第11話 音楽をつくる。
試験も無事返却され、俺たちは一応「反省会」という名目で再び集まった。場所はもちろん、俺と美咲の家。
「やったー!私、けっこういい点取れた!」と彩夏がテストを掲げ、得意げに笑う。「私も……いつもよりは……!」と美咲も控えめに報告。
「よかったな。俺もまあ、いつもよりはマシだったな」と俺が言えば、「数学は満点」と澪がさらっと告げ、全員が「さすが……!」と目を丸くする。
軽くテストを見直して、「じゃ、もういいよね!曲作りの続きやるわよ!私たちのピザが冷めちゃうわ!」と彩夏が立ち上がって宣言する。
「ちょい待った」と俺が横槍を入れる。「なに?もう勉強は終わったの!」と彩夏が振り向くと、俺は小さく笑って言った。「いや、それはいいんだが…壺、できたぞ」
「あー!そうだったー!」と彩夏が声を上げ、美咲も「忘れてた!」と笑う。澪は目を輝かせ、「見に行こう」と静かに立ち上がった。
わいわいとしゃべりながら、全員でガレージへ移動する。そこには、みんなが作った壺がきれいに並べられていた。ちなみに俺も後でちゃんと作っておいたので、四つ並んでいる。
「これが……私の?」と彩夏がそっと手を伸ばし、「わぁ、ちゃんと形になってる……」と美咲が感激し、澪は真剣な顔でいろんな角度から眺め、「……最高」と小さく呟く。
「二人のは割れないように包むから、帰りに持って帰ってくれ」と俺が声をかけると、「ありがとう、拓真!」と二人が笑顔で礼を言う。
そして今度こそ改めて、彩夏がくるりと振り向き、元気いっぱいに宣言する。「さあ、曲を完成させるぞ!」
「おー!」と美咲が手を挙げ、澪が小さく頷き、俺も思わず笑ってしまった。夏休み、本格的な“つくるぶ”の再開だ。
前回のメロディ作りは、雰囲気程度のふわっとした形ができただけだった。これから本格的に曲を形にしていくことになるのだが、もちろん簡単なことじゃない。
最初は「楽譜に起こしたほうがいいんじゃないか」という話も出た。けれど、五線譜に音符を正確に書き起こすのは、音楽経験のない自分たちには無理があった。
「コード譜なら簡単だよ」「弾ける人はコード名さえわかればいける」そんな流れになり、最終的にはコード譜を作る方向に決まった。
「実は……試験勉強の息抜きに、こっそりスマホのアプリでメロディラインを打ち込んでおいたんだ!」と彩夏が得意げに笑い、画面を見せる。
「おお……すごいじゃん」と俺が驚けば、「メモはこっちにまとめてある」と澪がノートPCを差し出した。画面にはコード進行、メロディラインの修正案、パートごとの注意点が整理されていて、さすがの一言。けれどその横では、彩夏が一冊のノートにあれこれ手書きで書き足していく。「ここはもっと強く!」「この部分、気持ちを込める!」「笑顔で!」丸文字のメモやハートマーク、ベースのラインを書き込む美咲の可愛い文字、拓真の走り書きメモまで混ざり、ノートは完全に寄せ書き状態になっていた。
「うわぁ……こっちのノート、すごいことになってるな」と俺が苦笑すれば、「これも大事!」と彩夏がにっこり笑う。全員で音を合わせ、歌詞とのバランスを確認していく。「ここ、歌詞がはまらない……」「じゃあちょっとメロディを伸ばそう」「Bメロ、少し転調した方が流れがよくなるかも」「カホンはこの部分、もう少し抑えて」細かい調整が何度も繰り返され、気づけば、あっという間に過ぎていった。
途中、スマホで録音しては再生し、みんなで聞き返す。「思ったより単調だな……」「もう少し強弱つけないと」「サビの入りが急すぎる」「ここ、一拍入れた方が歌いやすい?」そんな声が飛び交い、白紙だった部分が少しずつ埋まっていく。
音と声が重なり、やがて部屋には熱気と笑い声があふれていた。繰り返す調整、録音、聞き返し――。こうして俺たちは、曲作りを確かなものにしようとしていた。