私に出来るのはただ見ている事だけ(ウィリアム)
私に出来るのはただ見ている事だけであった。
王城で行われたとあるパーティーで私は一人の令嬢に心を奪われた。
ダンスを楽しそうに踊るあの笑顔は全てを凌駕していた。
シャンデリアの輝きや豪勢に輝く宝石も彼女の輝きには敵わず、壁に飾られているどの絵画よりも彼女の笑顔の方が神韻縹渺のようであった。
「父上、彼女は?」
「ああ、オードニー侯爵の長女フランメル令嬢だな」
「長女・・・と言う事は彼女は侯爵家を継ぐのでしょうか?」
「いや、ご令嬢には確か弟がいたと聞く。恐らくだが後を継ぐのは弟のほうだろう。確か隣領の侯爵令息と仲が・・・」
彼女が侯爵家を継ぐ可能性は低い。
その後も父上は何か言っていたが、私にとってはどうでも良い事であった。
彼女と婚約したい。
パーティー終了後、私は父上に彼女と婚約したい一心で懇願した。
今までにこれ程感情を露にした事はなかった。
そのかいもあり私の熱意が父上に伝わりオードニー侯爵家に釣書を出してくれた。
オードニー侯爵から承諾の返信が届いた。
これ程嬉しい事は今までになかった。
あの笑顔が私のものになったのだ。
あの笑顔は今後は私だけに向けられると思うと心が落ち着かない。
彼女は私の事をまだ知らない。
彼女に私の事を知って欲しいと、お茶会や市井に出掛けるようになった。
お淑やかに私の隣で歩くフランメル。
私との会話で仄かに見せる微笑み。
その全ての所作に心を奪われて行くがあの笑顔は見せて貰えなかった。
あの笑顔がみたい。
あの笑顔が見れないのは私が頼りないからなのか。
私はフランメルに相応しい男であるため、勉学・武術をより一層励むようになった。
それが認めて貰えたのは学園に入ってからだ。
隣国よりセラフィーナ第二王女が我が国に留学してくる事になったのだが、その学友兼護衛役として私が選ばれる事になった。
セラフィーナ王女は一時期バッハガルト侯爵領に避難していた事があったので、そこのレオナルド令息が選ばれるかと思っていた。
しかし、王命が下されたのは私の方であった。
私は王に認められたのだ。
これで私はフランメルに相応しい男になれる。
学園生活をフランメルと共に過ごしたい。
だが、そんな甘えは許されない。
王命をまっとうしなくては。
私の頭の中はいつの間にか王命で埋め尽くされていた。
そのため、私は気付かなかった。
忘れてしまっていた。
フランメルの事を。
フランメルとお茶会や出掛けるよりもセラフィーナ王女の元に向かい、フランメルに手紙を出すよりもセラフィーナ王女にどうしたら喜んで頂けるかを考えていた。
「ウィリアム、最近のお前はフランメル嬢を蔑ろにし過ぎていないか?オードニー侯爵から休みの日でさえ会わないのはおかしいのではないのかと心配していたぞ」
「父上、王命なのですから仕方がないじゃないですか。私の行動一つで大問題へと繋がるのです。油断する事など出来ません。フランメルも解ってくれておりますので安心して下さい」
「せめて休日くらいはフランメル嬢に会いに行きなさい」
「解りました。時間がありましたら」
だが、私はフランメルの所に向かわずセラフィーナ王女の所に向かった。
「・・・」
「セラフィーナ王女お待たせ致しました」
「何故、貴方がここにいるのかしら?今日はここにいるカイルとミゼルと市井に行くとは言いましたが、貴方をお誘いしてはいませんが?」
二人は隣国からセラフィーナ王女と共に留学してきた王女の側近だ。
「私は王命でセラフィーナ王女の護衛も任されております。市井に出掛けるならば護衛として離れる訳には行きません」
「・・・貴方、婚約者がいるのではなくて?いつも一緒におりますが婚約者の方が可哀想に思わないのかしら?」
「婚約者のフランメルでしたら大丈夫です。彼女も理解して下さっておりますから」
「・・・そう、私のせいで婚約者の方に申し訳ないわ。本日のお出掛けは止めにします。ですので貴方も婚約者の元に向かいなさい」
そう言うと、セラフィーナ王女は邸内に戻って行った。
折角、護衛として来たのに姫と言う生き物は我が儘でしょうがない。
だが、ここまで来たのにただ帰るだけでは護衛失格だ。
邸周辺の安全確認をしてから帰るとしよう。
この日より学園が休みの日はセラフィーナ王女が住む邸周辺の見回りをする事にした。
王命をまっとうしなくては・・・
「何で貴方がここにいるのですか?」
今日は学生主体で行われる社交パーティー。
私はセラフィーナ王女をエスコートするべくセラフィーナ王女の邸の前で待機していた。
「貴方、婚約者の方がいるのに私をエスコートしようとは何を考えているのですか?」
「私はセラフィーナ王女の護衛ですので側を離れる訳には行きません」
「・・・そう、ですがエスコートはカイルと行います」
私はセラフィーナ王女の少し後ろに立っているカイルに睨み付けた。
私がこんな男に負けている訳がない。
私の方が優秀なはずだ。
結局、セラフィーナ王女はカイルにエスコートされながら会場入りし私はその後ろから護衛として着いていった。
「セラフィーナ王女、是非一曲私と踊って下さいませんか?」
「・・・」
「どうしましたか?」
「貴方、大丈夫?婚約者の方より先に別の女性を誘うなんて非常識ですわよ。先程から貴方の婚約者が壁の花として立っているのが貴方には見えないのかしら?」
セラフィーナ王女の目線の先を見るとフランメルが壁際に一人で立っていた。
フランメルが私の視線に気付くと少し表情が和らいだような感じがした。
しかし、私は直ぐにセラフィーナ王女の方へ向き直した。
「大丈夫です。フランメルもちゃんと理解しております」
「なっ!そうでは・・・」
セラフィーナ王女が何か言いかけたが、護衛のカイルが耳打ちをすると、セラフィーナ王女は目を見開き護衛の方へ顔を向けた。
「仕方がありません。殿方のお誘いを無碍に断るのは失礼に値します。ですが、婚約者を無視することは本位ではありません。踊り終えましたら婚約者の元に向かって下さい」
「解りました」
ファーストダンスをセラフィーナ王女と踊る事となった。
皆が私達のダンスに見惚れている。
この場では私は世界の中心にいるようであった。
たまに視線にフランメルが入ってくる。
フランメルは大人しく私達のダンスを見ていた。
その姿は初めて見るフランメルの表情であった。
あの表情のフランメルもいい。
曲が終わってもフランメルのあの表情が脳裏から離れなかった。
セラフィーナ王女は直ぐにカイルと次のダンスを踊るようだ。
ならば私もフランメルを誘おう・・・
しかし、フランメルは既に会場にはいなかった。
それから私はセラフィーナ王女と共にランチをしながらフランメルの姿をさがし始めた。
フランメルの姿を見つけるとフランメルはパーティー会場の時と同じ表情をしていた。
もっと・・・
もっと・・・
新しいフランメルの表情をみたい・・・
「ウィリアム君、ちょっといいかな?」
ある日、私は教師に呼び出された。
いい迷惑だ。
私はセラフィーナ王女の学友として側にいなければならないのに。
「君が婚約者をほっといてセラフィーナ王女の側ばかりいることが少々問題となっている。セラフィーナ王女も異国の王子と婚約者を結ばれている身ですので、誤解されるような行動は慎みなさい」
この教師は馬鹿だ。
私は王命で仕方がなくしているに過ぎない。
こんな使えない教師は国王陛下に頼んでクビにして貰おう。
無能な教師が王命を授かっている私に意見しようなど烏滸がましいのだ。
無能な教師のせいでセラフィーナ王女の側にいることが出来なかった。
くそっ!
本当にあの教師はクビにしてやる!
セラフィーナ王女を探すも見つからない。
どういう事だ。
「君、セラフィーナ王女を見掛けなかったかい?」
探しても見つからないので手当たり次第にセラフィーナ王女を見掛けていないか聞いてみた。
三人目にしてやっと有力な情報を得られたが、その情報は私が一番聞きたくない情報であった。
「あ、はい。なんだか、階段で転んだとかで医務室に向かっておられましたよ」
私は急ぎ医務室に向かった。
医務室では片足を冷やしているセラフィーナ王女がいた。
【護衛失格】
この言葉が頭から離れない。
「申し訳ございません」
私は謝る事しか出来なかった。
何と言う失態。
私としたことが考えられん。
もしかしたら、あの教師が私の才能をやっかみ陥れたのでは・・・
「ウィリアム落ち着いて下さい。これは私の不注意で脚を捻ってしまい階段に落ちそうになりましたが、カイルがしっかり支えてくれましたので怪我はありません」
いや、これは陰謀だ。
あの教師による嫌がらせだ。
あの教師が俺をセラフィーナ王女の側にいられないようにした。
ならば実行犯は・・・
まさかフランメル!?
フランメルが私とセラフィーナ王女に嫉妬して行った?
そうだ、フランメルが私に嫉妬したのに違いない。
私は医務室を飛び出しフランメルの元に向かった。
今時間は教室にいるはず。
婚約者の出世を邪魔するなど信じられん。
しかもセラフィーナ王女に危害を加えるなど極刑に問われてもおかしくない。
ここは私が婚約者として叱責して極刑だけは避けなければ・・・
フランメルはやはり教室にいた。
私はフランメルを突き飛ばすと己が知る限りの罵詈雑言をまるで呪いの呪文のように吐き捨てた。
私の呪文にフランメルが目を見開いて見つめられていたかと思うと、フランメルの瞼がゆっくりと閉じられていった。
ああ、フランメルの寝顔はこんな感じなのか。
私は興奮が止まらず目を瞑ったフランメルに更に罵詈雑言の呪文を浴びせ続けた。
ドンッ!
私は誰かに突き飛ばされた。
転ぶ事はなかったが思わず呪文を吐く事を止めてしまった。
私を突き飛ばしたのはレオナルドであった。
レオナルドはフランメルを医務室に運ばせた。
余計な事をフランメルの寝顔が見れなくなってしまったではないか。
しょうがない、後で医務室に行って拝ませて貰おう。
しかし、このレオナルドとか言う男は何かにつれフランメルに絡んできた。
前に苦言を申して来たのもコイツだ。
幼馴染みかなんだか知らんがストーカーなどの犯罪行為はほっとけない。
この男の事も国王陛下に報告せねば。
「ウィリアム様、令嬢に手を上げるなど、なんて事をしたんだ!」
何も知らない癖に煩い男だ。
俺がどれだけフランメルのために叱責をしたのか解っていない。
この男にも現実を教えてやらねばと私はセラフィーナ王女の件について説明をした。
これでこの男にも正しいのは私だと解ったはずだ。
「フランメル嬢がやった証拠はあるのですか?」
やはり馬鹿だなコイツは。
フランメル以外誰がいると言うのだ。
私に嫉妬するなどフランメルしかいまい。
「フランメル様はずっと教室で読書をされておりました」
フランメルは教室にいた?
何を言っているのだ。
もしやコイツもフランメルの仲間か?
しかし、フランメルのアリバイ証言はこの者をかわきりに次々とあげられた。
まさか・・・フランメルが犯人ではない?
「誰かフランメル嬢の犯行を目撃した者がいたのですか?もしくはセラフィーナ王女が目撃したのですか?」
セラフィーナ王女の目撃証言。
ここで私はセラフィーナ王女の言葉を思い出す。
『私の不注意で脚を捻ってしまい階段に落ちそうになりましたが、カイルがしっかり支えてくれましたので怪我はありません』
ここで私はセラフィーナ王女が突き飛ばされたのではなく足を捻って転びそうになった話を思い出した。
フランメルは無実!?
周辺から「嘘でしょ」「酷い」「信じられない」などの声が飛び交い、皆が公爵令息を白い目で見ていた。
「フランメル嬢はウィリアム様の婚約者ではないのですか?婚約者を信じることが出来なかったのですか?いや、出来なかったにしても暴力に出ず相手の話を聞べきだったのではないのですか?」
そう、フランメルは私の婚約者だ。
たがら、私の邪魔をしようとするふに激怒したのだ。
私は王命を授かった優秀な者なのだから。
フランメルを信じる!?
いや、それ以上に王命が大事・・・
「わ、私は王命で・・」
そう、私は王命で仕方がなく・・・
これは王命なのだから、私の婚約者なら従うのが当たり前だ。
だが、本当にそうだったのだろうか・・・
私は駆け付けた教室陣に連れていかれた。
この教師は私がセラフィーナ王女の側にいることを阻んだ者であった。
また、この教師に邪魔されるのか。
私は早く医務室に行かなければならないのに。
早く医務室に行ってフランメルの寝顔を拝まなくては・・・
しかし、私は医務室に行く事は出来なかった。
1ヶ月の停学処分が下されたからだ。
「婚約者に危害を加えるなど貴様何を考えているのだ!女性に手をあげるなど恥としれ!」
謹慎により邸に戻ると既に父上には今回の件についての情報が既に届いていた。
「私は王命をまっとうしようと・・・」
「国王陛下が令嬢に手を上げるよう指示をしたと言うのか?貴様は国王陛下を侮辱するのか?王命など関係ない貴様の浅はかさがこうなったのだ!」
くそっ!
少しミスしただけではないか。
違うなら違うとフランメルも早く言ってくれれば良かったのに。
そうすれば、私は謹慎処分なんて不名誉を受ける事はなかった。
「今回の件で破棄となる事は確実だろう。しかし、謝罪するしないは別だ!1月は謹慎で外出できないが手紙くらいはかけるだろ」
「はい」
破棄・・・
確かにそうなるか・・・
1月も謹慎してしまってはセラフィーナ王女の護衛は破棄されても仕方がないか・・・
しかし、謹慎が解ける日を迎えてもセラフィーナ王女の側近の任が解かれる事はなかった。
私は許されたのか?
久しぶりぶりに登校すると護衛のカイルが迎えに来てくれた。
良かった。
私はまだ挽回のチャンスを与えられた。
ただ、何かがおかしい。
周辺の視線によって外気の気温が3度ほど低くなったように冷たく感じられた。
また、その冷たさは目の前にいるセラフィーナ王女からも感じられた。
そして以前は感じられた愛する者の視線がどこを探してもいない。
体調で悪くしたのか?
見舞いに行きたいがセラフィーナ王女の側を離れる訳にはいかない。
もし離れている隙にトラブルが発生したなら次ぎこそは側近の座を破棄されてしまう。
あれから大部、月日が経ったがフランメルの姿を見掛ける事は出来なかった。
体調を崩しているにしては長過ぎないか?
最近、姿を見掛けられないフランメルの事が気になってきた。
すると、ウィリアムの学友の一人が告げてきた。
「ウィリアム様、先日私の友人が市井に出掛けておりましたらフランメル様が男性と二人で歩いていたのを見掛けたそうなのですがウィリアム様は御存じですか?」
初耳であった。
フランメルが浮気!?
馬鹿な・・・
あの奥ゆかしいフランメルに限ってあり得ない話だ。
だが・・・
浮気を責め立てた時、フランメルはどんな顔をするだろうか。
フランメルの新しい表情が見れるかもしれない。
そう思うとゾクゾクと欲求が込み上げてきた。
気付けばセラフィーナ王女の側から離れフランメルの元へ向かっていた。
フランメルを浮気で責める。
だが、私が期待した表情を得る事は出来なかった。
いや、今まで見たこともない表情を見ることは出来た。
だが、その表情は森で魔物に出会ったように私を拒絶しているようであった。
違う・・・
私が見たかった表情はこんな怯えるような表情ではない。
私が見たいのは・・・!?
私が見たいのはなんだったのだろうか?
そうだ。
私が見たいのはフランメルの笑顔ではなかったのか?
あの満面の笑顔。
初めて会った時の笑顔が見たかったはず。
思い返せば私は一度もあの満面の笑顔を得られていない事に気付いた。
お茶会や出掛けていた頃にはにかむ程度の笑顔を見せてくれていたが満面の笑顔はなかった。
私は何をやっているのだろうか?
気付いたら私はフランメルの側を離れていた。
セラフィーナ王女から叱責を受けた。
次離れたらクビだと言われ離れる事が出来ない。
久しぶりにフランメルに手紙を書いたが返事も来なかった。
もどかしい。
今まで魔法に掛けられていたかのようにフランメルに会いたいと思わなかったのに今ではフランメルに会いたくて仕方がない。
フランメルに会いたい。
フランメルの声が聞きたい。
フランメルの字を読みたい。
だが、その願いは一つも叶えられること無く卒業パーティーを迎える事となった。
その間、相変わらずフランメルが他の男と市井を出歩いていると言う目撃情報が度々入ってきた。
何か胸の奥のざわめきが止まらない。
何か良からぬ事が起きているのではないだろうか?
フランメルにドレスを送ろう。
セラフィーナ王女がいるからエスコートは出来ないが、ドレスを送れば喜んでくれるはず・・・
しかし、フランメルが着てきたのは私が送ったドレスではなかった。
隣でエスコートしているレオナルド侯爵令息の色を取り入れたようなドレスは確実に私とは不釣り合いであった。
フランメルに問い詰める。
一人にさせた事で寂しかったのだろう。
だから私は謝れば許してやることにした。
しかし、フランメルは謝ろうとしない。
もどかしくイライラが込み上げてきた所にあの男が現れた。
レオナルド侯爵令息だ。
レオナルドが現れるとフランメルはレオナルドの元に駆け寄りレオナルドはフランメルを抱きしめていた。
やはり浮気は本当であった。
しかし、次にレオナルドから聞かされた言葉は私が思っていた答えと全く違っていた。
私とフランメルの婚約が解消されている?
何を言っているのだ。
私とフランメルが・・・
そんな訳がない。
この男は浮気を正当化しようとしているだけだ。
「馬鹿なではないでしょう。ウィリアム様はフランメルを突き飛ばして怪我をさせました。普通は解消になると思うはずです。ウィリアム様は怪我をしたフランメルに見舞に来る事も手紙で謝罪する事もなかったようですので承知なのかと思っておりました」
「私は王命で・・・」
「王命はセラフィーナ王女の側近ですよね。それを理由に婚約者を蔑ろにしていた事も問題ですが、まあ百歩譲ってそれは良しとしましょう。ですが、婚約者を突き飛ばして怪我をさせる事などの王命は出ておりません。国王陛下を貶めるような発言は控えて頂きたい」
国王陛下を貶めるような発言と言われ私は思わず口を抑える。
私はそのような発言をしたつもりはない。
しかし、私は誰かに何かを言われる度に王命を理由にしていた事に気付いた。
既にフランメルとレオナルドは婚約を結ばれていると言う。
ならば浮気ではない。
フランメルは浮気などしていない。
では、私はどうなるのだろうか・・・
「因みに今は私がフランメルの婚約者です。フランメルは婚約者と出掛けていただけに過ぎませんのでふしだら等と言う発言は取り消して頂きたい」
レオナルドと共に私の元を離れるフランメルを引き留める事が出来なかった。
二人が踊る姿を私は一生忘れる事は出来ないだろう。
レオナルドと踊るフランメルは満面な笑顔で踊っていた。
私が見たかった笑顔。
ああ、そうか。
私は思い出した。
彼女を初めて見掛けた時のあの笑顔。
あの時、隣にいたのはレオナルドであった。
あの笑顔はレオナルドのためのものだったのか・・・
私は二人のダンスを見続けた。
他に出来る事は何もない。
壁の花とはこんな気持ちになるものなのだな。
私はこんな気持ちをフランメルに押し付けてきていたのか。
だが、今さら後悔しても変える事は出来ない。
私が出来るのはただ見ているだけであった。
【後日談】
学園での婚約者への暴力騒ぎで同年代の女性から忌み嫌われてしまった。
そんな私は未だに婚約者がいない。
見かねた父が国外から相手を見つけると言う。
数ヶ月後には私は顔を会わせたこともない者と婚姻を結ぶ事になる。
独身最後のパーティーに顔を出す事にした。
パーティーに参加しても相手がいない私は壁の花となるしかない。
それでもパーティーには参加したかった。
このパーティーにフランメルが久しぶりに参加するからだ。
レオナルドと踊るフランメルの笑顔は相変わらず美しかった。
恐らくこれが最後になるだろう。
私では彼女からあの笑顔を引き出す事は出来なかっただろうと、彼女の笑顔を瞼の裏に止め会場を後にした。




