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さてやってきました二回目の自滅フラグイベントお茶会。
「クレオメッ!ヘレニウム様がわたくしに微笑んでくださいましたわっ!!」
イェルローズが今日も赤い瞳をきらきらさせ、巻いてないのになぜかゆるやかなロールをえがくツインテールをぶんぶん振り回す。
はい、きました。第二の自滅イベント。
ヘレニウム様は長い睫毛にオレンジがかった髪、しなやかに舞うような仕草がお似合いだ。
子爵令嬢でありながら、王国の社交界を魅了する麗人。
社会的地位があまり高くないからこそ誰に対しても愛想のよい振る舞い。
だがイェルローズは勘違いする。
「自分にだけ特別に笑ってくれた!」→「愛されている!」→「他の令嬢を敵視!」
――はい、自滅コース。
ちなみにヘレニウムとの自滅イベントは、ヘレニウムの親友に嫉妬し、彼女を「身分不相応」などと公衆の面前で辱めたことだ。
階級だけは高いイェルローズのせいで親友は社交界を去る羽目になったのだ。
そのため、誰にでも愛想よく振る舞うヘレニウムだが、イェルローズにだけは冷ややかな態度になる。。
うん、誰も幸せになれない原作ルートは絶対阻止しないと。
「お嬢様、まずは冷たいハーブティーをどうぞ」
私は、オレンジピールとペパーミントのブレンドを差し出す。
イェルローズはキラキラギラギラした瞳をヘレニウム様に向けながら一気に飲み干す。
これをのめば興奮した気持ちもしずまり、心が少しは穏やかになるはず。
レモンバーベナのフィナンシェをもぐもぐしはじめるイェルローズ。
うん、落ち着いてきたようだ。
「お嬢様、ヘレニウム様の微笑みは――ファンサービスです」
「ふぁ、ふぁんさー・・・びす?」
「ええ。舞台上の役者が観客に手を振るようなもの。あの笑みは“全員”に等しく注がれているのです」
「な、なんですって?!でもわたくしだけをみてくださってましたわっ!!」
リボンがついたツインロールが震える。
「はい。ですからお嬢様がいただいた三秒間の視線は――最前列のファンサのようなものです」
「ファ、ファンサぁ~~~っ!?」
赤い瞳に涙を浮かべ、イェルローズは足をばたばたさせた。
(はい、癇癪モード入りました)
会場の片隅で、ヘレニウム様が困ったように眉をひそめる姿が見えた。
(あ、これってすでに“執着令嬢”扱いされはじめている……?)
私が覚醒して数日では大きくストーリは変わらず、イェルローズは自滅街道をまっすぐ進んでいる感はある。
だが私は決めている。
――この愛すべき自滅お嬢様を、なんとしてでも守ってみせるのよ。
「でもっ!このわたくしが他の有象無象と同じなんておかしいのではなくって……!?」
(はいはい、マウントですね。かわいいですね。)
「お嬢様、それは“愛”ではなく“推し”への激重感情です」
「……またその話!わたくしはこんなに胸を高鳴らせているのにっ!」
「よくみてください。ほら、他の令嬢も頬を赤く染めてます。ヘレニウム様が等しく行っているファンサービスだからです」
イェルローズ様は赤い瞳を丸くして震えていた。
「ファンサービス……」
「その通りです。勘違いして『わたくしへの愛ですわ!』と叫べば、社交界中に恥をさらすことになります」
「そ、そんな勘違いなどしておりませんわっ……!」
イェルローズ様はぐっと唇を噛んだ。
その姿は、我が主ながら尊すぎる。
「そうですね、お嬢様は恋などと勘違いされてません。賢く可愛いお嬢様なら、その感情は推し活とすでにおわかりのはず。」
彼女はハッとしたようにすぐに立ち直り、扇を顔の前に掲げた。
「……そ、そうですわ!ヘレニウム様は“推し”という存在。わたくしの心を燃やすのは愛など恋などではない……くっ!」
「はい、お嬢様のいまのお気持ちは推し活で爆上がりしたテンションです。マナーを守った推し活、さすがでございます。」
「ふん……推し活、悪くありませんわ」
そう言いつつも、恥ずかしさで耳まで赤くしているのは見逃さない。
やっぱりイェルローズ様は可愛い。尊い。
……いやいや、私は侍女!執着令嬢への推し活じゃない!これは任務だから!
転生侍女クレオメの“自滅フラグ折り計画”、まだまだ続くのだった。
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