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第2話 ご飯をつくる。

 ――さて、俺は今、自分の家のダイニングに座っている。キッチンでは彩夏、美咲、澪が集まって、せっせと料理に取りかかっていた。前回の壺作りから間もないけど、今回は俺の歓迎会ってことで、手作りの料理をふるまってもらう流れになった。正直、俺自身はまだこの輪の中に自然と馴染めてる感じはしない。でも、今日は座って待つのが役目だと決められている。


「拓真くんって、好き嫌いとかある?」

 ふいに彩夏がこっちを振り向いて聞いてきた。

「いや、特に……」

 そう答えながら、俺はキッチンで楽しそうに動く二人の顔をなんとなく眺める。


 つくるぶ――学校の非公式活動グループで、なんでも作ってみるのがテーマ。

 なんと、このグループができたのはつい最近で、今回が第4回目の活動らしい。

 俺は美咲に引きずられる形で加わったばかりだ。美咲自身も、もともと彩夏に手芸部つながりで半ば無理やり誘われたと言っていた。兄妹そろって押しに弱いところは、やっぱり似たもの同士なんだろう。

 ちなみに、このメンバーとは「下の名前で呼び合おう」という流れになっている。彩夏が「兄妹だけ名前呼びなのは変だし、全員統一しよう!」と提案し、澪がすんなり賛同した。もちろん、美咲だけは変わらず「お兄」。俺はこだわりがあるわけじゃなかったが、さすがに最初に呼ぶときは少し戸惑った。


 つくるぶのメンバーは俺を含めて4人。


 藤村彩夏。短めの髪と大きな笑顔、第一印象からして元気すぎるやつ。思い立ったらすぐ行動するタイプで、このグループでは一応リーダー的な立ち位置にいる。


 一ノ瀬澪。黒髪をポニーテールにまとめ、表情は薄い。言葉数は少ないけど、じっと物を見るときの目が印象に残る。


 そして、俺の妹・相澤美咲。

 明るく人懐っこい性格で、誰とでもすぐ打ち解ける。手先が器用で、家でも何かと小物を作っては机の上に並べている。あと、兄妹の仲はかなり良い方だと思う。


 最後に俺、拓真。兄であり新入り。まあ、自分のことはわざわざ説明するほどでもないか。


「パン生地、これでいいの?」

「発酵、足りてる?」

 パン、ハンバーグ、サラダ。この三つを、全員であーだこーだ言いながら作っている。サラダとハンバーグはまあ家庭料理レベルだから、なんとかなる。でもパンは、さすがに難易度が違う。生地の感触とか発酵とか、聞いてるだけでも頭が痛い。


 彩夏は勢いで突っ走り、「なんとかなるでしょ!」と笑ってるが、パン生地がベタついてきたあたりで「あれ?」と額に汗。


 澪は材料の重さをきっちり測り、時間管理を黙々と進めるけど、少しでも想定外のことが起きると手が止まる。


 美咲は兄をチラチラ見つつ、こねたり混ぜたり、手が足りないところをせっせと回って補助している。


 作業が進むうち、ハンバーグはいい焼き色がつき、サラダは彩りよく仕上がった。だが、パンは焼き上がりを割ってみると、生焼けの部分があったり、外側だけやけに硬かったりと、ちょっと残念な感じだ。


「拓真くん、見てるだけでよかったの?」

 澪がふとこちらを見て問いかけてくる。


「いや、お前らが俺に料理ふるまうって言ったんだろ。だから見てろってさ」


 そう答えながら、俺は内心少し笑った。妹はさておき、他のメンバーはみんな女子だ。なんだこれ、漫画か?って自分でツッコミたくなるし、嬉しいような気まずいような、不思議な居心地の悪さがある。でもまあ、こういうふうに何かを作る活動っていうのは、案外いいもんだ。楽しいし、見ていて飽きない。


 盛り付けが終わり、みんなでテーブルを囲む。


「じゃあ、食べよう!いただきます!」

 彩夏が元気よく声を上げ、全員が手を合わせる。


 ハンバーグは肉汁がじゅわっとあふれて悪くない。サラダも新鮮でシャキシャキ。ただ、パンは……やっぱり噛みごたえが強すぎるな。


「どう?拓真くん!」

「ハンバーグとサラダはいい感じだな。パンは……うん、頑張ったのは伝わる」

 俺がそう言うと、三人は顔を見合わせて笑った。


「やっぱパン難しかったねー!」

「……次は発酵時間、もっとちゃんと管理しよう」

「それと温度も!あと、成形のとき空気抜きすぎたかも……」


 それぞれが口々に反省を始める。


「でも、楽しかったね!」と美咲が笑顔を見せ、彩夏が「次はもっと完璧にするから!」とガッツポーズ。


 澪は小さく「……改良の余地あり」とぼそっと呟き、ノートを取り出し始めた。


 俺はハンバーグを口に運びながら、心の中で苦笑した。


 ――ま、これも悪くないな。


 食事が終わると、全員で立ち上がり片付けを始めた。俺が皿を手に取ろうとしたとき、彩夏が笑いながら手を振る。


「ちょっと待ったー!おもてなしはここまで!もうメンバーなんだから、拓真くんもこれからは一緒に働いてもらうよ!」


「そうだよね、お兄!」と美咲が笑顔で頷き、澪も「メンバーなんだから当然」と静かに一言添える。


「……いや、最初からやるつもりだったけどな」

 俺がぼやくと、彩夏が「えー!ノリ悪る!」と笑って、他の二人もくすっと笑う。


 全員で皿を運び、テーブルを拭き、わいわい笑いながら後片付けを進めた。拓真は「皿洗い係に任命!」と彩夏に笑顔で指名され、黙々と洗い役を引き受ける。澪と美咲は布巾で拭き、棚にしまい、キッチンのシンク周りやテーブルも手分けしてきれいにする。最後にゴミをまとめ、美咲が「オッケー!」と笑顔を向けると、みんなが満足そうに頷いた。


 片付けが終わって、みんなが一息ついたころ、

 彩夏がぱっと顔を上げた。

「そうだ! 拓真くんも“つくるぶ”に入ったことだし、自己紹介がてらプロフィール帳を作ろうよ!」と笑顔で言い出した。ろうよ!」と笑顔で言い出した。

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