6人目 アリのモンスターの女王と人間
「聞きましたよ。我々に優しき人間よ。あなたは、1つ聞きたいことがあると私の娘に尋ねたそうですね。その話には私が答えましょう。」
女王。いわゆる私の母だ。そんな彼女が人間と話をすることになるとは夢にも思わなかった。彼女は常に厳格な態度を保ち、そして慈しみの心を持っている。そして、知恵もある。もし、この世界がそうなるとして何かできることがあるのかもと期待を抱く。
「単刀直入に言います。私たちにできることは何もございません。ただただ、緩やかな種の滅亡を選ぶことになると思います。」
僕は脳天を突かれるような、衝撃を受けた。
「いやはや、やはりそうですか。。。」
こっちの特に人間は何とも思っていないらしい。
種族が違うからこそなのだろう。
「それでですがね、僕に提案があるんですよ。」
おもむろに男は口を開く。
「今回のことで、あなた達には僕と同等に会話を出来る能力があると思いました。」
「ええ、それはこちらのですよ人間。」
「あははっ!光栄なことです。女王様。もしよけれはなのですがね。私たちが使う“言葉”と“道具”を使ってみませんか?」
「知らないものだ。」
「ええ、それは当然だと思います。ですが、今からでも使うことはできると思うのです。おそらくですが、あなた達ほどではないにしろ人間も緩やかに衰退していってしまうと思うのです。あなた達と同じ運命をたどる可能性がある。ですから私たち協力をしてこの先生きませんか?」
男は強く言う、僕は衝撃を受けた。この二人の会話を聞いているだけだがドキドキが止まらない。おそらくこの男が話していることは近い将来必ず起こることだ。我々2つの種族の行く先を決定するかのような会話に胸が弾む。
「だから、先にあなた達には私たちと“会話”できる術を覚えてもらいたい。あなた方も会話できるツールがあった方がいいでしょう?」
「ええ、確かにそれに越したことはありません。」
「私なりに、簡単にいたしました。あなた方の会話における匂いは、意識を感情や意味と同義させて使うものですね?同じく、あなた達が思うことや伝えたいことを文字に置き換えます。その文字を我々人間が使っている言葉にさせて頂きます。」
「ええ、それは素晴らしいことだと思いますよ人間。」
「ははは、ありがとうございます。」
「しかし、問題は私たちはいいかもしれない。王たるわたくしの命令に背くアリなんていませんから。ですが、人間もそうじゃないのではありませんか?」
「いえ、そのことは心配なさらず。確かに私の国では王という明確な指標はありません。しかし、“賢者”という魔法を極めたものこそ至高という考えがあります。」
「人間たちは魔法が無くなった後も、賢者に従いますか?」
「いえ、今のままでは従わないでしょう。しかし、そうなった後の生き方の明確な指標になり、実績がともなえば別です。そして、私はそうなるでしょう。そうなるために今各地に回って情報を集めているのですから」
「では、あなたがその賢者だとでもいうのですか?」
「紹介が遅れましたね。私が今代の賢者ダルク・ノアと言います。普段は、魔法学校で教員として働いていますが、そちらの方が何かと都合がいいんです。優秀な部下もいますし。」
「そんな方がわざわざお見えになるとは、わかりました。その日まで、言葉と技術の提供お願いいたします。」
「ええ、それはこちらにとっても。」
僕も目の前ですごい会話が終わった。そんな気がした。
しかし、僕にとってなぜだか種の滅亡が免れそうなことよりも、人間と新しく会話できるようになることの方が強い光を帯びているように感じた。