肇のステージ
がんばって書いていきます。
ああ、タヒにたい。
だが、決して「死にたい」わけじゃない。
将来の夢も、やりたいこともない、目標もない。
ぶっちゃっけ、何もやりたくない。
勉強も部活もやりがいを感じない。
生きがいがない。
とはいっても、まだ死ぬのは嫌だし、痛いのも嫌だから、「死にたい」に一本横線が足りない。
タヒにたい。
そんなしょーもなくイタいことを思いながら、高校一年生の俺は今日もトランペットの入ったカバンを肩にかけ、リュックサックを背負い、ワイヤレスイヤホンを耳にさし、テキトーにア〇マスの曲を聞きながら学校に向かう。
家からたった15分の徒歩の距離にある、なんとも古臭い男子校だ。
私立樂蒼院中・高等科は100年以上の長い歴史を持つ中学・高校だ。
もともと、官営の学校だったが、大戦後に私立に変わり、今はその栄えある歴史と伝統を重んじる古臭い、由緒正しきおぼっちゃま学校である。
別に俺はこの学校は嫌いではない。むしろ好きだ。嫌いなところを挙げるとすれば、校舎が古いことぐらいだろう。
そんな学校の吹奏楽部に所属している俺はトランペットを担当している。
ものすごくうまいというわけでもないが、自分も、吹奏楽部全体もそれなりの演奏技術はあるつもりだ。
学校生活も部活もうまくいってないわけではない。むしろ順風満帆ってとこだ。
だけど、なにか足りない。
したいことが無い。
夢や目標がない。
だから、こんな毎日がダルくて、めんどくさく感じる。
かといって勉強や部活をおろそかにできない。
だから「タヒにたい」
要するに、ヘタレなだけなのかもしれない。
か、もしくは単なる中二病なのか。
おそらく、どっちもだ。
そんな感じで今日も、初〇学園の「Camp〇s mode!!」を耳に垂れ流しながら、国の重要文化財に指定されているボロい正門を潜り抜けて、学校の敷地に入る。
今日は別に授業はない。
だが、部活がある。
しかも、本番だ。
このあと、俺は30人弱の部員とともにステージの上にたって、課題曲と自由曲を演奏しなければならない。
たぶんどーせ今年も銀賞、はたまた銅賞、良ければダメ金だろう。正直あまり自信がない。
樂蒼院中高吹奏楽部は歴史はあるが、実力はあまりない。あと、お金があるぐらいである。
「おはよう、数原。ちょっと遅くないか。早くバスに乗って」
そう俺は高2の宮城先輩に少し怒られた。
「すいません、、」
耳からイヤホンを抜き、これからコンクールを行う会場へと向かうバスに乗った。
つい家から学校が近いから毎回時間ぎりぎりになって家から出てしまい、遅刻しそうになる。
「数原、おはよう。ちょっと遅くないか?」
「おはよう、本田。遅くなって悪ぃ」
俺は高1のサックスの本田のとなりに座った。
「時間ぎりぎりまで朝オナしてた」
「マジかお前」
しょーもない思春期の男子高校生の会話を交わす。
「もういない奴はいないな・・・。もうそろそろバス出るからシートベルトしめといて」
まだ寝ぼけてそうな顧問の鍋島先生が言った。
ほどなくしてバスは動き始めた。
まだ朝日が昇りつつある薄ら明るい空の下をバスは走り出す。
「そーいえば、昨日の夜、クィン・〇ンサのhg発表されたの知ってる?」
「ああ、知ってる。マジやべぇよな。絶対買う」
「ついにだよ。このままサイコ・〇ンダムMk-Ⅲもプラモ化してくれ、、」
「いやー、結構先じゃない?あれってアニメに登場してるの?」
「登場してないよ。あれゲームが元ネタの機体」
俺と本田はガノタであるが、本田は父親の影響でガンプラが好きで、機体だけしか知らず、〇ンダムのアニメは一つも見たことがない。俺はわりかしアニメは見ているほうで、どっちかというとアナザー〇ンダムが好きだ。本田は宇宙〇紀シリーズの機体しかあまり知らない。
「お前もとっととアニメを見ろよー。ていうか絶対見たほうがいい」
「いやー、あんまり気が進まないんだって。あんなに話数多いし、、、」
「今〇マプラで腐るほど見れるぞ、とっとと見ろよ」
「そもそも自分ホントにアニメ見るの苦手だしなぁ、、、バト〇ペやってるからそれで十分だし」
「ったく、もったいねーよ・・・・UC見たら絶対ハマると思うんだけどなー・・・って今時間あるし見てみるか?」
「えぇ・・まぁいいけど」
少し本田は顔をしかめた。
俺は嬉々としてイヤホンを渡し、スマホで本田に機動戦士〇ンダムUCを見せ始めた。
まったく、本番前なのに緊張感がない。
本田は「ああ、このスターク〇ェガンのシーンは何回も見たことある」とか言いながら見ていたが、なんとなく内容が頭に入っていなさそうだった。
そんな間もバスはまだ寝ぼけている街の中を走っていく。
俺は気まずくなって「やっぱいいか」と言って見せるのをやめた。
またやってしまった。
つくづく自分が嫌になってくる。
そう思いながらも、雰囲気を変えるために、「そーいえば、今度ブル〇カ、水着カ〇ミと〇グ実装されるらしいね」と言った。
「そうそうそう!!!マジイイよな。絶対引いてみせるわ、、。いやーでも最近ブ〇アカ開いてないなぁ、、石貯めないと」
「ホントだ、お前ログインしたの21日前じゃん」
俺はフレンドリストを見ながら言う。
「新しいストーリーも読まないとだし、、いろいろ大変だわ」
「 俺もとっととストーリー読まないと、、エデン条約編以降まったく進んでない、、マズい」
「これから高速道路に入ります。シートベルトをきつくしめ、座席の背もたれに背をつけてください」
車掌が唐突に言った。
俺たちは言われた通り背もたれに背をつけた。
「まったく、なんであんな離れたところにあるコンサートホールで俺たちは演奏しなきゃなんねーんだ」
「なんでだろうね、ほんと。新しくできたコンサートホールなんでしょ」
「そーらしいね。あんなに遠くなかったら、もっと俺寝れたのに・・・・。今日何時間寝た?」
「たぶん7時間くらいかな。昨日もう9時ぐらいに何とか寝て、4時に起きた」
「おれも7時間かな。昨日10時くらいに寝て、5時に起きて、15分くらいで抜いて、急いで学校来た」
「すごいな、、、。15分って早くね?」
「朝は妙にムラムラしてること多いから、俺は」
そんなしょーもない会話をしていても埒が明かないため、俺たちは楽譜を取り出して今一度楽譜を読み返した。
ざっと二時間ぐらいでコンサートホールに到着した。そして、俺らはあとから来たトラックから楽器を運び出し、ホール内の自分たちの席へと向かった。
「きんちょーするなぁ。全然できる気がしない」
「まーね。たぶん今年も去年と同じじゃない?」
俺の左隣に座った高1のチューバの鈴木が言った。
鈴木は緊張しているのか、さっきからホール全体を繰り返し見渡している。
「僕たちの出番って共豊学園の次であってるよね?」
俺の右隣りの高1のホルンの小野が言った。
「そうでしょ。だいぶあとの方じゃなかったっけ?」
「そうじゃないの?だからそれまで結構長いんじゃない?その分緊張がたまるけど」
まだキョロキョロ周りを見渡している鈴木が言った。
そうこうしているうちにコンクールが始まった。他の学校の演奏に圧倒されながら、ふつふつと自分の中に緊張と不安がどんどんたまっていった。
俺は「ちょっとトイレ行ってくる」と言って、とりあえず今のうちにトイレに行った。
俺はトイレで二、三時間前にしごいていた自分の息子を出して一人で立ちションをした。
あぁー、、今年はどうなるんだろう、、
トイレをすませ、洗面所で手を洗い、左右非対称な髪形をテキトーに整えた。
「何か」がいる気配を背中に感じた。
急いでバッと後ろを振り向くと、別に何もいなかった。
上から何かゴソゴソとする音がした。
天井を見た。
通気口があった。
「何か」が動いた気がした。
俺は怖くなった。
が、しかし周りに誰もいないため、ただ単に俺が疲れているだけだろうと思った。
「もうちょっとちゃんと寝ときゃーよかったなー」
とかぼやきながらその場を後にした。
席に戻ると、もう部員のみんながいなかった。
「やばい!まずいっ!」
俺は急いで楽器と楽譜をもって控え室に急いだ。
「おい遅いぞ、どこ行ってたんだよ!?」
「すんません、トイレに行ってて遅くなりました、、、」
「まったく、、、、」
俺はまた宮城先輩に怒られた。
その後、控室で軽く音を合わせ、顧問と主将が本番前の演説をし、
「樂蒼院魂魅せるぞー!!」
「おうッッ!!」
と一斉に気合を入れて舞台袖に移動した。
「気合い入れてこう、やるぞっっ!!」
「「「おうッッ!!」」」
小声で宮城先輩の喝に合わせて俺たち四人のトランペットパートは舞台袖でさらに気合を入れた。
俺は緊張してはいたが、不安はなくなっていた。
今年はイケるんじゃないか。
なんなら今年こそ金賞で全国行けるんじゃないかという良く分からない自信があった。
「ありがとうございました。
続いて、42番、樂蒼院中高吹奏楽部の演奏です。
指揮は、鍋島先生です。」
アナウンスが入り、俺たちは舞台に入場した。
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あぁ、ダメだった。
めちゃくちゃミスった。
もうダメだ、やだ、タヒにたい。
俺は演奏直前と打って変わって気分が急降下していた。
今年もどーせ銅賞、よくて銀賞だろう、、。
俺はステージを後にして、楽器を片付け、ポケットにマウスピースを入れ、そそくさと席に戻った。
そこからはもう、他の学校の演奏を聞けるような気分じゃなかった。
だらだらとステージから流れ出るメロディーとハーモニーを耳から耳へと垂れ流した。
俺は完全に意気消沈していた。
毎回俺は本番が終わるたびにこうなっている。軽い鬱病なのかもしれない。
そんな自分にさらに嫌気がさす。
ああ、タヒにたい。
ぼけーとしていると、気づいたら演奏が全て終わっていた。
「まもなく結果発表を行います。
会場内では私語をお控えいただき、静かにお待ちください。」
アナウンスがそう告げると、俺はようやく気持ちを入れ替えて、席に座りなおした。
「その前に、このヒムリッシュホールの竣工、そして初の吹奏楽コンクール開催を記念して、帝国吹奏楽団による演奏を行います。どうかご清聴の程よろしくお願いいたします。」
アナウンスが続けて告げた。
「へー、そんなのやるんだ」
俺はつぶやき、「そんなの聞いてた?」と隣の鈴木に聞いた。
「あんた聞いてなかったの?先生言ってたよ」
「そうだったのか、、知らんかった」
鈴木はあきれたような顔をした。
そうしていると拍手とともに指揮者がステージに上がり、演奏が始まった。
俺は少しでもこの演奏から何か学ぼうと俺は鬱屈した気持ちを切り替え、プロによる演奏をこの機会に耳に刻み付けようと、目を閉じた。
瞬間、轟音が鳴り響いた。
俺は目を開けた。
ステージが巨大な戦闘機の足によって踏みつぶされていた。
濃く赤い湖ができていた。
観客が一斉に悲鳴を上げた。
「我々は宇宙開放戦線である。帝国の独裁、圧制、そして搾取から宇宙の人民を開放する誇り高き戦士たちである。ここに帝国軍の新兵器があると傍受した。この劇場にいる者はすべて人質とする。帝国軍は大人しく投降し、新兵器を明け渡せ。我々は完全にこの劇場のシステムを掌握した。完全にこの劇場は我々によって包囲されている。繰り返す、帝国軍は大人しく投降し、新兵器を明け渡せ。」
煌歴2342年7月25日、地球の衛星軌道上のヒムリッシュホールにて銀河帝国に反旗を翻す宇宙開放戦線の過激派によるテロが発生。
俺の青春の交響曲はここから肇まる。
読んでくれてありがとうございます。




