小沼心霊討伐所
20XX年○月△日、俺は遂に独立した。あのクソッタレだけどなんだか憎めない師匠からようやく一人前を言い渡された。今日からこの「子沼心霊討伐所」が俺の新たなサヤだ。ここから俺の快進撃が幕を開けるだろう。
そう思いながら山奥にひっそりとたたずむボロ小屋を満足そうな顔でみていると、後方からなにやら声がする。
ハッ、だのホッ、だの拳法の修行でもしてんのかって声だ。まあ誰だか想像はつくんだがーーーーーーー、
「あすかくん、君のその動体視力はわかったから、その、ほら、宮本武蔵の真似は辞めないか」
俺は振り返った。やはり彼女だった。
「先生、宮本武蔵はハエを箸で掴んだんですよ。私は違う、デコピンで奴らを冥土送りにしてるんです……この違い、なんでまだわかってくれないんですか!そもそもハエっていうのは視力が悪いから…」こんな山奥の僻地には到底似つかわしくないような彫りの深い美女、高陽寺あすか君だ。
「ねえ!先生聞いてるんですか?ハエを…」
まいった、また講釈が始まるぞ…、これが始まると俺までトレーニングさせられるんだ…。
「分かった、分かったから、…兎に角そんなことより大事な事があるだろ?俺達は今日から小沼心霊討伐所だ!」
「俺達は…ってのがなんかグッときますね先生!」
どうやらうまく話を遮れたようだ。ここから、ここからだ…。そうして俺達は小沼心霊討伐所と汚ならしい屋根看板が貼りつけてあるボロ小屋で仕事を始めた。これから起こるであろう数多の事件に胸を焦がれながら…………
そして三ヶ月か経とうとしていた時だ。俺がいつものように事務所でジャスミン茶を楽しんでいると、
「先生!!全然依頼こねーじゃないですか!もう三ヶ月経とうとしてるんですよ!このままじゃ事務所のローンも払えず、野垂れ死にさらしちゃいますよォ!」
焦った様子のワンサイドヘア美人弟子をよそに、俺は心底まだこれからだと思っていた。
「先生、開店したばかりの店って最初は滅茶苦茶流行るもんですよ、これ本当に。」
「何?それが大体三ヶ月くらいってこと?大丈夫だって、ここは流行に乗ったレストランでも遊園地でもないんだから。」
「だといいんですけど…。」
そう、事件は自分でやってくるだろう、必ず、俺達を頼るものが来る。必ず、必ずだ。
そして三日後、小沼心霊討伐所の初仕事が舞い込んだ。