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エミリア 十三歳

 あれから気が付けば季節は随分と巡りまくり、あっという間にエミリアは十三歳に成長していた。五歳だった頃の幼児体型も少し女性らしくなり、自分で言うのも何だが美少女度も相変わらず高いままである。


 気にしていた残りの攻略対象者と、おそらく居る筈のヒロインには出会う事もなく年月は過ぎて来ていた。


 その間にもエミリアの努力虚しくイアンとの婚約は解消も破棄もされる事なく、更にはイアンからの愛情も尽きる事なく注がれ続けている。


 どうやって婚約破棄して貰うか色々考えてはみるものの、イアン側にもエミリア側にも問題らしき問題が見つからない。王太子であるイアンなんて誰から見てもエミリアに夢中なのが明らかなので横槍すら入る余地無し。


(そんなイアンに絆されちゃってるわたくし……ダメですわ、負け負けですわ)


 王都の街中を馬車でゆっくりと通り過ぎながらエミリアは小さく溜息をついた。昨日も王宮での王太子妃教育の後、イアンの部屋でお茶をして来た。


(誰ですの、美人(イケメン)は三日で飽きるとか仰ったのは。何年経っても飽きるどころか眩しさが増しておりますわ!)


 十四歳になったイアンは最近色気が隠しきれなくなって来た。エミリアを見つめる熱い眼差しは向けられるとエミリアの心臓を鷲掴みにするし、唇から漏れ出る優しい言葉や吐息は瞬時に耳と思考を溶かしくてしまう。


 それらを何とか払いのけようと冷たい態度を取ってみたりもしたのだが、イアンには全く役に立たなかった。先日も――


「今日も可愛いね、リア」

「そんなの当たり前ですわ」

「うん、そうだね。リアは世界一可愛くて素敵だから他の男を追い払うのが大変だよ」

「イ、イアンこそ、あちこちのご令嬢のお心を奪われてますものね! いつでも婚約者は変えられましてよ」


 少し言い過ぎたかと思ってイアンの顔色を伺ってると、口元を緩めながらエミリアに抱きついて来た。


「嬉しいな、嫉妬してくれてるの?」


 予想外の反応にエミリアはイアンの身体を押し返そうとしたが、幼い頃と違ってイアンの力は強くなっていてびくともしなかった。


「ち、違いますわ」

「本当に私のリアは可愛いな♡」

「あううぅ……」


 ――なんてやり取りをしたばかりだ。


(普段はまさしく素晴らしい王子様ですのに、わたくしの前でだけIQが下がるのか「可愛い」の安売りになるのは何故なんですの)


 それなのにイアンの事はカッコいいと思ってしまう自分にも、困ったものだと思う。あと二年で学園に入学してしまう。このままだとゲームのシナリオ宜しく悪役令嬢として学園生活を送る事になる……筈。


(相変わらずエドお兄様は悪役令嬢にはならないから大丈夫だとしか仰らないけど……)


「お嬢様、到着しましたよ」


 向かいの座席に座っていたビバリーが率先して馬車を降り、エミリアが降りるのを手伝ってくれた。


 エミリアが今日訪問して来たのは、街外れにある修道院に隣接された教会だ。我がレナード公爵家は慈善事業の一つとして、この修道院に多額の寄付をしている。


 年に数回、定期的に公爵家の人間が修道院の運営の様子を視察に訪れる事になっており、今までは母が行っていた。最近エミリアが少し大人になってきた事もあり、今年からエミリアが任せられる事になったのだ。


 修道院には児童保護施設も併設されており、身寄りのない子供達を引き取り育てている。その為か教会の中からは幼い子供達の声が聞こえて来る。


 エミリアは少し緊張の面持ちで目の前にそびえる赤茶色の建物を見上げた。

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