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公爵令嬢フォスティーナ・サモン

 エミリアが学園に入学して数週間が経過した。この頃になるとクラスの中でもある程度グループが出来ていた。


 エミリアが居るクラスは主に高位貴族や成績上位者で構成されている。その中でも一際目を引くのは筆頭公爵家令嬢のフォスティーナ・サモンを中心とした貴族グループだ。


 フォスティーナとは同じ公爵家ではあるもののエミリアはあまり関わりは無い。互いに顔見知りではあるが挨拶を交わす程度の仲だ。


 フォスティーナは特別美人というわけでは無いが亜麻色の長い髪に薄茶の大きく美しい瞳がキリッとしていて、どこか華がある女性だ。人当たりも良いのでクラスの中心人物となっている。


 なのでフォスティーナの周りには自然に人が集まっており、その中には聖女であるサルビアも居た。どうやら二人は入学前から親交があるらしく、仲が良さそうだ。


 エミリアは自分が周りから嫌われていると思っているので、そんなフォスティーナ達へ話し掛ける勇気はなく一人で読書をして過ごしている。


 ある日の放課後、帰りの支度をしているとフォスティーナから突然声を掛けられた。


「エミリア様、少しお時間宜しいでしょうか?」


 驚きつつもフォスティーナに誘導されるまま教室を離れ、人気の少ない裏庭へと辿り着いた。そこに幾つか設置されているベンチの一つへと二人で腰を下ろす。


 何の話をされるのか全く見当も付かないので内心冷や汗をかきながらフォスティーナが口を開くのを待った。


「率直に申し上げますわ……イアン殿下との婚約を辞退して下さいませんか?」

「…………は?」


 唐突な話に思わず素で声が出た。 


「聖女が現れたのに婚約者が貴方のままだなんておかしな話じゃありません? 未来の王妃には聖女のサルビアさんがなるべきですわ」

「あ……はぁ……」


(んー……聖女派とかなのかしら)


 確かに聖女のサルビアが現れてから聖女派なる派閥が出来、サルビアをイアンの婚約者にという訴えが王家にも届いているという話は聞く。


 エミリアも聖女を王太子妃に迎えたいという気持ちは分からなくもないし、もしも王家側がそう望むのなら従うつもりではある。


(そりゃ、イアンと離れるのは寂しいけど……)


 いつの間にかイアンへ好意を寄せてしまっているがきっと今ならまだその気持ちも蓋をする事が出来る筈だ。これ以上好きになってしまう前の今なら……。


「……それが出来れば苦労致しませんわ」

「どういう意味です? 貴方がイアン殿下を縛り付けているんですよね?」

「違います」

「なら何故自ら婚約を辞退されないんですの? 貴方が辞退を申し出ればきっとすぐにサルビアさんとの婚約が決まる筈ですわ」


 フォスティーナはそう言うが、エミリアの事情やこれ迄のイアンとのやり取りを知らないから簡単にそんな風に思えるのだろう。


(人の苦労も知らないくせに)


 心の中でエミリアはゲンナリして呟く。


「そもそも本当なら私が婚約者に選ばれる筈でしたのよ? それが何故貴方なんかが選ばれたんだか……」

「え?」

「あら、ご存知なかったかしら。私とイアン殿下は幼馴染みですのよ。私が生まれた時、互いの両親が私とイアン殿下を婚約させたがっていたんですの」


 そう言えば王妃とサモン公爵夫人は親しいという話はお母様から聞いた事があった。それもあってかイアンがエミリアを婚約者として連れて来たあの茶会の場はかなりざわついていた様な気がする。


「そう、なんですか。それは知りませんでした」

「もし私がイアン殿下の婚約者でしたら、聖女が現れたらすぐにでも婚約を辞退致しますわ。だって聖女は王太子と結ばれる運命ですもの」

「……はぁ」


 ゲーム上はきっとそれが正解なのだろう。だからこそエミリアはこれまでイアンから離れようとして来たのだ。


「まぁ、貴方が婚約者になってしまったのは仕方ないとして。それなら婚約者なら婚約者らしく、もっと聖女を虐めたりしなさいよ! でないと聖女がイアン殿下と結ばれないじゃない!!」

「…………は?」


 フォスティーナの言葉に再び素で声が漏れ出た。なんだか話の内容がおかしい様な気がするのは気のせいだろうか。


「あの、どうして私がサルビアさんを虐めないといけないんですの?」

「王太子の婚約者は聖女を虐めるのがセオリーな事くらいご存知でしょ? 虐められても負けずに頑張る健気な聖女を王太子は好きになっていくのが王道ですわ。私はそんな二人を近くで見守るのが楽しみで入学して来たというのに……」


(もしかして……この人……)


「……ひょっとして貴方、転生者?」


 エミリアの言葉にフォスティーナが目をパチクリさせる。


「そうですけど? エミリア様もそうでしょ?」

「えええっ!?」


 さも当たり前の様に答えるフォスティーナに驚愕する。


(いやいやいや、何普通にアッサリ認めてるの!? てか何で私が転生者だって知ってるの!)


「え、何をそんなに驚いてますの? 考えたら分かるじゃないですか。エミリア様って元々バリバリの縦ロールでしたわよね? それが急にイメチェンするし、

婚約者に選ばれるしで悪役令嬢はエミリア様なんだなって」

「う……」

「しかも攻略対象者らしき人物と片っ端から仲良しになってるし、これは転生者だなーって丸分かりですわよ」

「あはは……」


 ぐうの音も出ない回答にカラ笑いするしかなかった。はたから見たらそんなに分かりやすい行動だったのか……。


「それは良いとして、ちゃんと悪役令嬢の役目やって下さいよ」

「……嫌です」

「何で!? あ、もしかしてイアン殿下ルート目指してるんですか? やめて下さいよー私の楽しみを奪わないで下さい」

「楽しみって……私は悪役令嬢なんてなりたくないんです! だから必死に頑張って来たんだから」

「そんなの困ります。エミリア様にはちゃんとやって貰わなくてはサルビアさんが可哀想じゃないですか」

「……うぅ」


 痛いところを突かれ口籠る。確かにこのまま行けば恐らくサルビアとイアンが結ばれる事はないだろう。もっともイアンが心変わりをしなければの話だが。


「エミリア様が嫌であろうが私がちゃんと悪役令嬢としての役目が果たせる様に手を貸しますから。これまでもエミリア様が他の令嬢から孤立する様に色々手を回して来ましたのよ。上手くいったでしょう?」

「え……」


 エミリアに同性の友人が出来なかったのはフォスティーナのせいだった事に驚いた。


「今後も上手くやってあげますから安心して悪役令嬢になって下さいね」

「嫌よ、やめて。余計な事しないで」

「大丈夫、私に任せておいて下さいね。ふふっ、それでは私は失礼致しますわ。ご機嫌よう」

「ちょっと!」


 エミリアの制止する言葉なんてフォスティーナの耳には届いていない様だ。軽くステップを踏みながら楽しそうに校舎の方へと駆けていく。


「嘘……なんでこんな」


 エミリアは絶望感に打ちひしがれる様に暫くその場から動く事が出来ずに居た。

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