カレーパン&ブルードラゴン、クエスト
たかしは部屋でテレビゲームをしていた。いまはまっているのはモンスターを狩ってレベルを上げてくゲーム。昨日いいとこで終わったから、今日は絶対ブルー・ドラゴンを倒すんだ。そう思っていた。ブルードラゴンはレアなアイテムを持っていて、まだ倒した友達はいなかった。
『よし行こう!』と思ったときだった。
「たかしー、ちょっとー」
下からママの声がした。一度目は無視する。
「たかし、たかしー!た・か・し!」
これ以上はやばい。そう思って、たかしは1階のママの所へいった。きっとおつかいだろう。
「なに、ママ。いま忙しいんだけど」
「ちょっとおつかい行ってきてほしいんだけどさ」
「えー。今モンスタークエストやってるんだよ。今日はやっとブルードラゴン倒せるんだよ?」
ママの顔がこわばる。額に青筋がぴくぴく浮き出る。
「あ、そう?いいけど。マザードラゴンに立ち向かう勇気ある?」
ママが龍になっては大変だ。口から時々火を吐く。
「わかったよ!行ってきます。何買えばいいの?」
「カレーパン3つ」
「カレーパン?何でそんなの」
「今日カズオおじさんが来るのよ。あの人カレーパンがないと機嫌悪いからねえ。あ、中島屋のカレーパンね。あそこのじゃないとだめなんだ」
「え、カズオおじさん来るの?わかったよ。行ってくる。中島屋ね。」
「いってらっしゃい。気をつけてね!」
僕は商店街に来ていた。
店のドアを開けて中に入る。
「いらっしゃい」
いつも元気なおばちゃんが笑顔で僕を迎える。
「カレーパン3つください」
「はいよ。カレーパン3つね。ああ、よかったね、今日はこれで最後だわ」
「ほんと?よかったー。カレーパンがないと大変なんだよ。ドラゴンがねー」
「ドラゴン?」
「こっちのはなしさ!」
お金を払って店を出ようとしたとき、男の子が入ってきた。僕と同じぐらいだ。とても耳が大きい男の子だ。
「カレーパンください」
おばちゃんが残念そうに
「あらぁ、もう今日は終わっちゃったんだわぁ」と言った。
男の子は涙目になっていた。
「ほんとうに・・・ないの?おつかい頼まれたんだけど・・・。お父ちゃんここのカレーパンじゃないと納得しないんだよ」
「でもねえ。もうないのよ。ごめんなさいね」
「もしカレーパンがなかったら、きっとよくないことが起こるよ。いきなり台風が来たり雷が来たり、火山が爆発したりするかもしれないよ。それでもいいの?」
おばちゃんはいぶかしがった。何てことをいう子だろう。子供のくせにこんな脅しめいたことをどうして言えるのだろうか。
「あんたどこの子だい。そんなこというもんじゃないよ。明日来ればいいじゃないか。さあ帰んな。今日はもう終わりだよ」
僕はそろりと店を出た。カレーパンを買わなければならないのは僕も同じなのだ。僕のおじさんは普段は優しいが、カレーパンがないと突然虎のように暴れ出すのだ。だからしかたない。あの男の子には悪いけど、早いもの勝ちだから。
僕は家に帰り母にカレーパンを渡した。お駄賃は300円もらった。
僕はさっそく部屋に戻り、ドラゴン狩りを始めた!ふう。
一方、カレーパンを買えなかった男の子は、とぼとぼとしょげながら、駅裏に停めてあるUFOに乗った。
「パパ・・・カレーパン買えなかったの・・・」
男の子はごめんなさいと頭を下げた。
「なぁにぃ?カレーパン買えなかっただと?そんなことがあるか!5年も待ったんだぞ!
地球に滞在できるのは今日だけなのに。今日を逃したら5年は無理じゃないか!どうしてくれるんだ!このグズめ!!」
パパは激昂した。そしてUFO内の物を手当たり次第にひっかき回した。
「あれが楽しみで5年間頑張ってきたのに。明日には火星、明後日には水星に行かなければならない。また過酷な日々だ。こんな小さな楽しみさえ叶わないというのか!?」
なおも激昂するパパ。顔は真っ赤だ。怒りはおさまらない。めくらめっぽうにUFOを操縦し始めた。上がったり下がったりを繰り返し、宇宙空間に出た。そしてミサイルボタンを押しまくり、小惑星やら何やらを破壊し始めた。
「うがぁ!!!!!」
「パパ!落ち着いて!もう機嫌直して!」
男の子は泣きながら父の体にしがみついた。
「うがぁ!!!!!」
やたらに押したステルスレーザーの一つが大気圏を通過して、東京の送電線に直撃した。
すると東京中の電気が一瞬にして消えた。
たかしはゲームの途中だったが、突然の停電でストップした。
「あれ!あ、あーーーー!消えた!!!」
ブルードラゴンはおあずけになった。 おわり