表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
烈風の系譜〜Orange Wingの次代の風〜  作者: 仲村千夏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/18

第十一章

──島を取られれば、空が奪われる。

1943年夏。連合軍はマリアナ諸島を目指し、本格的な反攻作戦を開始した。

サイパン、テニアン、グアム──それらは単なる島ではなく、空を支配する足場だった。

烈風隊は防空任務に就き、烈風改二型がついに部隊配備される。

だがその先には、空を変える存在──B-29スーパーフォートレスの影が待っていた。

 1943年6月、サイパン島・北部臨時飛行場。


 コンクリートの滑走路を踏みしめ、烈風改二型が整備士の手によって整えられていた。


「排気系再設計で冷却効率15%向上。空戦時の出力持続時間、3分延長」


「Ha-43改二、安定してきたな……。このまま本格投入が見込める」


 山下衛技術中佐がうなずく。


「この島を守れなければ、日本本土の空はない。つまり、ここが“最後の予行演習”だ」


 烈風隊に与えられた任務は、昼夜連続での制空・直掩・迎撃。


 橙の垂直尾翼が、夕焼けの滑走路に映えていた。


 


 ***


 


 初の大規模交戦は6月18日。

 サイパン上空、高度9,000メートル。


「敵機、編隊接近中。……F6F、12機。援護にP-51が混じっている」


「烈風隊、全機発進! 敵主力の接近を阻止せよ!」


 激しい空戦が幕を開けた。


「被弾一、撃墜一! 橙三、脱出します!」


「橙一より、烈風改二の加速良好。追いつける、撃てるぞ!」


 高速化された烈風は、初めてP-51と正面からの空戦で互角以上の性能を発揮し始めていた。


「P-51、2機撃墜確認! こちら損失なし!」


 戦況は五分。烈風の整備と改修が、ようやく「速度の壁」を超えつつあった。


 


 ***


 


 そして──数日後。


「敵爆撃機群、南西方向より接近。……この反応、既知の機種と一致せず」


 レーダー要員が困惑する。


 その頃、空の遥か向こう。

 烈風哨戒中の志波中尉が、低い声で呟いた。


「……なんだ、この影は」


 遥か上空、高度10,000メートル超。


 巨大な銀の胴体。4発のエンジンが不気味なほど静かに回っている。

 これまでのB-17やB-24とは、明らかに別物だった。


「B……29?」


 “空飛ぶ要塞”──それは、烈風すら初見の存在だった。


 


 ***


 


「目視確認、敵機複数……5機編隊。大きい。上から行く!」


 烈風3機が上昇。最大出力で一気に高度を合わせる。


 だが──


「高度が……足りない!」


 B-29は、烈風の限界上昇高度よりもなお高い位置を悠々と飛んでいた。


「まさか、あんな巨体がこんなに……!」


 爆撃が始まる。


 無音の中、爆弾がゆっくりと落下し、サイパン北部が火に包まれる。


 誰も、止められなかった。


 


 ***


 


 烈風隊は緊急会議を開いた。


「正直、烈風改二でもB-29に届かない」


「エンジン限界ではない。空力と機体構造が……“高空戦”に対応していない」


 沈黙が流れる中、山下は言った。


「それでも、俺たちは諦めない。エンジンを絞るな、空を変える整備をするんだ」


 


 ***


 


 サイパンの夜、整備兵たちは工具を握りしめた。


「空冷で高空を飛ばせる方法はないか?」


「カウルを絞って、高速時の空気流量を稼げないか?」


 皆、黙々と働く。


「奴らに“空の絶対高度”を渡すな。俺たちが烈風を飛ばす限り、この空は誰にも渡さねえ」


 信念が、空を支えていた。


 


 ***


 


 一方、米軍グアム航空基地。


「烈風がP-51と互角に戦い始めている。奴らはエンジンと整備で追いついてきている」


「だが、B-29を落とせる手段はまだない。制空権は、こちらに傾きつつある」


 戦局の鍵が、“空の高み”に移ろうとしていた。


 


 ***


 


 1943年、マリアナ上空。

 烈風は燃えながら飛んだ。

 空を突き破ろうとした。

 届かない、だが届かせようとした。


 空の支配とは、機体の性能ではない。意志だ。

 烈風の意思が、次の戦いへと繋がっていく──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ