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イアンの私室にて

「私の部屋にリアが来てくれて嬉しいよ」


 相変わらずニコニコとしたままイアンの眼差しは、とても優しくて甘ったるい。


 お茶の準備を終えたメイドが従者と共にサンルームの隅へと下がると、椅子から立ち上がってエミリアの隣にある椅子へと座り直すイアン。


「え……っと?」

「この方がリアがよく見えるから」

「そっ、そう、ですか」


(何かイアンていつも距離が近いのは気のせい? 婚約者ってこれが普通ですの?)


 こういう世界での婚約は初めてだし、まだ五歳だからお兄様にも友人のパトリックにも婚約者が居ないので何が正解なのかが分からない。


「今日の髪型もとても似合ってるよ、凄く可愛い」

「ありがとう御座います」


 イアンが褒めてくれたこの髪型はメイドが必死に縦ロールを伸ばした後、ツインテールの三つ編みにしてくれたもの。金色の刺繍の入ったリボンも付けている。


「リボンは私を意識してくれたのかな?」

「こ、これはメイドが……」

「リアは意識してくれないの?」

「……あ、うぅ、その、少しは」


 鏡の中の自分の姿を見て、リボンがイアンの瞳と髪の色みたいだなと思ったのは事実。戸惑って他のリボンに変えて貰おうかとしたけど、「似合ってますよ〜」ってメイドに押し切られた。


 恥ずかしくなって俯いてしまったエミリアの頭を優しく撫でてくれるイアン。


「ごめんごめん、まだリアには無理だったね。私の事は関係なしに本当に似合ってるよ」


 強気で押して来るだけかと思えば、サッと引いて無理強いをせず気遣ってくれるイアンの対応になんだか泣きそうになった。


(こんなの、惚れてまうやろ〜ってやつですわ)


「ほら、クッキー美味しいよ?」


 イアンが皿からクッキーを一つ摘んで、エミリアの口元へ持って来た。


 イアンが撫でてくれてた余韻でぽーっとしていたのでそのままクッキーを口にして、ポリポリと美味しくいただく。


 それを見ていたイアンが一瞬顔を背けて少しプルプルと肩先を震わせた後、再び「もう一つ食べる?」と耳を赤くしてクッキーを差し出してくれたので有り難くまたいただいた。


「ぐっ……ちょっとごめん」


 口元を押さえながらイアンが少し席を立ってエミリアに背を向けながら急に「すーっ! はーっ!」と深呼吸をし出した。小さな声で「可愛い、可愛い」と連呼してるのが聞こえるが、お兄様もよく同じ様な事をされるので男性陣のする事は良く分からないな、と思った。


(大丈夫かしら……)


 不思議に思いつつも暫く様子を見ていると何かが落ち着いたのか、振り返ったイアンはいつものキラキラエフェクトがかかったイアンだった。


「失礼した」

「いえ……」


 元に戻ったイアンはその後も目元を綻ばせながら何個かわたくしにクッキーを食べさせ、満足したのか


「とても素晴らしい時間を堪能させて貰った」


 と、わたくしの手の甲にキスを落として向かい側の椅子へと座り直した。


 手の甲にイアンの唇が触れた時はかなりドキッとした。


(あ、挨拶みたいなものですわ)


 ドキドキ高鳴る胸を必死におさえて誤魔化す様に紅茶を喉へ流し込んだ。


(婚約者がカッコ良すぎるのって、困り物ですわね。どうせならイモみたいな顔ならここ迄ドキドキしないかもですわ)


 けどイモみたいな顔の王子様ってのも、せっかくこんな世界に転生したのに何だか嫌かも。なんてちょっと失礼な事を考えてしまった。


「ん? どうかしたの?」

「いえ、殿下がイモじゃなくて良かったな〜って」

「イモ?」

「あ、ちょっと勝手な妄想話です」

「???」


 キョトンとするイアンの顔が可愛く見えてしまって、勝手に熱くなる顔にワタワタと慌てた。


「そんな顔までカッコイイだなんてズルイですわ……」


 思わず呟いてしまったエミリアの言葉をイアンが聞き逃す訳がなかった。


「良く分からないが、リアに褒められて嬉しいな」


 涼しげな表情で笑顔を振りまかれたものだから、ガッツリとキラキラオーラを浴びてしまったせいで倒れそうになった。


(あああ、誰かわたくしのドキドキを止めて下さいませ〜! ご、拷問ですわ)


 その後もイアンに何度もドキドキさせられながら過ごし、ドキドキ疲れで帰りの馬車ではもはや抜け殻になっていた。


(……王子様って怖い)

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