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烈風の系譜〜Orange Wingの次代の風〜  作者: 仲村千夏


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第十章

──空には夜がある。

烈風が昼の空を支配し始めた一方、連合軍は作戦時間を“夜”へと移行させてきた。

月なき夜空を、音もなく迫る爆撃機。

迎撃するのは、昼間設計の戦闘機・烈風。

見えない敵、過熱するエンジン、限界の航法──

すべてが不利な中、それでも守らなければならない空があった。

 1943年4月、マニラ北東、パンパンガ臨時飛行場。


 烈風隊に、新たな任務が下された。


「夜間爆撃、連日の強行により、迎撃任務を交代制で実施する。第二〇三空、烈風隊、第一波担当」


 桐原少佐は言った。


「正直、烈風は夜間戦闘向きじゃない。暗視装備なし、レーダー誘導なし。だが、やるしかない」


 パイロットたちが無言で頷く。

 不安はある。だが、それ以上に、自分たちが出なければ“誰も出られない”という現実があった。


 


 ***


 


 夜間飛行訓練は、過酷だった。


「視界、ゼロ。位置感覚、すぐに狂う」


「排気炎が計器に映り込む。速度が分からん」


 整備班も対応に追われた。


「排気炎抑制装置、仮設計で装着完了。ただし耐熱時間20分が限界」


「航法灯は遮光フィルムで調整。発見されにくくする」


 整備兵たちは、機体一つひとつに夜戦仕様の細工を施した。

 それは、昼間用の戦闘機を夜間戦闘機へ“変身”させる手術だった。


 


 ***


 


 4月18日深夜。

 烈風三機がパンパンガ基地を離陸。高度5,000メートルでマニラ方面へ進出。


「空は静かすぎる……何も見えん」


 志波中尉が計器をにらむ。


「敵、12時方向、高度やや下。点滅光確認。B-24か?」


 微光の中、機体の影が浮かんだ。


「全機、攻撃態勢──行くぞ!」


 烈風が加速する。暗闇に溶けるように近づき、一機が射程に入る。


 だが──


「排気炎、閃光っ──!」


 エンジン後方の熱が機体を照らし、烈風の位置が露見。


 直後、B-24の機銃が火を噴いた。


「被弾──! 胴体右側、裂けた!」


 志波機が反転、急降下して逃れる。


「このままじゃ、撃たれるだけだ!」


 その時、桐原の声が無線に響いた。


「全機、消灯して垂直降下。夜の中に沈め。奴らが見えなければ、撃てない」


 高度3,000へ一気に降下。烈風の機影が夜空に紛れる。


「よし……上を取れ。俺が上がる」


 桐原の機がB-24の編隊に背後から突入。


 20ミリ機関砲が炸裂し、尾部を吹き飛ばす。


「敵機一撃破! これで……夜も、奪い返せる!」


 戦果1、損傷2。厳しい戦いだったが、生還率は高かった。


 


 ***


 


 基地では、明け方まで整備が続いた。


「右胴体、機銃痕多数。機体構造ギリギリだな」


「冷却系は無事。だけど……次、持つかどうかは分からん」


 整備長はうなずいた。


「……だったら、俺たちが持たせてやる。どんな夜だろうと、飛ばせるようにしてやる」


 誰もが、ただ前だけを見ていた。

 “夜”すらも、この空を守る者たちには敵ではなかった。


 


 ***


 


 その頃、米軍司令部では新たな命令が下されていた。


「日本の新型機は、夜間も飛行可能。次の段階は、昼夜連続作戦」


「そのためには……制空権を完全に奪う」


 マスタングP-51Dに続く新型機、そして新型爆撃機がすでに編成中だった。


 


 ***


 


 烈風は夜を裂いた。

 光のない空を、闇を超えて飛んだ。


 だが、その先に待つのはさらに深い闇と、強大な嵐。

 空を継ぐ者たちは、止まることを許されない。

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― 新着の感想 ―
現実の太平洋方面はマッカーサーとニミッツに指揮権が分離されていたけど、この世界では欧州のように一元化されているのかな?
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