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2人目 工房のドワーフ

「ああっ?何?魔法が使えなくなったら?んなこと俺りゃには関係ないぜ。」


白い服を着た奇妙な男が、そんな奇妙なことを言って来るんだからもっと奇妙だってもんだ。そもそも、俺らにはほとんど魔法なんてものに頼らず生きていける知恵があるし、そもそも頼らないことを意思して生きてきてんだ。


 ドワーフには、子供の頃から魔法に頼るな。腕が鈍る。人に頼るな。芯がぶれる。という言葉がある。だから、ドワーフのほとんどは自分と向き合う時間が多いし、職人気質のやつが多いんだ。


「いやぁ、はやぁ。ドガ・レスさんはさすがですね。下手な魔法使いたちとは違う。そこまで魔法の神髄を極めし、稀代の魔法使いですのに今は廃坑の近くにこもって、時折取れる微小な鉄をもとにとても素晴らしい工具・農具を造られている。本当に素晴らしい。」


「ふんっ。俺を知っている奴だったか。そんな、こと大昔に捨てたんだ。魔法はいつか消える。」


「ええ、そうです。消えます。」


「だが人類は、その準備ができていない。だろ?今代の“賢者”様は。」


「いやぁ、はや。びっくり。そのことをお知りで。素晴らしい。でも、今回はそんなわかりきった話をしに来たわけじゃないんですよ。魔法が使えなくなったらあなたはどう生きていきますか?ということを聞きに来たのです。」


「何だ。張り合いのねえ奴だ。でもいいぜ、この世界から魔法が無くなろうと無くならまいと、俺の生活は変わらねえ。なんせ、一日中ここにこもって鉄をいじくり、火を焚き、ゴウゴウいうこの工房で作業するだけさ。そこになんの不自由がある。魔法がある方が不自由じゃないか。」


「なるほど、ではその作業工程から何まですべて記録を取らしていただいてもかまわないですかな?」


「ああいいぜ。」


工房の中には、鉄を打つ音が聞こえる。


灼熱の日に包まれオレンジ色に染められ、美しく俺を街角で誘う娼婦化のように頬を赤らめる鉄がある。俺はこれを求めているんだ。この輝きが失われないうちに金槌で打つ。今回は、周りの農村に頼まれた農具の先だ。それを一つ作ってほしいといった依頼であった。


 こういう単純作業をしていると、過去のことを思い出す。俺は、18にもいかないことにはドワーフの町では一番の魔法の才能があった。その反面。何か物を作る才能もなかった。だから、周りの皆が言う魔法に頼るな。腕が鈍る。人に頼るな。芯がぶれる。という言葉をひどく嫌っていた。


 だから、こんな村出て行ってやると言わんばかりに親の財産を持ち逃げし、魔法都市に行き学校に通った。そこの生活は苦しい所もあったがドワーフの性なのか、魔法についてより深く勉強するのが好きであった。かといって、権力には執着がなかった。


 俺は人間より長く生きる。気が付いたら俺の先輩も、同僚も、後輩もみんな気が付いたら寿命で先にくたばっていった。それだけの年月を魔法に費やした答えが今、鉄を打つことだ。


 魔法都市は俺を抱え込んで、何かしらの役職にしたいと考えていたのだろうが、俺はそれを選らばなかった。自分の今まで研究した色々な情報の集積の中で魔法は今後100年以内に消えるという可能性があるということを直感的に感じていたからだ。


 そりゃあ、誰だって希望がないものにすがって生きてくつもりはないだろう。人生紆余曲折あるというが、これが正解だったかもわからない。この世界で魔法を極めるものこそ“賢者”と呼ばれるが、この先その技術が無くなるとしたらとんだ愚者であろう。


 ああ。そんなこと考えていたら、鉄が冷めちまった。ついつい、自分にこいつの姿を投影してしまったからだ。布団でいちゃついているところに、他の女性の名前呼んじまったらそりゃ目の前からいなくなっちまうわな。


 「これでいいか?もう帰ってくれ。」男は大きなメモ帳を閉じて、俺の方を見つめる。「はい、本日はありがとうございました。切りがよかったので。」そういうと、工房から出て音も立てずに消えた。


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