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私に出来るのはただ見ている事だけ(レオナルド)

私に出来るのはただ見ている事だけであった。


俺には幼馴染みがいた。

彼女の名はフランメル。

フランメルの父親が治める領地とは隣であった事もあり、小さい頃からよく遊んでいた。

二人で町に出掛けては色々な店を巡り歩いた。

フランメルが驚く顔。

フランメルが美味しそうに食べる顔。

フランメルが嬉しそうに笑う顔。

色々なフランメルの表情を見ることが俺の喜びであった。


この幸せが永遠に続くものと思った。

父に頼みフランメルとの婚約を申し出たが父からはまだ早いのではとなかなか婚約の釣書を持ち掛けてくれなかった。

それがいけなかったのだ。

もっと父に催促しておけば良かった。

まさか公爵家よりフランメルに婚約の申し出が届くとは思わなかった。


公爵令息のウィリアム様は容姿端麗で文武両道と文句の付けようがない。

程なくしてフランメルとウィリアム様との婚約が結ばれる事となった。

仕方がない。

相手は公爵家嫡男だ。

断れる訳がない。

だが・・・

この日より、俺の世界から明かりが消え失せた。


フランメルと会う事はもう出来ない。

フランメルの笑顔を見ることはもう出来ない。

フランメルに気持ちを伝えることはもう出来ない。


町中で二人が出掛けている姿を見掛けた。

この時は隣領であった事をこれ程恨んだ事はなかった。

俺が出来た事は二人の姿をただ見ているだけであった。


月日が経つと俺にも釣書が届くようになった。

解っている。

俺も侯爵家の嫡男だ。

貴族として政略結婚など当たり前の事だ。

だが・・・

どうしても・・・

フランメルを忘れる事が出来なかった。


「父上、私は婚姻しません。私が侯爵家を継いだ場合は次の後継ぎは弟の子をと考えております。それが駄目でしたら私を廃嫡して下さい」


母が泣き崩れ父がひたすら私に謝ってきた。

暫くすると釣書が届かなくなった。

山のように来ていた釣書を断り続けた結果、貴族社会の間で俺に何か問題があるのではと噂されるようになったからだ。


学園に通う年となった。

家族から学園だけは通ってくれと頼まれたので仕方がないが憂鬱だ。

学園に通えば二人の仲が良い姿を嫌でも目に入ってしまう。

地獄の学園生活を覚悟するしかなかった。


だが、学園に入ると二人の仲に異変が生じた。

切っ掛けは一つの王命であった。

隣国からセラフィーナ王女が留学に来られることになり学友を付ける事になった。

昔、セラフィーナ王女の国の情勢が荒れていた時に我が領地に避難してきた事があり、よくフランメルも含め三人で遊んでいた。


そのため、セラフィーナ王女の側近兼護衛は俺がなるものと思っていたが、婚約者がいない男性が側近として務めるのは如何なものかとお偉方から意見が出てここでも俺はウィリアム様に負けてしまった。


学園ではセラフィーナ王女の側にウィリアム様がいる姿を見掛けるようになった。

ウィリアムはしっかりと務めをまっとうしているようだ。

しかし、暫くすると異変に気付いた。


一緒に居すぎではないのか?

ウィリアム様とセラフィーナ王女が一緒にいるところは見掛けるがウィリアム様がフランメルの側にいるところを見たことがなかった。

何か可笑しくないか?

何か嫌な予感がする。

少し調べてみる事にした。


なんて事だ。

学園だけでなく休学の日もウィリアム様はセラフィーナ王女に会いに行っていた。

学友の域を越えているのでは?


ある日、フランメルが中庭を見つめていた。

その姿は寂しそうで、今まで見たこともない表情だ。


「フランメル・・・」


俺の問い掛けにフランメルは一瞬だけ目を大きく見開いたが、直ぐに先程の寂しい表情へと戻り、会釈だけして走り去って行った。

フランメルが見ていた先を見るとあの二人がいた。

俺ならばフランメルにあんな顔させないのに・・・

フランメルには笑顔が似合うのに・・・


「ウィリアム様、たまには婚約者の側にいるべきです」


「君は王命を無視しろと?」


「そんな事を言っているのではなく・・・」


「どちらにしても君が心配する事ではない。フランメルには伝えてある。フランメルだって覗いて見ているが何も言って来ないと言う事は納得してくれているはずだ」


えっ!

ウィリアム様はフランメルが見ていた事を知っている!?

知っていて二人でいるのか!?

なんてヤツだ。

こんなヤツにフランメルを奪われたのか・・・

行き先のない怒りを拳に溜めすぎ拳からポタポタと赤いものが滴り落ちた。


俺は何も出来ないのか・・・

パーティー会場でもフランメルは一人であった。

話し掛けても少し言葉を交わすだけで離れて行く。

ギリギリ保てている公爵令嬢としての矜持が優しさによって崩れないように必死に堪えているだ。

何も出来ない己が不甲斐ない。

俺が出来るのはただ見ているだけであった。


「えっ!ウィリアム様とフランメルが揉めてる」


それは突然だった。

今まで婚約者なのに一切の接触がなかった二人がここに来て何を揉めると言うのか解らないが、何やら嫌な予感がした。

現場に駆け付けるとフランメルが倒れており、ウィリアム様が恐ろしい形相でフランメルを罵っていた。

俺が駆け寄った時にはフランメルの意識は既になかった。

なのにウィリアム様はフランメルに罵詈雑言を吐き続けていた。


「大変だ!誰かフランメル嬢を直ぐに医務室に連れていってくれ、頭を打っているかもしれない」


フランメルはクラスメイト数名に医務室まで運ばれた。

ウィリアム様の口から罵詈雑言は留まったが、フゥーフゥーと鼻息が荒く鳴らしていた。


「ウィリアム様、令嬢に手を上げるなど、なんて事をしたんだ!」


「フランメルはあろうことかセラフィーナ王女を階段から突き落としたんだぞ。許せる訳ないだろ!」


「セラフィーナ王女が!?それはいつですか?」


「一時間ほど前に西棟二階の階段だ」


「フランメル嬢がやった証拠はあるのですか?」


「こんな事をするなどフランメルしかいまい」


なんて男だ。

フランメルがするわけないだろ。

己の婚約者を信じられないのか。

すると、フランメルのクラスメイトの一人がおそるおそる手を上げた。


「フランメル様はずっと教室で読書をされておりました」


「ば、馬鹿な」


クラスメイトから次々とアリバイ証言が飛び交う。

フランメルの無実は明確なものとなった。


「誰かフランメル嬢の犯行を目撃した者がいたのですか?もしくはセラフィーナ王女が目撃したのですか?」


「・・・いや誰もいない。セラフィーナ王女は自ら踏み外して転んだと言っていた」


周辺から「嘘でしょ」「酷い」「信じられない」などの声が飛び交い、皆が公爵令息を白い目で見ていた。


「フランメル嬢はウィリアム様の婚約者ではないのですか?婚約者を信じることが出来なかったのですか?いや、出来なかったにしても暴力に出ず相手の話を聞べきだったのではないのですか?」


「わ、私は王命で・・」


完全に人選ミスだ。

この男に王命など出すべきでなかった。

俺は決めた。

ただ見ているだけを止める事を決めた。

俺は行動を起こす。

フランメルを守るために。


ウィリアムは駆け付けた教師陣に連れていかれた。

フランメルが心配だ。

慌てて医務室に向かったがフランメルはいなかった。

医師に話を聞くと治療を終えたフランメルをセラフィーナ王女が邸まで送って行ったと言う。

セラフィーナ王女が?


急いで侯爵の邸に行くとフランメルはベッド上で横になって眠っていた。

隣にはセラフィーナ王女がフランメルの手を握りなから心配そうに見ていた。

セラフィーナ王女と一通り話をしたあと、セラフィーナ王女には一度戻って貰うことにした。


侯爵が帰って来られた。

侯爵から話を聞きたいと呼び出される。

部屋に入ると侯爵が人差し指で机をリズムよく叩きながら俺が訪れるのを待っていた。

俺は知っている。

これは侯爵の怒りのサイン。

侯爵は激怒していた。


「説明してくれ」


私が見聞きした事をセラフィーナ王女から聞いた話を侯爵に説明した。

侯爵の机を叩く指のリズムは変わらないが一つ一つの叩く力が強くなったような気がする。


「ウィリアムは危険です。一度暴力を振るう者は次も行います。相手が公爵家で婚約を破棄する事は難しいかもしれませんが、フランメルを守るためにも婚約を破棄に出来ないでしょうか?」


「私も婚約破棄の話はしていた。しかし最後は娘の気持ちが大事だと娘に任せていたが、もう我慢ならん。今回の暴行を理由に破棄をする」


侯爵は味方であった。

良かった。侯爵は昔のままだ。


「しかし、目を覚ました娘がまだウィリアム令息に未練があれば、勝手に破棄した事にショックを受けないか心配でならん」


「安心して下さい。俺がフランメルを守っていきます。俺がフランメルを支えます」


「ほう、幼馴染みに君がいてくれて良かった。娘の事を頼む」


しかし、未練を残すこと無くフランメルも婚約破棄に承諾した。

フランメルの心は恋情から恐怖の色に塗り替えられた。

やっとフランメルがヤツから解放される。

怯えているフランメルはまだ自由を掴めていない。


フランメルの恐怖で染まった心を癒したい。

俺は必死にフランメルがまた笑えるように頑張った。

またあの笑顔が見れるように・・・

努力が実りフランメルの笑顔が見れるようになった。

懐かしい・・・

また彼女の笑顔が見れた。


侯爵から呼び出された。

フランメルとウィリアムの婚約は破棄された事を告げられた。

そしてフランメルと婚約を結んで欲しいと頼まれた。

嬉しい。

だが、フランメルの事を考えると・・・


「フランメルからは承諾を得ている」


えっ!?

フランメルが?


「君なら信用出来るそうだ。フランメルを貰ってくれないだろうか?」


「喜んで!俺の方から宜しくお願いします!」


実家に帰りフランメルと婚約を結ぶ事を告げた。

母は再び泣き崩れた。

父の目からも涙が落ちるのが見えた。


学園でも皆から祝いの言葉をもらった。

このままフランメルには楽しい学園を過ごさせたい。

今までが辛かっただけに。

ウィリアムの事はセラフィーナ王女に任せて置けば大丈夫だろう。


楽しい学園生活も終わりを迎えた。

今日は卒業パーティー。

フランメルと踊るパーティーは最高に楽しい。

思わず三曲続けて踊った事でフランメルに疲れが見えた。

フランメルには休んで貰い、飲み物を取りに行く事にした。


暫くするとバルコニーの方から怒鳴り声が聞こえた。

あの声には聞き覚えがあった。

フランメルが危ない!?

俺は急ぎバルコニーの方に向かった。


「フランメル大丈夫かい?」


フランメルが俺の方へ駆け寄ってきた。

フランメルを抱きしめ、ウィリアムとフランメルの間に入った。


どうやらウィリアムはフランメルとの婚約が破棄された事を知らないようであった。

嫌、知ろうとしなかった。


「ウィリアム様は本当に気付いていないんですね。ウィリアム様とフランメルとの婚約は既に解消されております。ウィリアム様の有責で」


「な、馬鹿な!?」


「馬鹿なではないでしょう。ウィリアム様はフランメルを突き飛ばして怪我をさせました。普通は解消になると思うはずです。ウィリアム様は怪我をしたフランメルに見舞に来る事も手紙で謝罪する事もなかったようですので承知なのかと思っておりました」


「私は王命で・・・」


「王命はセラフィーナ王女の側近ですよね。それを理由に婚約者を蔑ろにしていた事も問題ですが、まあ百歩譲ってそれは良しとしましょう。ですが、婚約者を突き飛ばして怪我をさせる事などの王命は出ておりません。国王陛下を貶めるような発言は控えて頂きたい」


「私は・・・」


「因みに今は私がフランメルの婚約者です。フランメルは婚約者と出掛けていただけに過ぎませんのでふしだら等と言う発言は取り消して頂きたい」


「そんな・・・」


「フランメル行こう。もし良ければもう一曲踊ってくれるかい?」


「はい。私もまた少し踊りたいと思っておりました」


フランメルともう一曲踊る事にした。

ウィリアムが見ているが関係ない。

これでフランメルの気持ちが少しは理解出来るだろう。

ただ見ているだけと言う拷問を味わうがいい。



【後日談】


ウィリアムが俺の所へ訪ねてきた。


「公爵令息様がどのようなご用件で?」


だいたい訪ねてきた理由は予想外つく。


「フランメルについてだ。私はフランメルと婚約を破棄するつもりなどなかった。両家の親が勝手に行った事で無効だ」


やはりか。


「フランメルに暴力をふるっておいて婚約を破棄するつもりはないなどふざけたいい分ですね。これはオードニー侯爵が暴力を理由に王家に訴え王命で破棄が決定した事です」


「王命・・・」


「そうです。ウィリアム様が大事にされた王命です。ウィリアム様は王命を理由にフランメルを蔑ろにしてきたのですから王命による婚約破棄も文句は言えないのでは?」


「私はフランメルの事を愛していた!」


「愛していた?ならば何故にフランメルに会おうとしなかったのです。何故にフランメルに暴力を振るったのです。何故にフランメルの事を信じなかったのです。ウィリアム様はフランメルの事を愛してなどいない!愛していたのならばもっと大事にしていたはずだ!」


ウィリアムにはもう何か言う元気はなかった。

膝から崩れ落ち立て膝状態で呆然としていた。


「どうやらもう用はないようですね」


何も喋らなくなったウィリアムをほっておいて静かにドアを閉めた。

だから解らない。

ウィリアムがいつ帰ったのか。

だが、この日以降、彼が私達の前に話し掛けて来ることはなくなった。

第二話はレオナルド視点です。


ここでは少しだけセラフィーナ王女の印象が変わって来るかと思います。

第二話になると・・・

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