第5話 ゲームをつくる。
気づけば一週間が過ぎていた。美咲と彩夏は手芸部の活動もあるため、放課後の空いた時間をやりくりし、暇さえあれば集まってきた――もっとも、その手芸部は普段ほとんど活動しておらず、実質、文化祭前だけ動けばOKという緩さらしい。俺はというと、効果音の録音は割と早めに終わっていたので、その後は二人のサポートに回っていた。
何やら難しそうな部分――プログラムや調整のほとんどは、澪が一手に引き受けてくれていた。どうやら、俺たちがいない時間も、一人でずっと作業を進めてくれていたらしい。そして今、俺たちの作ったゲームは、ついに完成の域に達していた。
タイトル画面は、美咲が描いたカラフルなロゴと、どこか緩んだ感じのマスコットキャラ。まんまるの体に大きな目、なぜか手足は異様に細く、ちょっとゆるキャラ感があり、みんなで「これ……逆に味あるな」と笑い合った。敵キャラも微妙に怖くてかわいい謎の生物で、アイテムは全部カラフルな星やハート。美咲は「かわいくしたつもりだったのに……」と赤面していたが、逆にみんなに大ウケだ。
BGMは彩夏作。軽快なピコピコ音で、タイトル画面はポップ、ステージは疾走感、ボス戦は急に雰囲気が一転して緊張感を出す仕上がり。素人とは思えない完成度に、正直、俺は感心していた。
ゲームの内容はシンプルだが、細部まで丁寧だった。1ステージは草原をテーマに、ジャンプと攻撃を駆使しながら敵を倒し、最後には巨大な目玉モンスターがボスとして待ち受ける。澪は「当たり判定はちゃんと甘めにしてある」と言うが、実際にプレイすると絶妙な難易度だった。
「よーし、私がまずやる!」と彩夏が宣言し、コントローラーを握る。
ステージを進むと、俺が録った「シュッ!」「バシッ!」という効果音が響き、思わず全員が笑い出す。「お兄の声じゃん、これ!」と美咲がツボに入り、澪もめずらしく肩を震わせて笑っていた。
「えっ、これ、結構難しい……」
彩夏が慎重にジャンプを繰り返し、ようやくボスに到達したとき、全員が固唾をのんで見守る。目玉モンスターは不気味に動き、隙を見せるタイミングが短い。
「うわっ、やられた!」
彩夏が悔しそうに声を上げると、澪はノートに真剣な顔でメモを取り、「もう少しボスの動きを調整する」と言った。
数時間後、何度もテストプレイと調整を繰り返し、ついにクリア画面までたどり着く。「おめでとう!クリアだよ!」の表示とともに、カラフルな紙吹雪のエフェクトが舞う。画面に映る主人公キャラを見ながら、美咲が「かわいくしたつもりだったんだけど……やっぱり変かな……」と照れ笑いする。
「いやいや、これが味ってやつだよ!」と彩夏が笑い、澪も「……完成度は十分だと思う」と頷いた。
最後のクレジット画面には、全員の名前と担当役割が載っていた。
一ノ瀬澪:プログラム・設計・企画
藤村彩夏:BGM
相澤美咲:ドット絵・キャラクターデザイン
相澤拓真:効果音・サポート
小さなゲーム。でも、俺たちが手を取り合って作った、確かな作品だった。部屋の空気は達成感に包まれ、全員が自然と笑顔を浮かべていた。
すると澪が、ふと顔を上げて口を開いた。
「……完成したし、このゲームのタイトルを決めましょう」
「えっ、あ、そういえば決めてなかった!」と彩夏が慌てて声を上げる。
「いや、タイトル画面に『つくるぶゲーム』って出てただろ。あれじゃダメなのか?」 俺は思わずツッコんだ。
「えー、それは仮のやつだよ!」と彩夏が笑い、美咲も「ちゃんと決めたいよね……」と小さく頷く。
こうして始まったタイトル会議だったが――案の定、難航した。
「『星空アドベンチャー』とかどう?かわいい感じで!」と彩夏。
「……内容を考えると、もっとシンプルでいい。『目玉討伐記』とか」と澪。
「えー、それだとちょっと怖くない?」と美咲が笑い、
「じゃあ……『カラフル☆ジャンプ』とか?」と提案。
俺は腕を組んで考え込む。「……『つくるぶゲーム』、そのままでも良くないか?逆に覚えやすいし」
「いや、却下!」と全員に即座に突っ込まれ、俺は思わず苦笑いした。
途中、「そういえばさ、主人公の名前って何なの?」と俺がふと聞くと、澪が「……決めてなかった」ときっぱり答え、全員が「えー!」と声を上げた。
「じゃあ、今決めよう!」と彩夏が勢いよく言い出し、
「えっと……『ぴょんた』とか?かわいいじゃん!」と美咲が即興で名付け、場が一気に和む。
「それでいくのかよ!」と俺がツッコミを入れ、澪も小さく笑った。
タイトル会議はその後も続き、「『ぴょんたの大冒険』は?」「長すぎる……」「『ぴょん☆ジャンプ』は?」「うーん……」と、あれこれ意見が飛び交った。
最終的に、みんなの意見をまとめた結果、タイトルは『つくるぶ★大冒険』に決定した。「やっぱりシンプルが一番だね!」と彩夏が笑い、美咲も「星が入ってるとかわいい……」と満足げに頷く。
澪は小さく息をつき、画面をじっと見つめていた。普段は落ち着いた表情のその顔に、目がキラキラと輝いているのが見えた。
「次は、何作る?」
澪がふっと笑ってそう問いかけると、彩夏が元気よく声を上げた。
「次は曲を作ろうよ!」
そんなやりとりの中、次の挑戦が、もうすぐそこに見えてきていた。