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08. 魔女会参加

 ◆◇◆◇


 黒いローブの女は火が燃えたぎる方へと歩いて行った。一行は大人しく後ろをついていく。

 細い道を抜けると、広場に出た。広場の中心には太い木がくべられて、炎が力強く上へと上がっている。火の粉が高々と空に舞って弾け飛ぶ。蛍の群れのようなその光景は、幻想的だ。


 立派なキャンプファイヤーを囲っているのは、黒いローブを着て、三角錐の形をした帽子を被っている人の集団だった。

 その手には、箒。

 または、杖。

 足元には黒猫がじゃれついている人もいる。猫の金色の目が千夏たちをじっと見つめる。


 足元まで覆われている長いローブのせいで体型はよくわからないが、ざっと見た感じだと、そのほとんどがおそらく女性だろう。ローブから出ている手はほっそりとしていて、髪色はさまざまだが、みんな美しい長い髪の毛を垂らしている。


「わ。魔女コス、きたー!」

 目ざとく声を上げたのは三輪くんだ。

「ハリポタ愛好会かしらね?」

 花梨は首を傾げる。

「……ついに自分にも、ホグワーツからの入学許可証が!」

 向井さんは天を仰いだ。

「いや、おっさんは魔法学校に入学できないですよ、先輩」

 後輩からツッコミが入る。

「そんなことはない! 俺の心はいつまでもティーンネージャーだ!」


 騒いだ一行に注目が集まったようで、おしゃべりをしていた人々が一斉に千夏たちの方を振り向いた。同じ服を着た数十人に見つめられると、なかなか圧がある。一行は戸惑ったように一歩下がった。


「偉大なる魔女たちよ。新たな客を連れてきたぞ」

 道案内役の女がしわがれた声で告げた。

 ざわりと空気が揺れる。

 目を細めて千夏たちを見る魔女、面白そうに口角を上げる魔女、苛立たしげに腕組みする魔女など、反応はさまざまだ。

 凝視されるが、誰も声をかけてこない。口元を覆うように、ヒソヒソと仲間内で話している。


 あー……どうしたものか。

 千夏は係長の後ろに隠れながら、『魔女』と呼ばれた人々を見た。


 さすがにね、途中からちょっと変だなとは思ったんだよ。でもね、うちの犬みたいに、リードに繋がれると歩いて行っちゃうっていうかさ。


 千夏の実家の犬は、愛すべきおばかさんだ。お風呂に入れられるのが大嫌いで、普段は浴室に近寄ろうともしないが、散歩に行くふりをして首にリードをつけると、浴室までほいほい歩いて行ってしまうのだ。そして浴室でリードを外すと「しまった! やられた!」という顔をする。何回かやればさすがに学習するんじゃないかと思いきや、疑うことを知らないうちの子は、毎回これに引っかかるのだ。

 まあ、シャンプーした後の「僕ずぶ濡れになっちゃいました」としょぼーんとする姿が哀愁漂っていて可愛いのだが。そしてドライヤーが終わるとテンションが爆上がりするまでがセットだ。

 係長も濡れたらしょんぼりするのだろうか。今度うっかり花瓶から水をこぼしてみたり……いかん、いかん。そうではなくて。


 つまり、まるでリードに繋がれて何かに引っ張られたかのように、千夏たちはここまで来てしまったということだ。


 そんなことを考えていると、魔女の一人と目が合った。目鼻立ちがはっきりした、たいそうな美人だ。やや吊り上がりぎみの目が意志の強そうな、というかキツそうな印象だ。その美人がムッと顔を顰めた。


「ちょっとそこのあなた。あなた、魔女でしょう? 困るわよ、こんなにゾロゾロ素人連れて来られたら」

 美人はズカズカと千夏のところまで歩いてくると、腰に腕を当てて言い放った。この人に逆らってはいけないというような、威厳のある声をしている。近くで男性陣が縮み上がった。が、千夏は淡々と返す。

「いえ、私はコウモリです」

「どこがよ?」

「えっ、だって、羽ついてますし!」

 千夏は美人に背を向けてコウモリの羽を見せた。肩に回しているバンドがきつくてやや痛いが、従姉妹のお姉ちゃんが前に『オシャレは我慢』と言っていたから、見た目を重視しようとしたらある程度の犠牲は避けられないのである。


「ただの作りものじゃない」

 美人は見下すように言い放った。

「はあ……」

 さすがに本物のコウモリの羽は売っていないだろう。ブラックマーケットにならありそうだけど。

 そこまでこだわるべきだったか、と千夏は一瞬考えた。が、すぐに却下する。国際うんちゃら条約で捕まっても困るし、何より臭そうだ。


「うちの部下が大変失礼いたしました。わたくし、責任者の係長です」

 係長が千夏の前に出て、美人の視界を遮った。

 千夏は胸がきゅっとした。

 うちの犬もね、普段ヘタレなんだけど、変質者っぽい人が出ると「ぐるるるる」って唸ってくれるの! 尻尾はお尻の下に丸まってるんだけどね! そこがまた可愛くてね!


 ついつい係長のお尻に目がいきそうになるところを、千夏はぐっと堪えた。

 係長には尻尾が生えていない。よし、来年は狼男にしようかな。


「あんたは何なのよ?」

 美人は今度は係長に詰め寄る。係長は、はたと止まった。

「私は……」

 係長は戸惑ったように千夏を見る。千夏はすかさずフォローに入った。

「こちら、ドラキュラ伯爵でございます」

「ドラキュラ? あんたが?」

 美人は胡散臭そうな目で係長を上から下まで舐めるように見た。

「あ! 係長、牙を忘れてます!」

 千夏はポケットに入れっぱなしになっていた牙の被せ物を係長に手渡した。係長はそれを受け取ると、手探りで口に嵌めた。


 ね? うちの係長、こんなに素直なの! すごいでしょう?


 千夏はキラキラとした目で美人を見た。

 納得がいったのか、美人は頷いた。「やっぱり魔女だわ」という呟きには賛成しかねるが、係長が牙を嵌めたことの方が千夏には重要だ。


「ちょっと、どうなのよ? 真里」

 真里と呼ばれた美人が仲間の方を振り返った。

「大丈夫。お仲間よ」

 真里は手をひらひらさせながら言う。その一声で、魔女集団の警戒心がやや弛んだようだ。他の女たちも興味をそそられたように寄ってきた。


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