無重力ラーメンと歌姫戦争
宇宙に平穏は訪れない。
少なくとも、オルト・ヴィスカの周囲には
……おいフィル。なんでオレたち宇宙空間で漂流してんだ?」
「補給ミスです。タコ中佐が“ラーメン全自動製造機”を補給に優先した結果、燃料がゼロです」
「燃料>ラーメンだろ普通!!」
Z(液体金属)は、無重力の中でひらひら漂いながら淡々と。
「ラーメンは燃料。つまり間違ってない」
「間違ってんだよ!!」
ラーメンだけ積んで燃料切れした配送船《グローム77》は、銀河最前線の宙域で無防備に浮かんでいた。
そんな時、頭上に巨大な影が差す。
そこに現れたのは、サルカ連邦軍が誇る最強のエースパイロット——
“ブラッド・カーネル”
「フン……お前らか。くだらない荷物を爆発させ、笑いを取るだけの雑魚共……」
ブラッドは鋭い爬虫類型宇宙人で、鋭い爪のついた黒い機動スーツに身を包んでいた。
その背中には無数の粒子砲と、謎のスピーカーがついている。
オルトは、嫌な予感しかしなかった。
「なあ……あのエース、背中から爆音流しそうな見た目してないか?」
突如、通信が割り込む。
「みんな〜〜〜〜聞こえる〜〜〜〜!? 銀河No.1アイドル“ミュラノン”だよぉぉぉぉ〜〜〜!!」
画面に映ったのは、光り輝く翼を持つ宇宙人・ミュラノンだった。
彼女は歌で粒子波を操り、戦場で敵味方問わずリズムに乗らせて動きを狂わせるという恐ろしい能力を持つ。
ブラッドは舌打ちした。
「貴様か……銀河最悪の戦場荒らし“ミュラノン”。その歌声で戦況をメチャクチャにしてきた女め……!」
「え!? アイツ敵なの!? 味方じゃなくて!?!?」
ミュラノンが高らかに歌い始める。
「届けえええ〜〜〜このビートォォォ〜〜〜♪」
その歌声と共に、戦場の兵士たちは全員踊りだす。
敵も味方も関係なく、ドローンすらサンバのステップを踏んでいた。
オルトも勝手に体が動く。
「やばい! 足が勝手に! ラーメン持ったまま踊ってるぅぅぅ!!」
フィル(ぬいぐるみ)は相変わらず冷静。
「リズムに乗り切れば、逆に回避性能が上がるそうです」
「何その理論!!」
ブラッド・カーネルはミュラノンの歌に抗うように、自身のスピーカーを最大出力にした。
「銀河は我が覇道のビートォォォーー!!」
重低音のドロップビートが戦場を揺らす。
「いや、完全にDJバトル始まったじゃねぇか!!!」
振動で、オルトの手のラーメンが宙に舞い、汁が敵味方問わず顔面に飛び散った。
ミュラノン「きゃー! 私の羽にスープが!!」
ブラッド「ぐっ、視界が……!!」
ラーメン汁に含まれていた**旨味成分(偶然、敵軍種族にとって猛毒)**がブラッドの機体に直撃。
ブラッド「なっ……ばかな……ラーメンで……おのれ……銀河急便……!!」
そのままブラッドの機体は爆発し、戦場は沈黙した。