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今日のお茶会は、ブリギット聖国公式の大イベント。
この国一番のハーブガーデンで、ブッフェ形式の大聖堂主催お茶会が開かれている。
柔らかい午後の日差しが銀のティーカップを煌めかせ、色とりどりの香しいお菓子が花のように並ぶ。
「ふふ、素敵なお菓子とハーブティーがいっぱいで目移りしちゃいますわっ」
赤い瞳をきらきら輝かせ、イェルローズ様は身を乗り出す。
「ほら、クレオメ!ローズのバッテンバーグケーキとカモミールのショートブレッドをとってちょうだい!あとは~…あら?」
あれこれ侍女の私にお菓子をとらせていたイェルローズの言葉が突然とまる。
「とっても素敵な騎士様だわ……っ」
ぽっと赤く染まる頬。視線の先には、銀髪が柔らかく光を反射し、透き通る碧の瞳をたたえた――見目麗しい聖騎士、ユーリシア。
(……あれ?もしかして、難攻不落のユーリシア様……?)
眉目秀麗、冷静沈着で表情一切かわらず。
どのユーザーも攻略できず、難易度不明の攻略キャラ――攻略不可説もある人物だ。
そのためか、あのキャラとは特に何の因縁もなかったはずだが・・・。
「……わたくし、あの方にご挨拶してきますわっ!」
「お、お嬢様!?」
胸の熱量を抑えられない猪突猛進系イェルローズ。
すでに両手がお茶菓子でふさがっている私、出遅れたことを悟る。
そして事件が起きた。
護衛待機中のユーリシアに近づこうとしたイェルローズ、ヒールのかかとが石畳の段差に引っかかり――
「きゃあっ!?」
「お、お嬢様!?」
(……はい、出ました、自滅令嬢定番イベント!)
トレイを置き、咄嗟に駆け寄ろうとした私。
しかし次の瞬間――ユーリシアが素早く間に入り、片手でイェルローズを抱きとめた。
「……ここから先は聖堂関係者のみの立ち入りが許可されている」
静かで冷静、だが確かな騎士の凛々しさを備えた行動。
うん、決まったセリフしかいわない感じがまさにユーリシアって感じだ。
「ご、ごめんなさい……わ、わたくし……!」
イェルローズは身体を小さく震わせる。
ユーリシアは静かに地面に下ろし、手をそっと離す。
「ご令嬢、着席を」
静かながらも凛々しさを感じさせる声。
私に監督責任を問うかのような視線を向けた。
ぽーっとのぼせているイェルローズを引き取り、お茶の席を用意する。
「お嬢様、ハーブティーをご用意しました」
今日はリンデンとカモミールのブレンドにはちみつをいれた。
ティーカップを手に取り、そっと口に運ぶイェルローズ。
しかし視線はもはやユーリシアから離れない。
「お嬢様、少し落ち着いてください」
「……でも……!わたくしを抱きしめる腕!この胸の高鳴りこそ恋では?!」
「いいえ、お嬢様。それは『尊い』という感情です」
「と、尊い……?」
「えぇ。推しの言動に感じる特別な感情。エモい、という表現もございます」
「え、えも……?でも!わたくし、あの方のことしかもう考えられないのですわっ?!」
「お嬢様、それは『沼』でございます」
「ぬ、沼……?!」
「推しにハマりすぎて抜け出せない状態のことです」
さすがに推し活でとおすのは厳しい・・・?
だけどやるしかないのよ、クレメオ!!
「わ、わたくしのこの感情を表現できるということは……?」
「えぇ、恋ではなく推し活の延長でございます」
「わたくしだけがあの人を知っていたいという感情も……?!」
「同担拒否、ですね。同じ推しを応援する人を否定する派閥です」
「で、ではこれも恋ではないの……?これまでで一番特別な感情ですのよっ?!」
「最推しが見つかったのです。おめでとうございます、お嬢様」
む、無理がありすぎるか・・・?
そわそわしながらイェルローズを見守る私。
「……最推し……尊い……」
「さすがお嬢様。推し活を理解し、実践するスピードが素晴らしいです。」
「そうかしら?!ふふっ、わたくし、推し活を極めますわっ!!!」
い、いけたーーーー?!?!
推し活理論が万能すぎるんだが・・・?
「もう、わたくし、ユーリシア様なしでは生きられませんわ…っ!!」
そう言いながら、キラキラした瞳でユーリシアを追うイェルローズ。
ほっとしたような、もやっとしたような――この感情に名前をつけられない私なのであった。
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