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7/7

07/n 合コン女王ではありませんっ!

顔合わせから2週間経ち、初回の番組放送日が近づいていた。


第4回ローズorルーズのプリンス役が登録者100万人超えの「ミナト・アンブレイク」であることがSNSで告知され、悲喜こもごも大騒ぎになっていた。


[マジでマジでマジ?! プリンスやるとかマ?!]

[ミナトはみんなの王子じゃん! 番組でも恋人やってほしくない;;]

[プリンス限定の恋人シチュボイス待ってます!!]

[すでに超人気なのに、今さら名前売るような番組に出る必要あるの?]

[リアルな恋バナ聞けたらありがたすぎて死んじゃうかも~]



好意的な意見、否定的な意見、さまざまな中にチラホラとノゾミのことが書かれている。


[新人Vがこの番組でデビューってまるでミナト狙いじゃん]

[プリンスミナトの前で、デビューじゃ霞むw かわいそすぎw]

[どんな子か全然わかんないけど、初回落ちしたらどうすんの? デビュー即日消えるってこと?w]



肯定的ではないコメントもあるが、まるで自分のことではないような距離を感じながら不思議な感覚で希はコメントを眺めていた。



「橋本さん、何読んでるの?」

お昼休憩で社食のカフェに座ってサンドイッチ片手にスマホを眺める希に、コンビニの袋を持った築地が声をかけた。


「あ、築地さんもお昼ですか?」

「うん、仕事しながら自席で食べようかなって」

「いそがしかったら、手伝わせてください!」

「ありがと。今日はミーティング続いてるだけだから大丈夫。それより⋯

 ⋯ロズルズのコメント見てたのかなって気になったんだけど⋯大丈夫そう?」


希が机にそのまま置いたスマホの画面が見えたのか、築地が少し心配そうに尋ねる。


「あ、コメント見てたんですけど⋯でも⋯なんか実感がないっていうか⋯

 自分の話されてる感じはしなくて⋯正直あんまり内容入ってこないです。

 盛り上がっててよかったなぁとか、そんな気分です」

希は笑って返した。


コメントを気にしすぎるのはよくない、というのはマネージャーやライバーにとって共通認識だ。中には悪意を持って言葉の刃を向けてくる人もいる。行き過ぎれば法的措置など会社としてライバーを守る手段もあるが、感想の範疇を出ないネガティブなコメントを気にしすぎるのは辛い。




「それより、今日は()()、よろしくお願いします!」

意気込みが伝わるように気張りつつも、周りを気にして少し声を落とした希は、築地を見上げた。



ノゾミとして、顔合わせでZOOMという場で人前に出てみて、希は自分の至らなさをなんとかしたいと思っていた。

自分が知ってるVtuberは、みんなもっとキラキラしている。言い換えれば、個性があって、キャラクターに魅力があって、もっとこの人を知りたい! そう思わせるのだ。


でも突貫工事でVtuberになった自分には、いや、ノゾミには、魅力とか個性とかが圧倒的に足りない、と感じていた。絵は誰が見ても絶対にかわいい、最高のヴィジュアルなのに、中に入ってる自分がポンコツだから、価値を下げてしまってるような気がしていた。


通常の業務を終えた後に、残業時間を使ってVtuberノゾミの特訓を築地としていた。

毎日築地が残業に付き合ってくれるわけではないので、まだ数回程度の特訓だが、「なにもしない方が不安!」なので、希はとにかく動きたかった。


午後18時

終業時刻になり、皆が帰っていく中、自席の下に備え付けられたキャビネットから大きめのPCを取り出す。ノゾミ用のハイエンドノートPCだ。


予約しておいたミーティングルームでノートPCを持っていき設置する。


フェイシャルキャプチャーできるように設定をこなし、画面の中でノゾミと希をリンクさせる。


「あなたの心の停車駅!にならせてください! 新人Vtuberノゾミです!」

希が喋ると、画面の中のノゾミが可愛く笑った。


「おおー」いつの間にかミーティングルームに入っていた築地が、少しわざとらしく拍手をする。


「なんか板についてきたんじゃない? ノゾミちゃん」


何度やっても恥ずかしさが抜けなかったが、さすがに1000回も練習すればとりあえず自己紹介位は言えるようになった。それでもまだ、気恥ずかしさが残っているのか希の頬は赤く染まっているが、幸いなことにノゾミは顔が赤くなるわけでないので「恥ずかしさ」が映ることはない。


「これだけは言えるようになりました⋯あ、今日は、会話の特訓! お願いします!」


番組でどこまで生き残れるかはわからない。

コメントにあったように初回落ちの可能性もある。

とはいえ、少なくとも1回は番組に出るのだ。ノゾミらしく振る舞えるようにしておきたい。

豪華なライバーたちの前で緊張して、ミナトの前で緊張して、番組を壊すようなことはしたくない。


顔合わせで()()()()()ことも要因だったが、

希は、カラーアルクの会社員としてその想いを強くしていた。


学校に通いながら両立しているライバー、配信だけで生活しているように苦労を重ねたライバー、番組やイベントを盛り上げるために何個もアイディアを出しては考えるライバーたち、実現できるとようにサポートするスタッフたち、ときには気落ちすることもあるライバーを励ますマネージャー⋯


まだ数週間ではあるがカラーアルクの会社員として見てきたものに共通するのは「みんな本気だ」ということだ。



私だけが出来ない、恥ずかしい、そんなこと言ってちゃダメだ。

とにかくやり切るんだ、ダメでも良い。おかしくても良い。できることをやろう。

希の中で芽生えた変化は、築地にも伝わっていた。


築地は、希が「会話の特訓」と言いながら渡してきた紙を見る。


「合コンでよくある話題10選?」


希が持ってきたのは、ネットで探したページを印刷したものだった。


番組でミナトとどんな会話をすることになるかは、わからない。

けれど、今までのロズルズを視聴者として見てきた傾向として、デート風のシチュエーションでトークしたり、恋愛をイメージさせるような会話をするようなイベントが番組で発生するのは確実だ。


現実の生活でもたいした恋愛経験がない希にとっては、恋愛に関する話はネットで拾ってくるしかないのだ。



「名前の呼び方を決める、好きなお酒の話、トレンドの話題、休日の話題、NGな話題⋯」

築地が紙をめくりながら、読み上げていく。


「今日はこういう話題で詰まったりしないように、特訓したいんです!」

希が意気込む。


「橋本さんは合コンしたことあるの?」

「ないです!」

「⋯そうかなと思った」


なぜそう思われたのが気になる希ではあったが、時間がそんなにあるわけではない。

とにかく今は特訓を進めなければいけない。



「築地さんをミナトさんってことにして、ロズルズによく出てくる二人で会話してる雰囲気でお話してみたいです!」


希は、ノゾミの画面のRECボタンを押す。

ノゾミらしく見えるか、あとでレコーディングした画面と声を聞きながら一人反省会をする用だ。


築地さんなぜか笑いを隠すように口元を覆っている。


「築地さん! 笑ってないで、さぁやりますよ!」




希と築地の2人だけの合コントーク特訓は、そのあと2時間も続いたのだった。



_____

木曜か金曜はどちらかだけ更新になるかもしれないです。

基本的に平日は更新したいのでフォローやスタンプもらえたら、すごく嬉しいです!

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