表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

第八章

──この空を、誰が守るのか。

橙の小隊がF6Fと初めて交戦し、性能差を痛感したのはつい数週間前のことだった。

しかし、技術陣と整備兵たちの努力が結実し、ついに烈風試作一号機が南方へ届けられる。

次の一撃は、負けられない。

“旧時代の限界”と、“新時代の空”が、フィリピン上空で交錯する──。

 1942年12月。

 フィリピン・ミンダナオ、島西部、バリクパパン前線基地。


 夜明け前、1機の試作機が南方輸送船から静かに降ろされた。


「烈風一一試作一号機、整備確認完了。各部数値、問題なし。……輸送中の振動、最小限」


 整備班の声が響く。


「やっと来たか。ずっと待ってたぞ、あんたのことをな」


 橙小隊隊長・桐原少佐は、機体にそっと手を置いた。

 塗装は灰緑。垂直尾翼には“試”の一文字。だが、それを見た全員が直感していた──これは、空を変える機体だと。


 


 ***


 


 烈風初出撃は、その翌朝に決まった。


「今回、烈風一号機は直掩ちょくえん任務。橙小隊とともに出撃し、F6Fとの交戦が予想される」


「機体は新型、だがパイロットは……?」


 皆の目が向いたのは、一人の青年だった。


「志波中尉。烈風専属テストパイロットとして、名古屋から派遣されました」


 若いが、落ち着いた眼差し。

 橙隊のベテランたちも、彼の動きに一目置く。


「烈風は、空戦機動に向いていない。火力と速度で“一撃離脱”が基本です」


「機体の限界より、パイロットが先に限界を迎える構造です。だから、私が乗る」


 そう言った志波の言葉に、皆はうなずいた。


 


 ***


 


 出撃当日、編隊は高度7,000メートルにてF6F編隊と遭遇。


「敵、三機。こちら四。烈風一号、先行して右から回り込みます」


 烈風が雲間を切って飛び出す。機首下の20ミリ機関砲が閃き、F6Fの左翼を瞬時に貫いた。


「敵機、爆散! ……速すぎる」


 橙二番機が呟く。烈風はすでに次のF6Fに追いつき、連射──撃破。


「旋回しない。追うだけで仕留めるのか、あの機体は……!」


 だが、F6Fも黙ってはいなかった。3機目が反転し、烈風に機銃を浴びせかける。


「志波中尉、右へ抜けろ! 被弾してる!」


 烈風は一度左へ逸れるも、再び速度に物を言わせて突っ込み、敵機の尾翼を吹き飛ばした。


「撃墜確認。烈風、帰還ルートへ移行。こちら橙隊、損失なし」


 空戦、わずか3分。

 初陣にして烈風は敵3撃墜、無傷帰還という戦果を上げた。


 


 ***


 


 帰還後、整備兵たちは烈風を囲み、静かに見つめていた。


「冷却系、異常なし。オイル流量、安定。構造は複雑だが……こいつは、“扱える”」


 橙の整備班がそう言った時、山下衛が基地に到着した。


「ありがとう。君たちがこの機体を“実機”にしてくれた。これでようやく……橙が継いだ空を、次の時代に渡せる」


 整備兵たちはただ、うなずいた。


 


 ***


 


 一方、太平洋を越えたハワイ・米軍航空本部。


「新型戦闘機、“Reppu”。日本の烈風と呼ばれる機体。F6Fを速度と火力で上回る可能性あり」


「……なら、我々は次を送る」


 机の上に、一枚の写真が置かれた。


 スリムな胴体。引き締まったキャノピー。マスタングの名で呼ばれる、P-51Dの影が、すでに海の向こうに迫っていた。


 


 ***


 


 橙の空は、もう“旧式”のものではなかった。

 烈風がその使命を継ぎ、整備兵がその命を預かり、パイロットが空を切り裂く。


 ──そして、次の戦いが始まる。


 それは、P-51との激突。

 最速と最強、技術と覚悟が交錯する、新たな空の戦場だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
P51は陸軍機、海軍でF6Fに代わる機体F4Uコルセア
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ