7人目 魔法学園学長
「賢者ダルクよ。この世界から魔法が無くなるまであと猶予はどれくらいだ?」
「そんなかしこまらなくてもいいですから、先生。うーん、1ヶ月弱ってところですねぇ~。」
「そうか、、。」
私の知る限り、最高学府の魔法学園では何十年も前からこの世界で魔法が無くなることは示唆されていた。そしてそのことを多くの魔術師が知っていた。
しかし、当初はその概念はあまりにも突拍子のないことであり、誰もが信じなかった。
そして、それを発表した人物も運が悪かった。その論文自体は一人のドワーフが執筆したものであった。しかし当時はまだ、いや今もあるが亜人に対しての差別が強かったのだ。
そのため論文としては認められたが、どこかジョークを入り混ぜたものだと皆が思っていた。私を除いて。
論文を発表した彼の名は、ドス・ガレと言ったか。そのドワーフの論文は長い年月をかけた、彼自身の最高傑作ともいえるものであった。
私はそれを20代の頃に読み、そうであると思った。そして、この魔法学園の歴史上でもトップクラスの論文であったのは間違えがなかったのだ。学者たちが信じないこと以外は。
まあ、認めたくない気持ちもわからなくはなかった。我々ではどうにでもならない事柄に直面した時、人間の行動が逃避だったというだけなのだ。
そして、そのしわ寄せが我々の子供たち、そして生徒たちの時代まで行ってしまったことを後悔している。
「どれくらい、進んでいる?ポストアポカリプスの世界を生きるすべは」
「あまり、順調とは言えません。着実に各地の情報をまとめています。ですが、情報を集めていて私が思うのは、気持ち次第なんです。人々の。」
「どういうことだ?」
「いやーですね。この国において漁業も農業も、工業でさえすべてのものに魔法を使っています。それでですね。やっぱり、どの産業でもとてつもなく効率が落ちるんです。」
我々の国では、魔法至上主義だった。その影響で魔法なしでは多くの人材を割かないといけいけないものを、魔法による人材の削減で極限まで減らした結果、いわゆる手に職がある人材がどんどん不足していった。
そして今になり、魔法至上主義以前の人々のような生活に戻れと言われたって簡単にできるはずがない。
「その環境になって、人々が手を取り合い、何かを出来るのか。私たちの言葉を信じ、魔法都市の人々が傲慢な性分を捨て、自分の手で道具を握り、作業できるか。彼らは一か月後今の地位の一切を一夜にして失います。それは私もなのです。だけど私は、握ります。握らないといけません。彼らにリーダーシップを示します。それが、賢者ですから。賢者としての責任。背負うものを全ういたしますよ。」
「ああ、、。」
「そのために私が今できることは何でもします。最後の大仕事だってありますしね。未来を変えられないとしても、私たちの生き方を変えることはできますから。」
「ありがとう。私みたいな老体では、そこまでのエネルギーや気力が出なかった。本来は私がやらなくてはならない仕事のすべてをお前に押し付けてしまっている。」
「いえいえ、そのおかげで私は一教師として賢者としての重圧から隠れながら生活することができています。あなたには頭が上がりませんよ。
「そう言ってもらえるとありがたい。」
「報告も、十分にできなくてすみません。ですが記録は、私の魔導書。“箱舟”の内容は貴方の元にも共有されていると思います。分書を以前お渡ししていると思います。」
「ああ貰っている。日々情報が更新されていることは知っている。すまないが内容はすべてを読むことができてはおらんでな。」
「いやいいんです。ポストアポカリプスの時この本は真価を発揮します。それまでは無用の長物ですよ。ではいきますね」
そう言うと、今代の賢者は去った。静かな部屋に、彼が魔法で飛んだ時の空気の圧縮によって舞った埃が、私の席の後ろの窓から差し込む光に当てられダイアモンドダストのように光り輝いている。
この事態が、こんなに急展開で進むとは以前の私は思っていなかった。
この世界の魔法濃度が急激に減少し始めたのは1年前のこと。これの原因は既にわかっている。この世界の近くを彗星が、地表の魔素を全て吸い付くし、天の彼方に奪い去ってしまう。
皆は知らない、そんな悪魔のような彗星が尾の世界に地下ずくのが。その時があと1か月後なんだ。
読んでいただきありがとうございます。
最近インフルエンザが流行っているみたいですね。そう聞くともうこの季節か、と思う私です。
風邪が季語なのはご存じの通りかと思いますが、インフルエンザも季語になりそうですね。文字食う虫ですがw
与太話、失礼いたしました。皆さまご自愛くださいませ。