつもある。黒いトカゲのスープに塩を入れたら、どんな味になるのか。キノコの炒め物に塩を振ったら。赤トカゲの肉を塩漬けにしたら——。
考えながら歩く足が、自然と速くなった。
街が近い。調味料がある。知らない食材がある。知らない料理がある。
この十二日間、森の中で積み上げてきたものを、街でどう活かすか。楽しみしかなかった。
道の向こうに、建物の輪郭が見えてきた。石造りの建物が並んでいる。煙が複数の方向から立ち上っている。人の声が、風に乗って聞こえてくる。
知らない言語——ではなかった。言葉がわかる。転生した体には、最初からこの世界の言語が入っていたらしい。ありがたいことだと思った。
「着いた」
呟いて、俺は街への道を歩き続けた。腹が減っていた。それが、何より正直な感想だった。




