3人目 学園の女魔術師
「ダルク先生、何をしているんですか。」この目の前に居る、生徒に勝手に話しかけては避けられている変人は名をダルクといいます。髪の毛も適当に切るから冴えない。部屋からほとんど出ないから、服も変えないし、まったくもってオーラもない。身長も高くないわ、眼鏡もダサい。そしておまけに臭い。こんないい加減な男のどこが評価されて、kの学園で先生なんかをやっているかがわからない。
「ああ!トゥレ先生!いい所に!ちょっと質問があるんです!」
既に嫌な予感がする。この男に絡まれて、いいことは本当にない。前だって、燃焼魔法の燃焼速度関数について、条件別のデータを取りプロットを作りたいと言い出し、いきなり火山口や危険地帯に連れていかれることになったり、高濃度魔力内在水源に生息している細菌を採取してきて欲しいとのたうち回り、海溝の水深が深いところまでお使いさせられたりした。無視して通り過ぎようとする。
「あなたは、この世界から魔法が消えるということになったらどうしますか?」
この馬鹿はと頭を抱える。
「そんなはずがあるわけないでしょう!馬鹿を言わないでください。そんなことを考えている時間があるならその時間の間にしっかり服を着替えて、指導者らしくシャキッとしていてください!」
「いや、はや…。」
「そもそも、この学園でそんなことを聞いても意味がないでしょ!なくなるわけがないんだから!そんなこと現実に起きたとしたら、この学園どころかこの都市すべてのライフラインが止まるのよ!死者が多く出ることは想像に難くないわ。」
「いやー、そういわれましても。どうやればそれを回避できるかなと。やれる方法はあるのではないかなって。」
「そんなものなんてない!授業始まってしまいますので。あなたに使う時間はありません。では。」
私は、こんな人と話すためにこの学園に来たわけではないの。そう思いに深け、彼女はあの方のことを思いながらスキップを踏むように上機嫌で歩く。
ああ。私の想うあの方はどこにいるのでしょうか。私があの鬱屈とした村で、たまたま魔法の適性があっただけに一生涯奴隷のように過ごさないといけない運命から救い出してくれた、太陽みたいなあなた様はどこにいるのでしょうか。
この世界では、魔法を使えるものと使えないものの格差が激しい。魔法学園があるような都市では魔法が使えないものは碌な仕事がもらえず、差別の対象になります。
そして、魔法適性のあるものが少ない農村に生まれてしまうと、その村で労働力として期待され自分の人生を自由に生きることができないようにされてしまうこともしばしば。
ですが、あなた様はそのようなかわいそうな救おうと、自由に魔術師を手の足りない農村に派遣するような制度を整えてくれたんです。そのおかげで、私は今この学園でしっかりと先生をやることができております。
貴方様は今どこにいるのでしょうか。何か壮大な魔術の開発にいそしんでおられるのでしょうか、それともこの人類を救う偉大な魔法を造られているのでしょうか。
ああ、いつかのあの日私に手を差し伸べてくれたみたいに、いつかあなた様は白馬に乗って手を私に差し伸べてくれるのでしょうか。私はあなたを思うだけで、心の奥底が疼くのです。
私は早く貴方様の御側に居たいから。そのためだけに今、この学園で魔法が明日無くなったらどうしますか?なんてクソみたいな質問をしてくるクソみたいな先輩上司にこき使われても頑張っています。
こんなやつと早く離れて、あなた様の隣に行けますように。