偽物に奪われた星詩の乙女は竜と未来の伴侶に見つけられる
ミラ・アンネローゼはアンネローゼ公爵家の一人娘であり、星詩の乙女という特別な存在だった。
だが、母の死後父が連れて来た後妻たちが家を乗っ取り、さらにはミラの立場すら奪ってしまう。
家を追い出されたミラは教会に行き着き、顔なじみの神父に話すが神父が王宮に報告するのを止める。
その真意は復讐だった──
私の名前はミラ・アンネローゼ。
星詩の乙女の家系でアンネローゼ公爵家の一人娘です。
いえ、一人娘でした。
家督を継いでいる母の元に婿として父の間に生まれました。
亡き母から代々伝わる星詩を口伝で教わり、星詩の乙女として王宮の竜と第三王子ファリア殿下にお会いする一年前に、母が謎の死を遂げました。
父は数年前から家の外に頻繁に出るようになっていました。
それを私は確かめればよかったのです。
父が出なかった母の葬儀が終わった後、父はすぐ再婚。
その女性には子どもが居ました。
そこで私は理解しました、ああこの父はこれをかくしていたのかと。
それから直ぐ、私は家を追い出されました。
「星詩の乙女の刻印は本に載っていた、アリスにその刻印を胸元に刻ませたからお前は偽物として生きて行け!」
「ごめんなさいねお姉様、じゃあね、ふふふ、あはははは!」
私はヨレヨレの服で着の身着のまま教会に向かいました。
「おお、ミラ様どうしてそのような御格好を⁈」
神父様がやって来て驚いた風におっしゃいました。
私は答えます。
「父は不義理を働いて居ました、外で子どもを作り、その子ども──娘に星読みの乙女が生まれながらに持つ刻印を施し、私の代わり──『ミラ・アンネローゼ』として第三王子ファリア殿下と結婚するのでしょう」
「なんてことを! 今すぐ王宮に連絡を!」
「待ってください!」
「ミラ様、どうしてです⁈」
「……直ぐにバレます」
「え?」
「父は知らないのですよ、口伝の星詩を。どんな詩か知っているのは母系のみ、口伝を伝える時は竜の間で伝えることが決まっていますから──」
そう、これから復讐を始める。
お母様は望まないかもしれないけれども、私が許さない。
それから一年間私はシスター・エステルとして暮らしました──
「……」
「ファリア落ち着けよ、小さい頃は会えた愛しいミラにようやく会えるのがうれしいのは分かるけどな」
私は兄にそう諭されるが中々落ち着かない、いや何か嫌な予感がしていた。
私の名前はファリア・ドラグマ。
ドラグマ王国の第三王子。
代々続く星詩の乙女、アンネローゼ公爵家に婿入りが決まっている。
そしてその家の一人娘ミラは私の婚約者だ。
王家は代々第一王子以外の王子か、王族に連なる者をアンネローゼ家に三世代に一度婿入りさせるのだが、その番が私だった。
幼い頃出会ったミラは聡明で美しかった。
どうじに愛らしくもあった。
銀色の髪に紫の目、代々アンネローゼ家の娘が引き継ぐ色だ。
ミラの母君も同じ色をしていた。
王宮で竜の間で星詩の練習をしているときはいつも真面目だった。
私はそれをそっと見ていた。
ただ気になったのは、ミラの父親は一度も王宮には来なかったのが気になった。
竜の間に近づくことは許されなくとも、国王である父と話すこと位できたはずなのに、一度もこなかった。
そして葬式のときにも居なかった。
ミラの母、自分の妻の葬式なのに。
調査した結果別の家庭を持っていたということが判明し、再婚したのも聞いた。
が、ミラがその日から家から一歩も出なくなったと聞いた。
そして、ドレスを買いに来たという不思議な情報があった。
おかしい。
星詩の乙女のドレスは特注品だ、代々王宮御用達のドレスを作る店でないと作れない代物だ。
何かある、絶対。
「お前が気にするのも分かる、愛しのミラ嬢に何かあったのでは⁈ とな」
「そうです……」
不安で仕方が無い。
「ファリア殿下! アンネローゼ家が参りました」
「来たか……」
私は見定める為に星詩の間へと行った。
「ファリア殿下ー!」
「誰だ貴様は‼」
私がそう言うと兵士達がアンネローゼ家を取り押さえる。
「み、ミラですわ! どうしたのですファリア殿下!」
「ミラの髪はそんな薄汚い銀色ではない! 透き通るような銀色だった! 目だってそうだ、そんな濁った紫ではない! 澄んだ紫だ!」
「い、いえ、私ですわ!」
そう言って胸元の星詩の乙女跡を見せるがどう見ても私には入れ墨にしか見えなかった。
「で、殿下! 娘を疑うのですか⁈」
偽物たちが騒いでいる、どうしたものかと考えていると兄が耳元で囁いた。
「星詩を歌わせろ、竜の間で」
「その手がありましたね」
私は頷き。
「その者たちを竜の間に連れて行け!」
「は!」
そして竜の間に連れて行く。
巨大な竜に腰を抜かす三名。
「どうした、ミラを名乗っているならこの竜に見覚えがあるだろう?」
「あ、ありますわ! 久々でしたので驚いただけですわ!」
「では星詩を」
「え」
「歌えぬのか星詩を」
圧をかけると、偽物は癇癪を起こした。
「なによ! 星詩って! 玉の輿に乗れるとおもったのに! せっかく外国の商品や魔術師の手を借りて、髪の色を変えて目の色も魔法具で変えたのに!」
『やはり偽物だったな、ファリアよ』
「守護竜よ、申し訳ない」
「さぁ、その者たちを牢屋にぶち込め!」
兄の指示に、兵士達がアンネローゼ家の連中を牢屋へと連れて行く。
『ファリア、ミラを迎えに行くぞ』
「ええ」
私はドラゴンの背に乗り、飛び立った。
愛する、本当のミラの元へ。
星詩の儀が執り行われている頃だろう。
そして全てが明かされているだろう。
そう願って私はパイプオルガンを弾いていた。
「ミラ様! ファリア殿下と、守護竜様が!」
神父様の言葉に私は立ち上がり、駆け出す。
そしてシスターのケープを外しファリア様に近づく。
「ミラ!」
「ファリア様!」
私達は抱きしめ合う。
「ミラ、良く無事で……! そして何故早く教えてくれなかったのだ……!」
「……復讐ですわ、私の母をないがしろにし、家を乗っ取った連中への、星詩が歌えない乙女は星詩の乙女ではないですから……」
「そうか、でも無事くらい知らせて欲しかった」
「ごめんなさい」
ファリア様を不安にさせたのだけは私の失態だった。
「ミラ様、こちらドレスになります、店の主人に秘匿させ作っていただきました」
神父様が、星詩の乙女のドレスを持ってくる。
私は教会に入り、ドレスに着替える。
そして神父様やシスターや子ども達に今までのお礼を言ってその場を後にした。
守護竜様に乗り、竜の間につく。
ファリア様と、私、守護竜様以外退出する。
『さぁ、愛し子よ、星詩の乙女よ、歌っておくれ』
「はい」
私は一呼吸置いて歌った。
「♪~~」
星詩を。
長い時間をかけて歌い終わると、守護竜様は笑った。
『これでまた結界を保てるな』
星詩は、守護竜様が、国を守る結界を強固にする詩なのです。
守護竜さまは、正式には星詩の竜と呼ばれています。
星詩は私達の祖である聖女様が竜から教えられた歌。
だから、竜の間で母から子、そして星詩の竜から乙女へと伝えられるのです。
父は外の人間だったからそれを知らなかった。
公爵家を乗っ取るしか頭になかったのでしょう。
その後、私達は牢屋へ向かいました。
「み、ミラ! 私は唆されたんだ、ゆ、許してくれ!」
どの口が言うのでしょう。
だから私はこう告げました。
「良いでしょう、私を騙った娘と、貴方が血縁関係でなければ平民落ちで許しましょう」
温情もいいところです。
星詩の乙女をないがしろにするのは、騙るのは処刑ものですから。
しかし、父の顔は真っ青。
でも、わずかな望みをかけるように言いました。
「わ、分かった!」
「では、殿下」
「ああ」
三人の血を採取し、繋がりを調べる魔導具で調べられました。
結果は──
血縁関係、無し。
「良かったですね、お父様、血縁関係は無し、だそうですよ。ですが、貴方との縁はここまで、これからは平民として生きてくださいね」
父は何度も頷いた。
「話が違うじゃない! まって私は悪くないわ!」
「いや、いやよ! 死にたくない!」
後日、後妻と義妹──いえ、私を騙ったは公開処刑されました。
星詩の乙女にしたことの罪と、騙った罪で。
平民落ちになり助かったと思われる父は、私にしたことを王宮が告知した為、外に出ると石を投げられたりする為、王都から逃げようとして野党に殺されたそうです。
「早く結婚したいな」
穏やかな日常が戻り、ファリア様と竜の間で語ります。
『ファリアよ、お前は乙女を幸せにするのだぞ』
「ええ、勿論!」
私達は手を握り合います。
「「星詩の竜の前で誓います、終わりの日が来るまで愛し合うことを、誠実であることを」」
そう言って微笑み合いました。
ファリア様、有り難う、愛しています。
因果応報、復讐物です。
復讐といっても自分の手は汚さないものですが。
父親は母親の家を乗っ取る目的で結婚したので星詩とかどうでも良かったのです、愚かしいですね。
ちなみにそんな父親の実家は貴族の位を下げられました、そんな男を出した家とした。
星詩がどんな意味か秘匿にされていたからできたミラの復讐でした。
ファリアは王族だったから星詩をちょこっとだけ聞けましたが直ぐに自室に戻されていたので全部聞いたのは星詩の儀が初めてだったりします。
父親は王族ではないので星詩の儀には参加していません。
王族と星詩の乙女と星詩の竜だけが聞ける歌なのです。
雰囲気的にはアルトネリコという結構昔のゲームの曲をイメージしています。
この後、二人はちゃんと結婚し、ファリアは婿入りし、子宝に恵まれますが、長女にだけ星詩をミラは引き継ぎます。
長女は成長後真面目な男性を婿入りさせます。
こうして末永く星詩を引き継いでいくのです。
久々の短編ですが、読んでくださりありがとうございます。
うれしい限りです!




