戦火とブツ切れ通信
「……だからオレは言ったんだよ、“その宙域通ると戦争に巻き込まれる”って!」
小型輸送船《グローム77》の操縦席で、オルト・ヴィスカは全身に宇宙ポップコーンを浴びながら叫んでいた。
ポップコーンは冷却システムの暴走で発生したもので、どういう原理か香ばしくはあった。
《通信再生中──“オルトへ。もしこのメッセージが届いているなら……”》
「またブツ切れかよ! いいとこで終わるなぁ、もう!」
爆音と共にモニターがショートし、依頼主からの通信はぷつんと途切れた。
遺灰の件についての謝罪メッセージかもしれなかったが、今となっては誰も知る由もない。
「……っていうか、なんで戦艦に囲まれてんの? これただの配送便だぞ? “デリバリー・ウィズ・スマイル”って書いてあるの見えねぇのか!?」
目の前のサルカ連邦の戦艦から、実に物騒なメッセージが届く。
【汝、敵性組織“ラクド・コア”の密輸協力者と見なす。即時投降せよ】
「ラクド・コア? 聞いたことねーよ、誰だよそいつ!?」
【黙れ、裏切り者。ちなみにこれは自動音声です】
「自動音声で脅されてんの!? めちゃくちゃ腹立つわ!」
その瞬間、彼の船のAI——古型のやる気のない支援AI「ピリカ」がしゃべり始めた。
「船長、被弾率98.7%。あと12秒でドカン、ですね。お昼寝モードに移行しますか?」
「するかバカ! 緊急脱出プロトコル起動して! あとポップコーン止めて!」
ピリカはため息のような機械音を立てた(感情はないはずだが)。
数秒後、オルトは船ごと空間ジャンプを強行し、爆発寸前の宙域からギリギリで離脱した。
ジャンプ直後、船は宇宙の辺境、廃棄された宇宙ステーション「ゴミ捨て場13号」に不時着。
衝撃で船体の外装は剥げ落ち、「星間急便」のロゴは「間便」だけになっていた。
オルトは煙の上がる操縦席で、ポップコーンまみれのまま呟いた。
「……マジで今日、労災出んのかな……」
そして、背後のスクリーンにはこう表示されていた。
【新着メール:銀河連合 軍事動員のお知らせ】
【あなたは誤って第93戦線 宇宙傭兵隊“デスドライバー”に登録されました】
【キャンセルはできません。命を大切に】
「いやいやいやいやいや!! 誰だよ勝手にオレの配送アカウント使ったヤツ!!」
こうして、“面倒くさがり宇宙配達員”は、
勝手に宇宙戦争に登録され、勝手に前線へ送られる羽目になった。
しかもその傭兵部隊、
全員クセが強すぎるメンツしかいなかったのである——