02/n さすがの大企業で安心です!
有名な繁華街でもありオフィス街でもある街、六本木。
その中心に位置する 六本木ミッドタワー。
60階まであるミッドタワーの中には、名の知れた企業が複数入っており、その30階~35階にカラーアルク株式会社は本社を構えている。
面接で2度ほど訪れたが、希の普段の生活ではこんな大きなビルに来ることもないため、気後れしてしまう。
「⋯ってダメダメ、これからはこれが”日常”になるんだから!」
拳を作って気合を入れ、エレベーターに乗って、会社受付へ向かう。
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人事から入社説明を受け、カードキーや支給パソコンを受け取る。
「わたし、本当にカラーアルクで働くんだ⋯」
嬉しさに胸がジンと熱くなる。
「まだ実力も経験もない私を正社員として雇ってくれたこの会社に、何があっても全力で尽くす!」
雇ってもらえた喜びを噛み締めながら配属先へ向かう希は、[Vtuber事業部]の扉を開ける。
扉を開けると、待ってました!というように見覚えのある顔がこちらに向けられた。
「橋本さん! 覚えてる? 面接を担当した築地です!」
「もちろんです! 改めて、本日より入社した橋本希です! よろしくお願いいたします!」
築地さんとは二次面接で一度会っている。
爽やかなオーラと白いシャツ、笑顔を絶やさないその顔が、初日の緊張を解してくれる。
「面接で1度お会いしただけなのに、覚えててくださって嬉しいです!」
「橋本さんを面接してた頃ってさ、たくさん応募があって、毎日のように面接があって。ただ、なかなか印象に残る人がいなかったんだよ。その中で橋本さんはインパクトあったからね。
『私を雇ってくれたら一生御社に尽くします! 何でもします! 損はさせません!』って、まるでプロポーズみたいだったよね」
希の口調を真似して、少し声を高くした築地が面白そうに喋る。
(うわー、たしかにそんなこと言ったかもしれない⋯本音ではあるけど⋯)
二次面接まで進めた事自体が、希にとっては奇跡みたいなものだった。しかも憧れの会社で。
熱意を伝えるのに必死で、面接らしくないことを言ってしまったかもしれないと恥ずかしくなる。
「三次面接も無事に通って、うちの部署配属って聞いたときは嬉しかったよ」
爽やかな笑顔で築地に言われると、恥ずかしかった気持ちは消え、自然と希まで笑顔になる。
「この後は、初日向けのオリエンやアカウントの設定があるから、それだけで今日は1日終わっちゃうと思うけど、仕事はゆっくり覚えていけばいいから安心してね」
(さすが大企業はこういうところにも余裕がある!ホワイト~!よかった!)と希が思ったのも、つかの間⋯
「今日の18時にミーティングが入ってるから、忘れないでね」
「え、ミーティング?!ぎ、議事録とかととととりましょうか?! そそそそれともお茶汲みでも!?」
何でもやります!尽くします!と言ったのだ。
何をすれば良いか、どんなことなら役に立てるか必死に考えた頭で返答する。
「え? はははっは、お茶くみなんて僕もしたことないよ。ミーティングって言っても、初日の顔合わせみたいなものだから、肩肘張らなくて大丈夫だよ。」
その日の午後は、資料片手に設定や登録をしていたらあっという間に過ぎてしまった。
気づけば時計は17時50分。
登録したばかりの社内スケジュール表を確認する。
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橋本 希 18時 ミーティング 【ルームC】
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「ちょっと早めに行くのが新人の心構えってものよね」
これから起きる予想外の顔合わせを知らない希は、意気揚々とミーティングルームへ向かうのだった。