第16話 キャンプ飯をつくる。
魚拓作業の片づけを終えて、四人が顔を見合わせると、自然と笑みがこぼれた。初めての挑戦をやり切った充実感の中、ふと漂ってくるのはカレーと炊き立てご飯、そして塩焼きの魚の香ばしい匂いだ。
「腹、減ったな……」と拓真がぽつりと漏らすと、調理場から母の声が飛んできた。「カレーとご飯は大体できてるわよ!そっちはうまくいったの?」
母は炊飯とカレーの仕上げを一人で見てくれていて、その間、キャンプ区画では、先に串打ちを終えたバーベキュー用の炭火をいまから起こすところだ。母の声に「うまくできました!あーおなか減ったー!」と彩夏が笑い、美咲も「串焼き、楽しみだね!」と目を輝かせた。
拓真がバーベキューセットの前で炭を慎重に整え、美咲が「焦がさないでね!」と笑いかける。澪は火のそばに寄ってきて「……いい匂い」と小さく呟き、みんなの笑いを誘った。
やがて調理場から「炊けたわよ」の声が響き、ご飯のふわっとした湯気と香りが立ち上る。「お兄、盛り付け手伝って!」と美咲が皿を並べ、澪は「カレー、よそおう」と静かに準備を始めた。彩夏は「もう、全部美味しそうで困る!」とわくわくしながらあちこちを覗き込んでいる。
いよいよ昼ご飯が始まると、みんなで一斉に「いただきます!」。串焼きの塩焼きにかぶりつき、「うっま!」と拓真が笑い、彩夏が「最高!」とガッツポーズ。美咲も「これ、ほんとに釣ったやつ?」と感動し、澪は「焼きたてはおいしい」と頷いていた。
バーベキューの串も焼き上がり、カレーも順調に皿を空けていく。「これ、ジャガイモ完璧じゃない?」と彩夏が盛り上がり、母は「焦がさないようにね」と優しく声をかけつつ、全員の様子を笑顔で見守った。
食後は木陰でのんびり、受付で借りたバドミントンセットで交代ラリー。「拓真!勝負だ!」と彩夏が張り切り、「望むところだ!」と拓真が笑い、「彩夏ちゃん、頑張れー!」と美咲が応援。澪はシャトルを拾い上げ、「……長く続けるのも、楽しい」と小さな笑顔を見せた。
片づけを終えて、みんなで車に向かう。
「私助手席ー!」と彩夏が元気よく声を上げ、笑顔でさっと助手席に飛び乗った。「えっ、おい、早っ……」と拓真は驚きつつも仕方なく後部座席へ回る。
美咲、澪、そして自分が後ろに並び、短期間で気楽になったはずなのに、いつもと違う車ならではの距離感に少しだけ意識してしまう。隣に座る澪の横顔が視界に入るたびに、拓真はこっそり苦笑した。
帰り道の車内は次の計画で盛り上がった。「次、どれからやる?」と彩夏が振り向き、「かき氷?それとも手作りキャンドル?」と美咲が提案する。
「キャンドルか、いいけど材料どうするんだ?」と拓真が聞くと、澪がすっとこちらを向き、「調べておいた。基本のワックスと芯や型も市販で買える。ただそれだけだと面白くない」と即答した。距離の近い澪に真正面から見られ、拓真は一瞬言葉に詰まって「お、おう」と間の抜けた返事をしてしまう。彩夏は「ロボット作りも気になる!でも私たちで動くやつ作れるの?」と笑い、「モーターと簡単な制御なら澪がいれば何とかなるだろ」と拓真が言うと、「……できる範囲なら」と澪は短く返した。
「野菜育てるのって、時間かかるよね?夏のうちに収穫できるのある?」と美咲が疑問を投げ、「ミニトマトとかならいけそう」と彩夏が答える。「草履作りって材料どこで買うんだ?」と拓真が続け、「紙漉きは難しいと思うから、作り甲斐あるかも」と、澪がわずかに興味をにじませた声で言った。
「映画撮影って、脚本とか決めるの大変そうだな……」「新しい料理って、何系?」と車内はわいわい盛り上がり、笑い声に包まれた。「でもまずは、かき氷とラノベにしよう!」と彩夏がまとめ、全員が「賛成!」と笑い合う。
カレンダーを見ながら次回の予定を決め、笑い声が続く楽しい帰り道だった。
彩夏と澪を家まで送り届けた後、拓真たちも帰宅。魚拓に使った魚はしっかり陰干しできる場所に保管され、後片付けを終えると、静かな達成感が胸に残った。